第13話「虫相撲⑤」

 カブト虫を飼い始めて1週間後……


 生き物を飼う……

 このような事をすると、各自の性格が出やすいもの。

 

 クッカの娘タバサは一番、熱心に面倒を見ている。

 責任感の強さが、そうさせるのだろう。

 カブト虫の名前は……マクシミリアンだ。


 嫁ズも実の母親がフォローに付く動きを見せたが、ここで日頃の付き合いが反映された。

 タバサの母親はクッカだが、完全な虫NGだ。

 ここで協力を申し出たのが、ハーブ繋がりでリゼットとクラリス。

 農作業に慣れたふたりは、虫やミミズなど全然へっちゃらなのである。

 

 シャルロットは、母親似でマイペースな子だ。

 虫がまったく平気な母ミシェルが全面バックアップする。

 カブト虫の名前は……ナルシス。


 クーガーの息子レオには意外な協力者が現れた。

 新たな移住者カニャールさん一家のひとり娘アメリーちゃんがレオに協力してカブト虫を飼うと宣言したのだ。

 『恋人』が参加すると聞いて母親のクーガーはそっと身を引いた。(笑い)

 気を利かせて、小さな恋を応援しようというのだ。

 但しレオは、アメリーちゃんに対して彼女程ぞっこんではないようだが。

 レオが命名したカブト虫の名前は……ゴーチエ。


 イーサンは明るいが、忘れっぽく不器用。

 母親のレベッカは虫がNGなので、俺がフォローする事に。

 だけどこれまた意外な協力者が……レオの母親クーガーだ。

 最強パパと頼もしいドラゴンママの応援に気を良くしたイーサンは、カブト虫にロックと名付けたのである。


 しかし子供というのは、概して熱しやすく冷めやすい。

 1週間を過ぎる頃になって、タバサ以外の子達は少々飽き気味。

 カブト虫は芸をしてくれるわけでもない。

 それに犬などと違って、名前を呼んでも反応しないからだ。


 そろそろ……頃合だろう。

 俺はクーガーと相談して、あるイベントを開くことにしたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 某日朝食後、ユウキ家物置……


 俺は家族に集合をかけている。

 今回は家族以外にはレオの『彼女』、アメリーちゃんも呼んでやった。

 一応虫NGの嫁ズは除くという特例を設けたが、レベッカ達も入り口附近からおっかなびっくりで見守っていた。


 全員が集まったのを見て、俺は高らかに宣言する。


「いきなりですが、これからカブト虫の相撲大会を開きます」


「そうそう!」


 俺の開会宣言にクーガーが追随する。

 すもうなんて言葉自体聞いた事がないから子供達はちんぷんかんぷんだ。


「すもう」

「たいかい?」

「それなに?」


 クーガー以外の嫁ズも同様である。


「旦那様、一体何を?」


「カブト虫が何かやるのですか?」


「ああ、面白いぞ」


 俺は用意しておいた道具を取り出す。

 大きな丸太を輪切りにしたものであり、すなわち土俵だ。


「皆、カブト虫を連れておいで。飼育箱ごとそっと、大事にだぞ」


 俺の言葉を聞いた子供達がそれぞれ応援者に手伝って貰いながら物置の片隅から飼育箱を持って来た。


「よっし、じゃあイーサン。ロックを出してこの切り株にのっけてくれるかな」


「うんっ」


 イーサンはロックをつまむとひょいっと切り株に乗せた。


「じゃあ次はレオ。ゴーチェを同じように頼むぞ」


「わかった」


 二匹のカブト虫は、切り株の上で対峙する。


「よっし! じゃあまず俺とクーガーがやって見せるからな」


 クーガーと目配せした俺はタイミングを計って、カブト虫のお尻をそっと押した。

 すると!


 カブト虫達はさくさくっと前に進み、角を突き合わせて戦いを始めたのである。


「わあっ!」

「ああっ」

「す、すごいっ」


 子供達の歓声に混じって嫁ズも大きな声をあげる。


「迫力あるぅ」

「どきどきするわ」

「男の戦いって感じ!」


 激しい攻防戦のあと、ロックが角をゴーチェの下腹に入れて軽々と投げ飛ばした。


「「「「「「「「「「おおおおっ!」」」」」」」」」」


 湧き上がる大歓声!

 熱狂する観客!

 ユウキ家闘技場コロシアムは、興奮のるつぼに包まれている。


 勝ったロックは誇らしげに角を一振りした。

 まるで人間のように……

 当然イーサンは大喜びだ。


 しかし負けたゴーチェを見るレオの視線は厳しい。

 あまり性格を表面に見せないレオだが、内面に強烈な負けず嫌い気質を秘めているのだ。

 さすがにアメリーちゃんも、怒ったようなレオを見て気後れしている。


 俺は悔しさのあまり歯軋りまでするレオの頭を軽くぽんと手を乗せた。


「え? パパ」


 驚くレオ。

 俺は、にっこり笑って言う。


「もう一度やろう」


 俺は、ゴーチェを拾いあげてそっと切り株に乗せる。

 体力が失われたので、双方のカブト虫には治癒魔法をかけてやった。

 俺の治癒魔法は以前犬のヴェガにも効いたが、虫にも効果がある。


 こうして元気を取り戻した二匹のカブト虫は、再び切り株の上で対峙する。

 果たして!

 激しい戦いの末、今度はゴーチェが勝った。


「おおっ! ゴーチェ!」

「やったぁ!」


 喜ぶレオとアメリーちゃん。

 大人に手伝って貰いながらも、一生懸命世話をしたカブト虫の勇姿に声援を送ったのである。


 俺は、喜ぶレオに笑顔を向ける。


「ほら、負けても諦めず、次に勝てば良いのさ」


「……うん、パパ、そうだね。つぎにがんばればいいんだね」


 レオも晴々した笑顔を返してくれた。

 おお、何か息子の成長を感じるぞ。


 そして次にはタバサのマクシミリアンとシャルロットのナルシスが対戦してこれも一勝一敗ずつの五分。

 タバサは負けたことに悔しがったが、シャルロットは母ミシェルと共ににこにことしている。


「うん、ナルシス、がんばった」


「そうだね! いいよ、いいよ」


 シャルロットは、あまり細かい事を気にしない。

 くよくよせずに、切り替えが早い。

 ミシェルもそんな愛娘の性格を好きなようだ。


 いくら治癒魔法があるとはいえ、あまりいっぺんに相撲をさせるとカブト虫は疲れてしまう。

 ストレスも溜まるだろう。

 なので、好評を博した相撲大会はこれでお開きとなった。


 それから一週間、子供達は前にも増して一生懸命カブト虫の世話をした。

 相撲大会も二回ほど開かれ、大いに盛り上がったのである。

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