第6話「三竦み勝負②」

 俺とクーガーは新たな遊び『じゃんけん』の説明をしようとしている。

 居間に集まった家族の視線は、俺達ふたりへと注がれていた。


「じゃあ、説明するぞ」


 俺とクーガーが実際にやりながら説明するのが良いだろう。

 百聞は一見に如かずだ。

 

 まずは、手の形を説明する。


「ええっと、手の指を全部握るとグーというんだ」


 俺がそう言えば、すかさずクーガーがフォロー。

 手を動かして、分かり易く説明する。


「二本の指を立てたものがチョキ、手の指を全部開いたものをパーと呼ぶのよ」


 俺とクーガーが手の形を見せると、好奇心旺盛なクッカが聞いて来る。


「面白い! ぐ~って何の形ですか?」


 『ぐ~』は、と俺が再び拳を固めて見せる。

 

「ああ、石とか岩とかをイメージしてくれ」


「成る程! じゃあチョキとパーは?」


 続いて聞くクッカ。

 答えるのはクーガーだ。


「チョキは鋏、パーは紙よ」


「そうなんだ! 確かに似てる、納得!」


 クッカが頷いたので、俺は捕捉説明をしてやる。


「これは三竦みといって、お互いの力関係がある」


「三竦み?」


「岩は紙で包まれてしまう、紙は鋏でじょきじょき切られる、鋏で岩を切る事は出来ない」


「それで勝ち負けが決まるのよ。グーはパーに負け、パーはチョキに負け、チョキはグーに負けるって事」


 またまたクーガーが、俺をフォローしてくれた。

 ああ、表情が明るくなっている。


「あ、な~る」


 クッカが納得して、頷く。

 いきなり、ミシェルが手を挙げた。

 俺がOKすると、興味深そうに言う。


「旦那様、これって深い遊びだよね。全てにバランスがあってどれかが極端に強くないから、世界って上手く成り立っているんだと思うよ」


「おお、確かにな」


 ミシェルは、たま~に深い事を言う。

 でも、『たま~に』なんて言うと、怒られるからここでも余計な事は言わない。

 やはり、沈黙は金。


 やりとりを聞いていた、他の嫁ズも頷いたので早速実践だ。

 クーガーが音頭を取る。


「じゃあ、実際にやってみるよ。その方が分かり易いから」


「「「「「「「は~い」」」」」」」


「俺……やる」

「ボクも」

「わたしも」

「やるう~」

「ばぶうう」


 嫁ズと子供達が、俺とクーガーに注目する。


「じゃんけんぽ~ん!」

「ぽ~ん」


 俺とクーガーは早速じゃんけんした。

 結果は俺がパー、クーガーはチョキだった。


「ああ、負けた!」


「うっふふふ、やったぁ! 勝ったぁ~!」


 クーガーは、相当な負けず嫌いだ。

 勝負事は、何でも勝つと嬉しいらしい。

 でも、クーガーの久々の弾けるような笑顔を見れるとは……

 良かったぁ!


「ねぇ、旦那様、質問! もしも同じ手を出したらどうなるの? 例えばグーとか」


 手を挙げて聞いて来たのは、やはりミシェルだ。

 この遊びにとっても興味を持ったらしい。


「あ、ああ……それはね」


「は~い、はいはいっ!」


 俺が答えようとしたら、今度はミシェルの娘シャルロットが必死に手を挙げる。

 さっきから自分のママが喋っていて刺激されたのか、それとも自分のママの質問だからかなのか。

 シャルロットは、何としても答えたいらしい。

 懸命な表情が可愛さMAXなので、俺はOKして答えさせてやった。


 俺に許され、得意満面な笑みを浮かべて、シャルロットは言い放つ。


「ぐーとぐー、かつのはママよ!」


 おお、『あいこ』でもミシェルは勝つのか?

 これは、意外な答えだ。

 俺は理由わけを尋ねてみる。


「へぇ、シャルロット、どうして?」


「だってママ、ゲンコでいわ、わっちゃうから」


 一瞬の沈黙の後……


「あはははっ」

「うふふふふ」

「あ~ははは」

「ほほほほほ」


 湧き上がる笑い声。

 子供は、ママの様子を良く見ている。

 シャルロットの母ミシェルは空手を強力にしたような拳法の達人なのだ。

 確かに正解である。


「それだったら、パパとクーガーママもいしわるよっ! ふたりともすっごく、かっこいいんだよぉ」


 今度は、クッカの娘タバサが叫んだ。

 確かに、俺とクーガーもそれくらいは軽い。

 ミシェルと同レベルなら構わないだろうと、村内でも『それくらいの事』は、やる。


 タバサは長女。

 優しい子だけど、少し負けず嫌い。

 妹のシャルロットに、姉として何かと対抗したいようだ。

 可愛いな、ホント。


「うふふ、タバサありがとう!」


 クーガーが、タバサの頭を撫でている。

 これは珍しい事だ。

 滅多に子供を褒めないクーガーが、満面の笑みでタバサに礼を言っている。

 これにむくれたのが、クーガーの息子レオだ。

 普段は厳しい自分のママが、姉にとても優しいのを見て嫉妬したのである。


 こんな時は、俺の出番だろう。

 ママの代わりに、そっと頭を撫でてやると、レオは吃驚した。

 

 俺は、黙ってにっこり笑う。

 レオは、基本的に無口。

 そして幼いながら勘の鋭い子だ。

 俺の意図をすぐ理解したようである。

 「にかっ」と笑った。


 俺はこう言いたかったのだ。

 お前のママは普段は厳しいけど、家族誰にでも優しい素晴らしいママなんだって。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 『あいこ』も含めてジャンケンのルールが家族全員に認知されたので俺達はまた農地の片隅で遊んでみた。


 ジャンケンは、単純だが面白い。

 ケイドロやだるまさんに比べて、体力や特別な敏捷さが不要。

 子供達があっさり大人に勝てるので、凄く盛り上がった。


 そのうち、他の村民達も集まって来た。

 農作業中でも、一瞬にして勝負がつくのでお手軽だと評判になる。


 ここで俺は、ひとつ提案をした。

 ジャンケンは、いろいろな遊びへ派生させる事が出来る。

 まずは大流行したアレ……『あっち向いてホイ』だ。


 これ、ルールは簡単だし、すぐに覚えられた。

 クーガーとレオも親子で真剣勝負だ。


「じゃんけんぽ~ん! あっちむいてホイ!」


「あいこでしょ! あっちむいてホイっ!」


「うわぁ! 負けたぁ! レオ強いね!」


「あは! はじめてママにかったぁ」


「おお、偉いぞ、レオ!」


 ママに褒められて、得意満面なレオ。

 本当に嬉しそうだ。


 そして意外だったのは、超負けず嫌いな筈のクーガーである。

 息子にあっさり負けたというのに、快晴の大空のように爽やかな笑顔を見せていたのであった。

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