第4話「捕まっちゃった!」
『だるまさんがころんだ!』は、子供の頃遊んだ懐かしい遊びである。
俺の前世……
住んでいた地球では、日本だけではなく海外でもたくさんあるらしい。
『だるまさんがころんだ!』に良く似た遊びが。
だが、この世界に住む嫁ズは『だるまさんがころんだ!』を全く知らなかった。
なので俺とクーガーは交互に話しながら、ルールを簡潔に説明して行く。
「まず『鬼役』を決めて、鬼役が居る場所も決める。木の前や壁際が適しているだろうな」
「ケイドロほど、広い場所じゃなくてもOKよ」
ふんふんと、嫁ズは納得して頷いている。
「次に鬼役以外の他の子が『はじめのいっぽ!』と叫んで一歩前に進む。鬼役は他の子と反対側に身体を向ける」
「鬼役は『だるまさんがころんだ』と言いながら後を振向くのよ。他の子は鬼役が反対側を向いている時にしか動けない、少しずつ鬼役へ近付くの」
「ダーリン、そ~っとだね。まるで、その遊びって獲物に近付く狩人みたい」
レベッカには、そっと動く様子が何となく想像出来ているようだ。
「ははっ、確かにな。鬼役は言葉の速度に緩急をつけながら、他の子の様子を見る。もし誰か、身体が動いている人が居たら、名前を呼んで捕まえるのさ」
「でも……動いていないよ! とか言い張る人が出そう……」
突っ込むリゼットの心配は……尤もである。
確かに、それで良く揉めるからなぁ……
ここは、俺がフォローしよう。
「私は絶対に動いていないわ! とか抗議も出そうだけど、鬼役には素直に従ってくれ。そして鬼役になった者は判断する際には公正にやる事。出来るだけ揉めないように遊んで欲しい」
俺がそう言うと、クーガーも助けて補足してくれる。
「捕まった人は、鬼役と手を繋いで傍に立つのよ。鬼役が参加した人を全員捕まえたら、勝ち。最初に捕まった人と鬼役を交代するの。逆にひとりも捕まらずに誰かが鬼役にタッチしたら、鬼役の即負けになるわ」
「えっと、それって、呆気ないですね……鬼役の子に触るだけでOKなのですか?」
おずおずと聞くクラリス。
でも、俺は知っている。
ケイドロをやっている時のクラリスの目は、キラキラ光っている。
普段の大人しいクラリスと思えないくらい、夢中になっているのだ。
「そうだよ、他の子が『きった』と言って鬼役にタッチしたら、鬼役は反対側を向いて『だるまさんがころんだ』と言わなくてはならない。その間に参加者は出来るだけ遠くに逃げるんだ」
「ケイドロ同様、捕まっている参加者が居たら、一緒に解放されるの。鬼役が「だるまさんがころんだ」と言い終わったら、振向いて「ストップ」と声を掛けて参加者の動きを止める」
「衛兵と一緒かぁ! スタ~ップ!!! こうよね」
ミシェルが、悪戯っぽく笑う。
彼女はケイドロでも、追いかける衛兵役をやりたがる。
「鬼役にタッチした者が鬼役の動く距離を決められる。小さく何歩とか、大股で何歩とか……鬼が歩いてタッチ出来る参加者が居れば、タッチされた者が次の鬼になる、交替って事だな」
「公正さを保ったり、円滑に進める為にローカルルールが結構あるのよ。場所によって結構ルールに違いがあったりする。喧嘩にならないようにおいおい決めていけば良いわ」
これで、ルール説明は終了した。
後は、子供達にも分かり易く教えないと。
「旦那様! 私、思いました!」
手を挙げたのは、グレースことヴァネッサだ。
『グレースママ』はケイドロでは、子供達から人気ナンバーワン。
他の嫁ズには、とっても羨ましがられている。
本人は、とても幸せそうだ。
「ええっと、ルールを決めて守る事が、子供達の教育にもなりますよね、これ」
「あ、私もそう思います! グレース姉の言う通り!」
すぐに手を挙げて賛成したのが、ソフィことステファニーだ。
昔は母だったヴァネッサとはいがみ合っていたのが、今や嘘のように仲が良い。
「よっし、今日からすぐにやろうか?」
「「「「「「「「賛成!!!」」」」」」」」
「さんせい!」
「さんせ~い」
「しゃんせい!」
「やる!」
「ばぶう」
「あぎゃ~っ」
傍らの子供達もママ達の様子を見て調子を合わせる。
泣き出す子も居て、我が家は今日もにぎやかだ。
さあ、『だるまさんがころんだ!』をやろう!
俺達は早速、支度を始めたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おらっ、レオ! 身体が動き過ぎだっ!」
「そうだよ! イーサン、何そのへっぴり腰はっ!」
クーガーとレベッカから容赦ない叱咤の声が飛ぶ。
ふたりは『だるまさんがころんだ!』を少し遊ぶと、将来狩人になる訓練に最適だと思ったようだ。
「ほら、イーサン! パパを兎や鹿だと思って、忍び寄るんだ!」
「レオ、パパが兎みたいに可愛くないのは我慢するんだよっ!」
おい……
クーガーの奴、どさくさに紛れて何言っているんだ。
まあ、良い。
俺は、ずっと鬼役を買って出ている。
子供達全員の訓練になるからと、嫁ズに説得されて納得したのだ。
「言ってろ、 もう! どうせ、俺は可愛くね~よ。 だるまさんがころんだっ!」
苦笑しながら、急いで遊び言葉を言い放つ。
他の嫁ズは、笑うのを必死で
あ、動いたぞ!
「クッカ! 動いたぞっ!」
「あううっ、しまったぁ! クッカ捕まりましたあっ!」
捕まった割に、クッカは嬉しそうに駆けて来た。
喜ぶ理由を、俺は知っている。
俺と合法的に手を繋げるからだ。
「うふふ! クッカは、旦那様に一生ず~っと捕まりましたよねぇ」
クッカは、素早く俺に「ちゅっ」とキスをして囁いた。
「旦那様、だ~いすきっ」
「俺もさ」
笑顔でクッカに返した俺は木の方へ身体を向けると、また遊び言葉を叫んだのであった。
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