第13話「夢で会おう②」

 驚く俺を置いといて、管理神様の話は続いている。


『グレースちゃんは王都に居た頃は善悪が分からなかったのさ。上から目線が当たり前の派手な貴族暮らしは勿論、不幸な経験もして、周りが何も見えなくなっていたからね』


『…………』


『だが今、ボヌール村で地味でも平和に暮らすグレースちゃんは幸せだ。だから記憶を取り戻すと、これまでの事実を客観的に見る事が出来た。そしてようやく分かった……兄や弟が犯した重い罪を知り、自分自身も他人の幸せを妬み、罪を犯した事を認識したんだ』


『…………』


『父親は修道院に押し込められ、兄と弟は北方に送られ、グレースちゃんは天涯孤独となり、王家により家も取り潰される』


『…………』


『……更に不幸になるグレースちゃんを助けようとして、やむなく記憶を奪ったのに……それが原因でケン君が苦しんでいると知って……クミカの死さえもケン君自身が原因だと苦しんでいるのも知って……こみあげる感情に任せて君を想い激しく泣いたのさ』


『…………』


『そして気付いた、グレースちゃんは。自分がどうしようもないほどケン君の事を深く愛しているって』


 ああ、あああ……

 グレース! グレース!

 俺は……


『もしもケン君があのままグレースちゃんを放置したら、悪い奴に騙され、どこかの異国へ連れ去られ、悲惨な境遇で死んでいた。……それが彼女の運命だった』


『その事も……』


『ああ、全て教えたよ。いかにケン君がグレースちゃんの行く末を案じていたか、ちゃんと将来の生活費も工面して、手をつけず預かっている事も……ね』


『本当に全部なんですね……教えたの』


『だから全部教えたって、言ってるじゃない。神様は嘘を付かないよ~ん』


『…………』


『グレースちゃんが過去にした悲惨な辛い結婚も、全てケン君は知っているとか』


『…………』


『かつての義理の娘、ステファニーとのしがらみもあったから、最初はグレースちゃんと全然結婚するつもりじゃなかったとか』


『…………』


『グレースちゃんの人柄を知って愛し結婚して以降、消した記憶をゆくゆくはどうするのか悩んでいたとか、いくら極悪と言っても愛する嫁の兄弟を北の砦へ送って安否を気にしていたとか』


『…………』


『最後にケン君がこの異世界へ来た経緯いきさつも教えた。クミカの事やそれを自分のせいにしてすっごく悩んでいる事も含め諸々ね』


『…………』


『自分とケン君の過去を知って……グレースちゃん、君はこれからどうするのって尋ねたよ……』


『…………』


『そうしたら、答えた、グレースちゃんはすぐにね……自分と兄弟の犯した罪を認めた上で謝罪し、君の全てを受け止めたいと言った、はっきりとね』


『…………』


『僕は更に告げた。お互いが全てを知って、ふたりの未来が果たしてどうなるか? 結末は神の僕にも分からないよって……だから覚悟を持ってケン君と向き合うようにと。僕が言った事はギリギリまで絶対に内緒にしろって念を押してね』


『…………』


『ギリギリというのは僕の予言どおり、君がグレースちゃんの誕生石トパーズを買ってくれるまでって事』


『それで……あの時』


『うん! この白鳥亭に一緒に泊まるという事も分かっていたから、宝石を買ってくれた夜に既に自分の過去の記憶一切を知っていると、ケン君へ告げるように言ったのさ』


『そ、それで……グレースは何と?』


『うん! グレースちゃんは最後にこう言った。何があってもケン君とは絶対に離れない、君を信じ愛しているからって言い切ったよ』


 ああ!

 俺とグレースは……何と、同じ気持ちだった。

 お互いに自分の過去を乗り越えて、相手の過去も受け止め、より一層深く愛そうとしていたんだ。


 ……全てを知っても、相手を信じた。

 お互いの愛を信じた。

 だから離れ離れになるどころか、更に強い絆を結べたのだ。


『上手く行って良かったよ。まあ、大丈夫だとは思っていたけどね。君達が絆を紡いだお陰でグレースちゃんの馬鹿な兄と弟も助かったから』


『え? あの3人は生きているとは知ってましたけど……助かるって?』


 俺は北の辺境の地に送ったグレースの兄弟の行方はやはり気になっていた。

 彼女と結婚してからは余計そうであった。

 だからジャンに命じて定期的に調べさせている。


 でも助かるって言い切るのは……やっぱり。


『うん! 君達が愛の善行を積んだお陰であの馬鹿共も生きながらえる、まあ僕の加護と言えるかな。砦で戦死はしない、それなりに天寿をまっとうするよ』


『そう……なんですか?』


『ああ、そういう運命だから、安心して。詳しい事は言えないけどね』


 ああ、そうか……

 これが管理神様の判断と行使する力なんだ。

 でも、何故かホッとした。


『まあ当然ながら奴等に、犯した罪の償いはして貰う。ひとつだけ教えるならば、末弟の奴は自分がたくさんおもちゃにした女性の中のひとりに一生奴隷のように尽くさせる』


『成る程!』


『まあ今のは言わなくても良いけれど。3人が生き延びるってのは、まだグレースちゃんには言っていない。ケン君から良い報せだと告げてあげると良い』


 これって……確かに凄く良い報せだ。

 グレース……喜ぶだろうな。

 俺も心がすっごく……軽くなった。


『ああ、そろそろ時間だ。じゃあね! しあわっせに~、ばっはは~い!』


 管理神様、相変わらず別れの挨拶があっさりしている。

 でも今回は本当に感謝します。

 ああ、違う!

 今回も、か!


『ありがとうございます!』


 俺が管理神様へ感謝の気持ちを込めて御礼を言った瞬間、夢は覚め、意識は現実世界へ引き戻されたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る