第5話「三竦み勝負①」

 俺とクーガーが伝授した昔の遊び『ケイドロ』や『だるまさんがころんだ』が、ボヌール村で定番の遊びとなった。

 

 すると、どうしても人数組み分けの必要が出て来る。

 大人はともかく、小さな子供は自分の好き嫌いで組み分けを決めたがるのはどこでも一緒だ。


 俺の8人居る嫁の中で、子供達から一番慕われて人気があるのはグレース。

 ソフィことステファニーが以前言っていたけど……

 オベール家の『まま母』は鬼……だったらしい。

 凄い豹変ぶり……だと。

 だけど、そんな事を言ったら確実に『殺される』から沈黙は金。


 まあ冗談はさておき、本来グレースは優しい女性。

 品のある美人で、可愛らしい。

 そんなグレースが子供達から人気があるのは、一番年上で落ち着いているから?

 しっとりしているから?

 

 理由は……俺にもよく分からない。

 

 だけど俺達と一緒に遊べる3歳児軍団タバサ、シャルロット、レオ、イーサンの4人はやたらグレースと組みたがる。

 組めなかった子は悔しがる程、好かれている。

 中には悲しくて、泣いてしまう子だって居る。

 

 逆に子供達から一番の不人気ママは、クーガーだ。

 元女魔王のクーガーは、『ドラゴンママ』と子供達から陰で渾名され、とても怖れられている。

 

 理由は、はっきりしている。

 クーガーは自分の子供に限らず、スパルタ教育を徹底するから。

 躾には厳しいし、必ず礼儀作法を守らせる。

 『おいた』をしたら、容赦なくお尻ぺんぺ~ん。

 子供がお仕置きされる場面を目撃したソフィが、怖がったのは内緒。

 昔、エモシオンの町で俺に尻を叩かれた事を思い出したんだって。


 しかし俺としては、子供達にいろいろな人と触れ合って遊んで欲しいと願う。

 グレース以外の、いろいろなママ達と遊んで欲しい。

 

 そこで思いついたのが『ジャンケン』の導入である。

 こんな簡単な事が、何故思いつかなかったのは失敗。

 もっと早く導入しても良かったが、今からでも遅くはない。


 丁度、居間で椅子に座っていたクーガー。

 何か、考え事をしているらしいが。

 早速、相談しよう。


「クーガー、良いかな? 組み分けの方法でジャンケンを導入しようと思うんだけど……」


「ジャンケン? ふ~ん……」


 俺が話し掛けてもクーガーの反応はいまいち……上の空だ。

 彼女が、最近悩んでいるのは知っている。

 自分の教育方針が本当に正しいのかどうか、迷っているらしい。


 実の息子であるレオにまで、遊びの組み分けで避けられる。

 さすがにそこまでとなれば、自分のやり方に不安が出るのは当然であろう。


「ねぇ……旦那様、私って……子供に厳しすぎるのかな?」


 暫し経って、俺の顔を切なく見たクーガー。

「ぽつり」と呟いた。

 いつものクーガーと違って、横顔がえらく寂しそうだ。


 あれ?

 鬼のかく乱?

 ノー、駄目だ。

 馬鹿言ってちゃ。

 こんな時は、優しく慰めなきゃ。


「いや、俺は厳しさも必要だと思うよ」


 慰めだけではなく、俺はクーガーの教育方法を否定しない。

 子供をただ、甘やかすだけでは絶対にいけないと思っている。

 叱って、世の中の事をちゃんと教えてあげないと。

 子供が、後で苦労するだけ。


 『汚れ役』とまではいかないが、誰かが叱り役をやらなくてはならない。

 しかし、言い方や表情、そしてタイミングは大事だ。


 俺が肯定しても、クーガーは不安なようである。


「……でも」


「大丈夫! 言葉の加減や伝えるタイミングの問題なんだろうな。俺達は全員子育てが初めてじゃないか、全てが勉強さ、勉強」


「そうなのかなぁ……」


「ああ、試行錯誤して良い。何かあったら相談しろよ、いざとなれば俺が全部引き受ける。子供達の嫌われ役になってやるさ」


「あ、ありがとう! やっぱり私の旦那様だ。でもさ、ひとりしかいないパパが嫌われたらまずいよ」


「そうか? カミナリ親爺は怖いくらいで丁度良いぞ、ははは」


「あはは、カミナリ親爺って、じじむさい。旦那様はまだ18歳でしょ? 何か可笑しい」


 クーガーは悩みを打ち明けてホッとしたらしい。

 で、あれば早速ジャンケン普及の実行だ。


「クーガー、ジャンケンの導入やろうぜ」


「了解!」


 と、いうわけで復活したクーガーが呼び掛けて、早速ユウキ家全員集合となった。

 『ケイドロ』『だるまさん~』がバッチリ受けたので、嫁ズの目が輝いている。


「今度はどんな遊び?」


「楽しみ!」


「子守りしながらとか、出来る遊びが良いなぁ……そうだ、雨の日でも出来る?」


 ああ、雨の日か、成る程!

 屋内での遊びもこれから開拓しなければ。

 しかし今回のジャンケンは屋内外兼用だ。

 いうなれば、水陸両用車みたいなものだな。


「ああ、出来る! 今回教えるのはジャンケンだ」


「ジャンケン?」


「何それ?」


「聞いた事ない!」


 確かにそうだろう。

 ここは異世界で地球の中世西洋ではないが、それっぽい雰囲気の村だ。

 一説には、ジャンケンは東洋発祥だといわれているから。


 何か、盛り上がりそうな予感がする。

 集まった嫁ズへ、俺は期待してにっこりと笑顔を向けたのであった。

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