第3話「のんびり行こうぜ」

 嫁ズは全員、俺がチートなレベル99魔人だと知っている。

 だけど何かにつけて、俺の安否をあれこれと心配してくれる。

 

 本当にありがたい!

 優しさ、思い遣りに涙が出る。

 そう、愛は勝つ!

 全てに勝るんだ!


 正妻のリゼットを筆頭にして、クッカ、クーガー、レベッカ、ミシェル、クラリス、ソフィ、そしてグレース。

 8人の嫁を持つ俺は、文句なく「リア充爆発しろ」状態である。

 傍から見れば、羨ましい事この上ないだろう。

 だから最近、移住した若い男子達は俺を目標にしていると聞く。

 

 現在のボヌール村も、俺が来た当時と状況は殆ど変わらない。

 未婚の美少女が圧倒的に多くて、若い男子はごく僅か。

 一見すると、男にとっては凄い天国状態。

 ヴァレンタイン王国では一夫多妻制が認められているから、頑張れば俺のように幸せをゲット出来るのだ。


 だが、このような異世界においても前世と同じというのが微妙。

 最近の若い男子は、引っ込み思案な草食系が多いと来ている。

 村の女子は総じて逞しい肉食系が多いから、大人しい男子はどうしても物足りなく映るらしい。

 

 なので、若者の数が増えても村の成婚率は全く上がらない。

 村長代理の俺としては複雑である。

 しっかりしろよ、男子! 

 と、ついはっぱをかけたくなる。


 嫁ズの中で草食系男子達の中から注目されているのは、断然クラリスだ。

 そしてクッカ、リゼットと続く。

 

 やはり大人しそうな清純美少女が、草食系には人気があるらしい。

 一見、口答えや喧嘩などしそうもなく、夫のいう事に素直に従うタイプに見えるのであろう。

 クッカやリゼットなんて本当は清純タイプとは違うけど、そんなこと言ったら俺を待つのは確実にデス


 話を戻すと……

 

 もっと早くボヌール村へ移住して、クラリスが結婚する前に知り合いたかった!

 俺が嫁にしたかった!

 

 という独身男子の声は圧倒的に多い。


「行ってらっしゃ~い」

「気をつけてね~」

「無理しないでね~」


 手を振る嫁ズへ、独身男子達から相変わらず羨望の眼差しが送られる中……

 

「おう! 行ってくるぞ!」


 嫁ズに応えて返事をする俺の耳に、犬猫の鳴き声が聞えて来る。


 ばうばうばう!

 にゃごにゃ~ご!


 今回一緒に旅をするのは、3人の従士達だ。

 ケルベロス、ジャン、ベイヤール……

 ベイヤール以外のふたりには家族が居る。

 俺の嫁ズ同様、見送りに来ていたのだ。


 ケルベロスには奥さんであるレベッカの愛犬ヴェガと子供達。

 そしてジャンには村の雌猫達が総出で見送っている。


 ばうばうばうばうばう!

 にゃ~ご、にゃごにゃご。


 俺に犬猫の言葉は分からないが、意思疎通は出来る。

 ケルベロスとジャンの家族は見送りするのは勿論、俺に対して主人の無事を頼んでいるのだ。


 俺は手を振って応えてやると、鳴き声は益々大きくなった。

 人間と犬猫の見送りを受けて、俺達は旅立ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 今回俺は、ミシェルから馬車を借り受けた。

 ベイヤールにハーネスをつけて曳かせ、俺が御者台に座り荷台にケルベロスとジャンが寝そべっている。


 ごとごと、のんびりと馬車は走る。


 今日も、ボヌール村は快晴。

 今は亡きミシェルのお父さんも大好きだった、ボヌール村名物のスカイブルーの大空が広がっている。

 雲ひとつ無いくせに風はそう強くなく爽やか。

 絶好の出発日和だ。


 とりあえず暫くは、のんびり行く。

 どこへ行くというアテもないから。

 周囲を見回って異常なしという結果だけ得られれば良い。

 

 但し、街道へ出るには村道を少し走らなくてはならない。

 この世界の道路は俺の前世のものとは全く違う。

 今、通っている村道だって草原に点在する雑木林の中を縫って走るような雰囲気で、当然 舗装などされていなくて草を踏み締めたようなものであり、獣道と同じと言って差し支えない。


 敵襲に備えて、当然索敵も発動している。

 人がたまに通る村道だからといって、100%安全ではない。

 村の附近にだって狼も出れば熊も出る。

 最近は魔物同様に、出没数はぐっと減ったが……


 15分くらい走っただろうか……

 そろそろ良い頃合だろう。

 何が良い頃合かって?

 周囲に他人や敵の気配が無いので、俺達は魔法によって変装するのだ。

 この異世界へ転生した際、正体がばれないように注意しろというクッカの教えは肝に銘じている。

 教えを忠実に守る俺は、外でそれも目立つ事をする時は素顔のケン・ユウキでは絶対に行わない。


「さあ、行くぞ」


 俺の合図に従士達は了解の意思を見せた。


変化ムータティオー!」


 俺の言霊が詠唱され、変化の魔法が次々に発動されたのであった。

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