第12話「夢で会おう①」

 グレースと、熱く激しく過ごした王都の夜……

 心身ともにたまった疲れが解消され、ホッとした安堵感からなのか……

 ぐっすり眠りこんだ俺は……夢を見た。

 ……場面は俺がこの異世界に転生して、初めて歩いていたボヌール村近郊の街道だ。


 大草原に伸びる一本道を、俺はひとりで歩いている。

 いつになく、リアルな夢であった。

 爽やかに吹く風が頬に当たり、踏み締める地面の感触が足から伝わって来る。

 

 と、なると次の展開は……


『は~いっ! おひさ~』


 ああ、来たっ。

 これは、念話だ。

 改めて見回しても、周囲には誰も……居ない。

 

 目の前に姿は見せず、声だけ魂に響いてる。

 いつもの軽いノリ、そしてこの声は……やはり……


『か、管理神様!』


『あったり~! 元気してたぁ? ケン君』


『はぁ……まあ何とか……でも初めてですよね、このパターン』


『ふふふっ、君の夢に僕が出て来る事? ああ、確かに君とは初めてだね』


 俺とは初めて?

 やっぱり、そうか!

 誰かの夢には、もう既に出たって事だ。


 管理神様は、俺の考えを見通しているに違いない。

 ケラケラと、面白そうに笑っているから。

 

 でも何か変だぞ。

 今迄より少しだけ、真面目な口調で喋っているもの。

 成る程!

 ピンと来た。

 今からきっと、大事な話をしてくれるのだろう。


『うふふ、これから僕が何を言うのか、ケン君は分かっているみたいだね~』


『ええ、分かっていますよ。管理神様がグレースに、ぜ~んぶ話したのでしょう?』


『うん! 昨日、教えちゃった』


 うん!

 って……あっさりと。

 でも助かった!

 それが今の俺の本音だ。


『ありがとうございます』


『あれ? ありがとうごさいますって……君、喜んでいるの?』 


『はい! 嬉しいです。もしも俺からグレースへ伝えていたら果たしてどうなっていたか……言い方とか、伝えるタイミングとか、どうしようか、とっても悩んでいたのです』


『へぇ、そうだったんだ』


『はいっ! 話の流れ次第では、俺……下手をすればグレースと離れ離れになっていたかもしれません。もしそうなったら生きていけないくらいダメージを受けていました……だから管理神様にはとても感謝していますよ』


 俺は正直な気持ちで、お礼を言った。

 感謝の気持ちが伝わったのか、管理神様は一層喜んでいる。


『あは! ホント嬉しい事を言ってくれるねぇ……だからつい君を助けたくなるんだよね。世界が君みたいな信心深い人ばかりだと僕もやり易いんだけどね~』


 信心深いか……

 そういえば、俺と関わった神様って皆さん、信仰心を上げるって事には拘っていた。

 神様の力って、人々が信じる力、信仰心がみなもとなんだろう。


 まあ、良い。

 これからの事もあるから、しっかり挨拶だけはしておこう。


『今後とも宜しくお願いします』


『うん、了解! でもさ、君はもう少しお嫁さん達を信頼した方が良いよ。本当に君の事をふか~く愛しているからさ……8人とも凄くいい子ばかりだよ』


『分かりました、もっと嫁ズを信頼します。そして、いい子達だってのは……ええ、日々とっても実感してます』


 何度も言うが、俺には8人嫁が居る。

 今住んでいるヴァレンタイン王国が、一夫多妻制を認めているからこのハーレム状態も可能なのだが、前世だったら『ふしだらな最低男』と後ろ指をさされるだろう。


『グレースちゃん、驚いていただろう? 何せ僕が言った予定通りになったから』


『予定通り?』


『うん! 君達が露店でご飯食べて、宝石店へ入ってお土産買って、最後にこの白鳥亭に泊まる事』


 ああ、何だ!

 管理神様の力で今日の行動は前々から決まっていたという事なのか?

 計算通りって事なの?


 俺は納得して、尋ねてみる。

 

『成る程! じゃあ今日の俺達の行動は全て管理神様が決められた事だったのですね?』


『それは違うよ』


『違う? だって……』


『いいや、違う。僕は予知はしたけど君達の運命自体は、いじっていない。元々専門外だしね』


 運命は専門外?

 そうか、管理神様は運命を司っていない。

 確か運命の神様が別に居るんだものなぁ……


『という事は……』


『ああ、君とグレースちゃんは再び結ばれる運命だったのさ。いや運命じゃないかも……ふたりが愛し合っていたからだね』


『…………』


 何か、こそばゆい。

 管理神様のセリフって、何かドラマみたいだから。


 そんな俺の感想を、管理神様はまたも見抜いたようだ。


『ははは、自分で言っても青臭いと思うよ。でもね君達の愛は本物さ。君はグレースちゃんの事で死ぬほど悩んでいたじゃないか。それも愛ゆえにって奴だ』 


『…………』


『おお、今の言葉も臭いね、すご~く臭い。ああ、どうしよう、あははは』


『同感です』


『お、言うね! でもさ、昨夜グレースちゃんに君の悩んでいる姿を見せたんだ、どうなったと思う?』


『……わ、分かりません』


『教えてあげる! グレースちゃんへ夢を見せて、彼女の失われた記憶とこれまでの経緯いきさつを教えたら……グレースちゃんはね、泣き叫んでいたよ、ダメダメって悲しそうに叫んで号泣していたよ、寝ながらね』


『え!!!』


 悲しそうに泣き叫ぶ!?

 号泣!?

 それって!

 最近は、いつもおっとりしているグレースが?


 確かにさっきは嬉しくて号泣していたけど……いつもはそんな事滅多にない……

 日々俺へ、優しい癒し笑顔を向けてくれるグレース。

 そんな彼女の変貌が、俺には全く想像出来なかったのである。

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