第9話「虫相撲①」

 あっという間に春も過ぎ、気候が徐々に暑くなりまもなく夏。

 季節が変わっても、相変わらずボヌール村は平和である。

 天候に左右されながら、皆一生懸命働く日々が続く。

 そんな毎日の繰り返し。


 俺達の生活も平々凡々として、さして変化はない。

 しかし、それが一番。

 転生前の俺が望んだ以上の生活だし、素晴らしい家族も居る。

 いつも笑顔が、絶えない。

 誰もが幸せいっぱいだ。


 俺の嫁ズは8人も居るが、基本的には全員仲が良い。

 まあ生身の人間だから価値観の相違はあるし、たまには小競り合いもある。

 所詮、口喧嘩レベルではあるけれど。

 

 喧嘩の理由は、「家族の為に私はこうしたい」という方法に対する考え方の相違が殆ど。

 口論になったら散々話し合い、最後にはお互いの本音を伝える。

 大抵は、相手の考えや思いを理解し合って無事に仲直り。

 原因が原因だから、遺恨はほぼ残らない。

 

 ちなみに俺が中和剤というか、喧嘩の際のいじられ役になる事も多い。

 逆に、それを進んで引き受けている感もあるのだが。


 ところで派閥ではないが、仲が良い嫁同士も多い。

 

 まずはハーブ好き繋がりの、クッカとリゼットがあげられる。

 エモシオンの町へ行って以来商売に目覚めてしまったクラリスと師匠役のミシェルも意外な組み合わせ。

 ソフィことステファニーとグレースことヴァネッサも凄いと思う。

 過去を乗り越えて、お互いを理解し合ったから。


 ところで、女子なのに充分男前なクーガーの一番の仲良しは誰か?

 意外にも双子?の片割れであるクッカではないのだ。

 

 答えは……

 性格的にも、良く似たレベッカである。

 ふたりとも、さっぱりした姐御肌。

 同じ年の息子がいて、教育は徹底したスパルタ主義というのも共通している。

 将来、息子を村の戦士兼狩人にしたいという夢までも一緒だ。


 そんなある日、クーガーとレベッカから提案があった。


「ねぇ、旦那様。そろそろレオに村外で狩人の訓練をさせたいのだけれども」


「そうそう、ダーリン。イーサンもね」


 レベッカも同調する。

 「びしばし息子を鍛えてやるぜ!」という気迫がにじみ出ていた。


 しかし村外となれば、危険はある。

 オーガやゴブなどの魔物は激減したがたまに出没するし、狼や熊も健在だ。

 肉食獣ではない猪だって、苛立てば立派な猛獣となる。

 知る人ぞ知る、猪が持つ牙はカミソリ並みの切れ味なのだ。


 そんな心配が先に立って、父親の俺の方が及び腰。


「大丈夫かな? レオもイーサンもまだ小さすぎるんじゃない?」


「旦那様、大丈夫! 理屈をぐだぐだ言うより、早く実戦で覚えた方が良いから」


「そうそう! ダーリン、クーガーの言う通りよ」


「完全無敵な旦那様と、その次に強い私とレベッカ、そしてケルベロスとその一党も連れて行くから」


 ああ、強力なクーガー&レベッカ連合。

 到底敵わない。


 俺が完全無敵とは褒め過ぎではあるが、確かにクーガーとレベッカが居れば安心。

 更にケルベロス達が加われば、鬼に金棒ではある。


「分かった、じゃあ、前向きにいろいろ段取りを考えようか」 


「よっし! ありがとう、旦那様」


「うふふ、ダーリン、サンキュー。それにヴェガの子供達も、とうとうデビュー戦だね」


 レベッカが嬉しそうに笑う。

 俺に子供が生まれてから、まもなくケルベロスとレベッカの愛犬ヴェガもつがいとなった。

 

 ケルベロスは普通の犬ではないと一応は伝えてはいるが、レベッカは知らない。

 ジャンと同じ妖精の犬くらいに思っている。


 だが、ケルベロスは怖ろしい姿をした魔物。

 実体は首が3つに尾が大蛇。

 レベッカが知ったら、必ず卒倒してしまうだろう。


 片やケルベロス。

 普通の犬であるヴェガと一緒になる事に相当悩んだようだが、結局は結婚した。

 主や仲間の居るこのボヌール村で平穏に暮らす事を選択したのだ。


 やがて……

 ケルベロス夫妻にも子犬が何頭も生まれ、レベッカが可愛がりつつ猟犬の訓練を施した。

 レベッカと、父である魔犬の指導を受けて子犬達は逞しく成長。

 その子犬達もまだ村外に出た事がないとあって、この際俺の息子達と一緒に訓練させようという腹づもりらしい。


 レベッカの言葉を聞いたクーガーが頷く。


「うん、外敵の襲撃は要注意ね。私と旦那様で索敵の魔法も欠かさないし、ケルベロス達にも警戒させる。万全の警戒態勢にするから」


 しっかり、対策は考えてあるという事か。

 レベッカも追随する。


「ダーリン、聞いて、場所も考えてあるの。東の森前の草原限定でやろうと思ってる」


「成る程」


「うん! 旦那様のお陰で魔物は殆ど居なくなったけど、さすがに森の奥へ入るのは避けようってクーガーと話したの」


 どうやら俺へ話す前に、クーガーとレベッカで綿密な打合せがされたようだ。

 ここまで言うのなら、万全を期すという条件で嫁達の気持ちを尊重しよう。


「分かった、他にも安全の為には打てる手を打とう」


「うん! もっともっと考えるわ」

「そうよね、ダーリン。万が一何かあったら、まずいじゃ済まないものね」


 よっし!

 これで、訓練実施決定だ。


「子供達の訓練の目標は、何か立てるの?」


 俺が聞くと、クーガーとクッカが顔を見合わせる。

 どうやら既に考えていたようだ。


「最初の課題は狩りの雰囲気になれて貰う事。それと弓とナイフの使い方と武器自体の注意の徹底ね」


 おお、クーガー、それって凄い高難度じゃね?

 相手はまだ幼児なのに、大丈夫かな?


 レベッカは狩りの手順を、実際に子供へ見せようと提案する。

 

「獲物は兎10羽を私達3人で狩る……息子達への手本には丁度良いし私とダーリン、クーガーの3人だったら楽勝でしょ」


「OK! じゃあ天気の良い日を選んで行くぞ。クッカやリゼット達にも事前に伝えておこう」


「「了解!」」


 こうして……

 ボヌール村所属の、小さな狩人達のデビュー戦が決まったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る