第12話「冒険者の野望」

「さあさあさあ!」


 俺は西の森の中で身を隠したまま、クラン挑戦者プローウォカートルのリーダーに迫っていた。

 この地へ、来訪した理由一切を明かすようにと。


「うううう……」


 しかし、リーダーの髭男は口籠っていた。

 喋るのを躊躇ためらっている。

 中々、話す決心がつかないようだ。

 見かねたサブリーダーが声を掛ける。


「バルナベさん……」


 ほう……

 バルナベっていうのか、この髭クランリーダーは。

 面倒だから名前なんて、どうでも良いと思っていたけれど。

 スペックだけは見たら、そこそこ強そうだけどさほど強いってわけでもない。

 油断さえしなければ良い。

 

 それより吐け。

 早くここへ来た理由を吐け、吐いてしまうんだ。 

 

 かつて俺は、この森へ進撃して来た魔王軍幹部バルカンへ禁呪を使った。

 その最終手段を使えば、心の中は勿論、魂の底まで読み取れる。

 しかし、俺がレベル99魔人である事をひけらかす必要はない。

 まあ、とりあえず普通にディベート的会話で自白させるのが良いから。

 

 黙ってしまったバルナベを、俺は容赦なく追い立てる。


「踏ん切りがつかないようなら、俺はもう行くぜ……エモシオンの町へ行く」


「ま、町だと? ま、まさか」


 バルナベは息をのんだ。

 俺が何をするか、想像したようだ。


「ああ、チクるんだよ、お前達の事を」


「な!? 何ぃ! チクるぅ」


「ふふふ、チクれば俺は結構な金を貰える。領主のオベール様はすぐに追っ手を掛けるだろう」


「くうう、追っ手!」


「そうさ! 俺は追手の衛兵達と同行して、お前達クラン全員を捕まえる。チクった褒美の金と合わせて結構な報奨金が出るだろうぜ、お前達のお陰で俺は左ウチワになる」


 俺の口上を聞いて、とうとう頭に来たのだろう。

 クランメンバーの戦士らしいひとりが、憎々しげに言う。


「バルナベさん、こんな辺鄙な地の田舎領主なんて関係ありませんぜ、無視しましょう!」


 領主を無視だと!?

 このヴァレンタイン王国は王様以下貴族には絶対的な権力を持たせ、逆らう者には厳しい。

 それを知らないのだろうか?

 何という馬鹿な奴。


 俺が感じた通り、さすがにバルナベも呆れたようである。


「馬鹿! そんな事したら俺達クランはこの国中のお尋ね者だ。のこのこ王都へ行ったら捕まって、中央広場の大勢の見物人の前で斬首されるか、吊るされる! 反逆罪と逃亡罪で死刑になるぞ」


 死刑!?

 とんでもない刑罰に、驚いた戦士が目を丸くする。


「う、うお!」


 叫んで言葉が止まった戦士。

 俺は、ここぞと畳み掛ける。


「さすがはリーダー。法律を良く分かっているじゃないか……さあ、どうだ」


「く、糞っ! わ、分かった、話す!」


「そうこなくちゃ!」


 おお、とうとう話す気になったか。

 しかしバルナベは唇を噛み締めている。

 相当悔しそうだ。

 まあ、俺のやり方は汚いから分かるけど。


「……ぐうう……俺達クラン挑戦者プローウォカートルは北から王都経由でこの地へ来た……俺はバルナベ、ランクBの冒険者だ」


「ふうん、ランクBか……」


 俺はこの異世界の冒険者ギルドの事は詳しくは知らない。

 しかしランクBなら、結構名の通った有名な冒険者だと思う。


「それで目的は?」


「……俺達は怪物を倒してお宝を頂戴する」


「怪物を倒して……お宝を?」


「そうだ! 俺達のターゲットは大物さ! ドラゴンやグリフォンなんだ」


 竜やグリフォン?

 ……成る程!

 読めて来たぞ。

 竜やグリフォンは大量の貴金属や宝石を溜め込む癖がある。

 こいつらは怪物を殺して、部位と共にお宝を奪う冒険者なんだ。


 しかし何も根拠が無かったら、遥か辺境の地なんかへは来ない。

 何か確実な情報があって、来訪したに違いないのだ。


「王都の売れっ子情報屋から高額で買った確実な情報なんだ。この森の洞窟にグリフォンが住みついたってな」


 王都の売れっ子情報屋?

 何でそんな凄い情報を得られるんだ?

 こんな辺境の地の森にグリフォンなんて……


 ええっと……

 俺は記憶を呼び覚ます。

 グリフォンは、ファンタジー世界では有名な存在だ。

 鷲の上半身と翼、獅子の下半身を持つ魔物で、知識と強さを示す象徴として貴族に人気がある。

 余談だが、オベール家の紋章もグリフォンなのである。


 でもグリフォンは結構な強者な筈。

 対して、このクランは……俺が見てもリーダー以下そんなに強そうではない。

 魔法使いや僧侶が居てバランスは良いんだろうが、どんな手を使うんだろう。


「俺達はグリフォンを倒し、奴の部位とお宝両方を手に入れる! その為に情報屋へ高い金を払った、絶対に成し遂げるんだ!」


 バルナベは熱く語っていた。

 話すうち、自分の言葉に酔ったらしい。

 でもさ、あんた。

 良く考えてみなさいって。


 バルナベはまだ陶酔してた。

 うっとりしていた。

 だから、俺は言ってやる。

 

「グリフォンを倒す……ふ~ん、恰好良いね。でもさ。この領地でそんな事をしたら違法行為になるよ」


「何故だ!」


 俺が悪戯っぽく言うと、バルナベはムキになった。

 何だ、さっき言っただろう?

 人の話を聞いていないのか?


「おいおい、俺がさっきも言っただろう?」


「???」


「お前さ、人の話を良く聞けって! この領地に居るものは例え魔物でもオベール様の所有物だから」


「と、ということは?」


「グリフォンを倒しても、違法行為。所詮、お前らはお尋ね者って事だ」


「く、くくく……くそ!」


「バルナベさん……ちょっと話が……」


 ここでクランのサブリーダーが手招きをした。

 ふたりで何か内緒話をするらしい。


 でも……

 俺は「にやり」と笑って、隠れたままバルナベ達を見守っていたのである。

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