第4話 「逆恨み」
寄り親の、ドラポール伯爵家と縁を切る。
長年世話になったのか?
今迄どのような付き合いなのか?
俺には貴族の主従関係はあまり分からないが、オベール様にとっては丁度良い
日頃から無理難題を言われ、ステファニーの件で不満が頂点に達していたからこれ幸いである。
平時なら絶対に無理でも、王国から下された相手の処罰後というどさくさ紛れ。
寄子が皆一緒に、や~めたという感じ。
だから、平気だったようだ。
「だがな……こうなると伯爵家が凋落した原因を作ったのはどこの誰だという話になる……」
「不埒男ウジューヌが、馬鹿やってたせいでしょう?」
「いや違う……王都の噂では原因が私とステファニーだと、ドラポール家では毎日呪詛の言葉が吐かれているそうだ」
何、それ!
とんだ逆恨みじゃね~か。
ジャンの調べじゃ、元々ドラポール家の王家における評判は最悪だった。
真の原因は、変態好色男のウジューヌだろう?
奴がやらかした、鬼畜な所業へ天罰が下ったのに何を言っているのか。
※第94話参照。
百歩譲ってあの事件がきっかけだとしても、直接手を下したのは謎の暴漢=俺。
オベール様が犯人だという繋がりはどこにもなく、
所詮、伯爵家の警備が不十分で、娘を奪われたんじゃないか。
オベール様に対して、伯爵家が詫びる立場じゃないのかよ。
被害者のオベール様は同情はされても、どこをどう考えれば没落の原因になるんだ?
まあ、王都の腐った上級貴族ってしょ~もない奴等だから、普通の常識など通用しないのだろう。
俺がつらつらそう考えている間も、オベール様の渋面は続いている。
「その上、ヴァネッサも私を怨んでいるらしい」
「ヴァネッサ?」
俺の知らない名前……
誰だろう?
「ドラポール家の長女で私の前妻だよ。田舎が嫌で勝手に出ていった癖に、私が今このように幸せなのが許せないようだ」
ああ、ステファニーと犬猿の仲だった例の『まま母』さんか。
ステファニーは俺との会話で、彼女の事を名前で呼んだ事なんてなかったから。
オベール様に改めて話を聞けば、まま母さんは王都で純粋培養されたお嬢様だったみたい。
なので、最初から田舎暮らしには馴染めなかったようである。
ステファニー誘拐の件で、オベール様がドラポール家への文句をほんの少しだけ? 言ったら、これ幸いとばかりに離婚を申し出たそうだ。
「ドラポール家が、私を追い落とす原因をでっちあげている」
「追い落とす原因?」
「ああ、そうだ。私にこの地の領主不適格のレッテルを貼り、遥か北の魔境砦あたりへ左遷させようとしているらしいと、王都に居る後輩から連絡があった」
ふ~ん。
オベール様も、貴族の端くれ。
独自の情報源は、持っているって事だな。
「ヴァネッサが離婚する際に護衛で付けた我が家の従士達は、勝手に当家を離れてしまった。仕方無いから解雇したが、最近奴等が戻ってこのエモシオンに入り込んでいる」
「へぇ、裏切った奴等が戻って来たんですか」
「ああ、とんでもない奴等だよ。市場で商品や接客に難癖をつけたり、衛兵の見ていないところで恐喝を働いたり、町をやんわりと荒らしているのだ」
ヴァネッサとかいう元奥さんも、中々の相手だ。
オベール様の従士の大半を取り込んだ話術で、ドラポール家凋落の原因がオベール様のせいだと吹き込んでいるのだろう。
元従士達は、自分達の不幸全てがオベール様のせいだと思い込むに違いない。
それにしても、今やっているのは狡猾なやり方だ。
派手にやれば当然牢屋行きだろうが、摑まる一歩手前くらいで目立たないようにじわじわやるとは。
こうしてオベール様の悪い評判を王都だけではなく、地元エモシオンの住民にも伝えて行くのだろう。
「郊外では最近山賊や強盗が増えた。証拠はないが、ウジューヌあたりが雇った冒険者か傭兵の食い詰めた連中かもしれない」
う~ん。
郊外でも山賊&強盗が横行しているのか……
これは、まずい。
そんな奴等が増えてエモシオンは勿論、ボヌール村の人が襲われでもしたら一大事だ。
「分かりました、こちらでも調べた上で対処します」
「ああ、頼むよ。本来は新しい寄り親に相談するのが筋だとは思うが、まず自助努力によって結果を出せと仰りそうな方だから」
ふ~ん……
新しい寄り親様って、少々面倒見が悪いようにも思えるが……俺の知らない貴族社会ではいろいろとあるのだろう。
俺は他にも話を聞いた上で、オベール様と共に嫁ズの下へ戻ったのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ここはオベール家城館客間……15畳くらいの続き部屋が3つ。
ふかふかベッドに、渋い調度品が置かれていた。
前世でいえば、ホテルのスイートルームってところ。
俺と嫁ズが、暫く寝泊りする部屋となる。
「と、いうわけなんだ」
オベール様から聞いた話を嫁ズにすると、各自の反応は様々であった。
当然ながら、烈火の如く怒ったのがソフィこと、ステファニーだ。
因縁の相手が、またもや悪事を働いているから、無理もない。
身体をぶるぶる震わせて、大声で叫ぶ。
「ヴァネッサめぇ! あの女ったら、自分が幸せになれないものだからぁ。それにウジューヌのキモオタデブめぇ」
ああ、怒りから来るとはいえ、すっごい罵倒の言葉。
いつもの可憐で、優しいステファニーが壊れて行く……
俺は、慌ててステファニーを抱き締める。
「おいおいステファニー、大丈夫だ。俺達で解決しよう」
「くうう……」
ステファニーの背中を優しく撫でてやる。
俺の癒しでクールダウンしたようで、漸く身体の震えが止まって来た。
ミシェルとクラリスも、顔をしかめている。
貴族社会のどろどろに触れて、うんざりした表情だ。
「旦那様、やっぱり
「でもミシェル姉、フィリップちゃんの事も心配だし、このままではボヌール村へも悪影響が出ると思いますよ。放っておけませんね」
「う~ん、困ったね」
ボヌール村へも、クッカを始めとして留守番の嫁ズ全員へ話が伝わっていた。
念話による、クッカ達の声が伝わって来る。
『大事な家族に害を及ぼすなんて、クッカは絶対に許しませんよぉ』
『そいつら、ボヌール村へも悪さをしそうですしね』
『くうう! ダーリン、私も行けばよかったぁ! そうしたら私の弓でめためたにしてやったのにぃ』
「まあ、待て」
怒り&心配の嫁ズの中で、唯一冷静なのが……クーガーだ。
「とりあえず、もっと調べてみよう。オベール様の話を信じないわけではないが、情報を更に集める必要があるだろう」
おお、凄いな。
元女魔王だけあって頼りになる参謀だよ。
確かにクーガーが言う通り、まだまだ不確定要素がてんこ盛りだ。
ジャンを使って、王都を探る事もしなければならない。
「俺はクーガーの意見に賛成する。のんびりとは出来ないから、急ぎ情報収集をしよう。そして事実が判明したら即行動だ」
俺がそう言うと、嫁ズは全員同意して大きく頷いたのであった。
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