第10話「虫相撲②」
クーガーの息子レオ、レベッカの息子イーサンが狩人訓練へ出発する日……
時間はまだ早く、朝の五時。
しかし俺の家族は、全員で見送ってくれている。
その中に、家族以外の親子3人が居た。
村の新しい住人カニャールさん一家だ。
ご主人のシリルさんがボヌール村の噂を聞き、奥さんのマドレーヌさんと娘のアメリーちゃんを連れて移住して来たのである。
カニャールさん一家が来てまもなく2ヶ月……
俺達がフォローしたせいもあって、一家は違和感なく村に溶け込んでいた。
シリルさんとマドレーヌさんはまだ20代半ばとあって俺達とは結構話が合ったし、何よりも仲がよくなったのがクーガーの息子レオと同年齢のアメリーちゃんだ。
子供ながら寡黙で硬派なレオが、何故もてたのかは分からない。
だけどアメリーちゃんは、レオにぞっこんな様子で毎日遊びに来た。
可愛い女子に惚れられたレオ自身はあまり変わった様子を見せないが、悔しがるのはレベッカの息子イーサンである。
「ううう、アメリーちゃん! ぼくともあそぼうよ」
「ううん、わたしレオがいい」
こうして、レオとアメリーちゃんはあつあつカップルとなってしまったのだ
閑話休題。
そんなこんなで、俺達は出発した。
家族の声に混じって、アメリーちゃんの可愛い声が響く。
「レオ~、がんばって~!」
がっくり項垂れるイーサン。
ああ、イーサンの奴、早くも人生の悲哀を味わっている。
こうなると俺は、心情的にイーサンを応援したくなる。
村長代理特権を使って、イーサンと同世代の村の女の子を我が家へ呼ぶ。
新たな移住者の、アメリ―ちゃんみたいな娘さんが来たら、イーサンへ大いにプッシュ。
そう、決めたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
今日の行き先は俺が狩人デビューした東の森の前の大きな草原だ。
村を出るくらいまでイーサンは元気がなかったが、徐々に元気を取り戻して来た。
俺もイーサンをケアしてやる。
「イーサン、これから行く場所はな、パパも初めて狩りをした場所なんだ」
「パパも!?」
「ああ、そうだ。パパは最初にお前のママから全部教えて貰ったのさ」
「えええっ! さいきょうのパパが!?」
おお、さいきょうのパパと呼んでくれるのか!
嬉しい事言ってくれるじゃないか。
隣に居る、凶悪なドラゴンママと比べてどっちが強いのか、思わず聞こうとしたがやめておく。
「ママって、すごいんだね!」
イーサンは驚きの表情のままレベッカを見る。
「うふふ、まあね。私がパパに弓矢の使い方を教えたのよ」
レベッカは、笑顔で胸を張る。
彼女も思い出しているのだろう。
俺と出会って、何とか一緒になりたい一念で告白したあの日。
そして結婚を意識して、一旦駄目になりかけて立ち直ったあの日の事を……
「おおっと、話している間に兎が居たよ!」
ドラゴンママことクーガーの動体視力は、抜群だ。
かなり遠くからでも、草原で兎が走るのを捉える事が出来る。
「よおっし! 狩りを始めるぞぉ! レオ、イーサン、見てろよぉ」
「「「「おお~っ!」」」」
1時間後……
「パパ、ママすご~い!」
「すごいよぉ……」
歓喜の声をあげるイーサンとレオ。
俺とクーガー、レベッカの3人は弓矢を使って既に11羽の兎をしとめていたのである。
当然ながら俺達が使っている弓の怖さをしっかり教え、子供達にはまだ触らないように厳命した。
血抜きをする際に使ったナイフに関しても同様である。
そして獲物の兎が、俺達を生かす為に命をささげる事もよく言い聞かせる。
幼い子供だからすぐには分からないかもしれないが、このような積み重ねが大事なのだ。
「あそこに鹿が居る……」
新たな獲物を見つけたのはまたもやクーガーだ。
東の森の手前の小さな雑木林に鹿の小さな群れが居たのである。
「よっし! あの場所なら良いだろう」
俺達は兎に続いて鹿も狩ったのであった。
安全を確認し、ケルベロス一家にも警戒させ、俺達は倒れた鹿を回収しに雑木林に近付いた。
「早速、血抜きをするよ」
クーガーが早速、ナイフで血抜きの処理をする。
先程も兎を狩る時に行ったが、獲物が死ぬと血に細菌が入り込み、臭いが発生して鮮度にも影響を及ぼす。
血抜きとはそれを避ける為にとられる方法だと転生する前に聞いた。
周囲に危険がなければ、内臓も即座に処理するのがベスト。
「お~い! ふたりとも、あまりちょろちょろしないでね」
レベッカが、子供達へ注意をする。
しかし、ママがいくら注意しても子供達は好奇心の塊だ。
ちょろちょろは絶対に止められないから、俺がしっかり見張る。
そして……
「あ~っ!? なにこれっ!?」
「きにへんなのがいるよ!」
レオとイーサンが、大きな声を上げた。
いつもは冷静なレオが、珍しく興奮している。
一体、何だろう?
「うわっ!?」
子供達の指差す木の幹を見て俺も思わず大声をあげた。
幹には、何匹も見覚えのある虫がひっついていたからである。
そこに居たのは……何と!
この異世界に絶対に居る筈がない、日本のカブト虫達であったのだ。
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