第13話「姑息な悪だくみ」

 サブリーダーは何やら、リーダーのバルナベに入れ智恵をするようだ。

 俺に聞こえないよう声を落とし、口をすぼめていた。

 

 ふふふ、こんな時こそ習得した能力スキル全開で行ってやろう。

 まず聴力を全開!

 これで遠くからでも奴等の内緒話は筒抜けとなる。


 俺に全てを聞かれているとは露知らず、リーダーのバルナベとサブリーダーは顔を付き合わせてひそひそと放し始めた。


 まずはサブリーダーが言う。


「バルナベさん、こうなったら奴を上手く丸め込んで……騙しましょう」 


「丸め込む? 騙す? 一体、どうやって?」


 あはは!

 やっぱりこういう話だ。

 奴等の「丸め込む」「騙す」って、一体どうやるのだろう?


 俺は笑顔で、引き続き話を聞いていた。

 サブリーダーは俺を「ちらっ」と見てから、バルナベに囁く。


「全員が一旦武器を捨てて奴に安心させてから、儲け話にひと口噛ませるとか言うのですよ、今回も利益は最低金貨一万枚は見込めるでしょう?」


「おお、そうだな、楽勝だろう」


 サブリーダーの提案に、バルナベは嬉しそうに頷いた。

 俺に追いつめられていたバルナベにとっては、最高の良案なのだろう。

 同意され、『えっへん顔』になったサブリーダーは、ぺろりと舌を舐める。


「こうしませんか? 奴にリーダー並みの分け前、金貨二千枚くらい渡すと言えばホイホイ飛びついて来ますよ、ぜひ混ぜて下さいって」


「ほう! 成る程、そうだな」


 ホイホイってさ、俺はあの黒いつやつやした虫じゃないんだから。

 簡単には飛びつかね~よ。


 また俺をちらっと見て、サブリーダーは仕上げの話に入る。


「当然、あんな奴に大事な分け前なんか渡しやしません。グリフォンの洞窟での仕掛けを奴にやらせて捨て駒にしましょう」


 グリフォンの洞くつで仕掛け?

 ふんふん、奴等何か策略を使ってグリフォンを倒すんだ。

 その仕掛け役を俺にやらせようって言うんだな?

 話が、見えて来たよ。


「そうか、奴を捨て駒に……巧い作戦だ」


「でしょう? 万が一、奴が生き残ったら……隙を見て一度に全員で襲い掛かって殺せばOKですね……領主に余計な事を告げ口されないよう確実に口を封じておかないと」


「おう、さすがティボーだぜ……抜かりがねぇ。やっぱり俺の懐刀ふところがたなだけの事はある」


「へへへ、バルナベさん、俺は使えるでしょう? ……上手く行ったら俺の分け前の方……色をつけてくださいよ」


「ひひひ、分かっているって」


 ふたりの密談は終わったようだ……といっても俺に対して全然密談にはなっていないが。

 君達の手の内はよ~く分かった。

 だから、俺はその上を行かせて貰うね。


「おう、そこの兄さん!」


 バルナベが俺を呼んだ。

 さっきの、あたふたした慌てぶりとは違ってえらく余裕だ。

 これで作戦はバッチリだと信じているのだろう。

 ……本当に馬鹿な奴。


 当然だが、俺はとぼけて返事を戻す。


「うん、何だ?」


「俺達は降伏する! 武器を今捨てる……それで俺達の誠意を示そう」


 誠意?

 何が誠意だよ。

 お前達の誠意=嘘だろう?


「ふ~ん、それで?」


「へへへ、拗ねるなよ……良い話だぜ、あんたにも俺達の儲け話にひと口噛んで貰うのさ」


「何だとぉ!」

「ふざけるな」

「馬鹿言え!」


 話が通っていないクランメンバーが、一斉に不満を爆発させた。

 自分達の分け前が減るから、至極当然の反応だ。

 

 しかし、こういう事は慣れっこらしい。

 リーダーのバルナベが、僅かにウインクをして悪だくみの意思疎通を行う。

 戸惑っていたメンバーが頷いた。

 顔を輝かせていやがる。

 これで悪だくみの情報は奴等の中で完全に共有出来たようだ。


「くう! リーダーの命令にゃあ、逆らえねぇ」

「糞! 悔しいが、仕方がないか」

「畜生!」

 

 あはは、完全に演技だ。

 全員顔が笑ってる。

 台詞も棒読み。


 こいつら、絶対にバレないとでも思っているのだろうか?

 これじゃあ、まるで三文芝居だよ。


 見れば、バルナベは自分の演技に酔っているらしい。

 俺が完璧に騙されていると信じているのだろう。


「と、いう事で兄さん、今から俺達は武器を捨てる……出て来てくれないかね」


 ここで俺はツッコミをする。


「分かった……その代わり武器は遠くに投げ捨てろよ」


 俺の意外な提案に、バルナベは目を剝いた。


「な、何!? 足元に落としゃ、良いじゃねぇか」


「ダメダメ! 俺は用心深いんだ……思い切り遠くへ、派手に投げてくれ」


「く、糞っ!」


 ギリギリと歯を鳴らすバルナベ。

 お~お~、、これじゃあ話を聞かなくても、裏があるって丸分かり。

 顔にはっきり出てるぞ~。

 本当に馬鹿でぇ~。


 しかしサブリーダーのティボーはまだ落ち着いているようだ。

 短気な髭リーダーを、しっかりと諭したのである。


「バルナベさん!」


「分かった! 分かったよ!」


 不承不承に頷いたバルナベは腰のロングソードを抜くと、思い切り遠くへ放り投げたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る