第7話 「提案」
エモシオン某、
「何だ!? てめえらはぁ?」
「いや~、実は俺達冒険者の夫婦なんですが、ね。貴方がたが景気が良さそうなんで何か儲け話がないかと思いまして、お話がお聞き出来たらと!」
俺とクーガーは作り笑いを浮かべた上、ドラポール一味の席付近で揉み手をしていた。
宴席を邪魔された奴等は、当然ながら機嫌が悪い。
ちなみに、一味は全部で5人。
リーダーらしい男は、やっぱりお約束の髭面だ。
いっつも……何でって感じ?
こいつら、俺が笑顔でひたすら低姿勢である為か、『かさ』にかかっている。
「ふざけるな! 馬鹿、アホ! てめぇの、汚ねぇ面なんか見たくねぇ、酒がまずくなる、消えろぉ!」
「儲け話? そんなのあるわけねぇだろうがぁ! もし知っていても、見ず知らずのカスみたいなお前等なんかに教えるかよぉ」
「そうだ、そうだ、失せろ、ゴミ野郎」
男達が、叫んだ瞬間であった。
リーダーの髭首領が、「だるそうに」ゆっくりと片手を挙げたのである。
「お前等、まあ待て」
「へ? じゅ、従士長! じゃ、じゃあなかった、
ふ~ん、成る程。
この髭がやっぱり元従士長か……
念の為、魂の波動を読むとそこそこ剣を使うが……俺とクーガーの前では所詮雑魚である。
その元従士長は、嫌らしく笑う。
ちらりと、クーガーを見たので大体想像がつく。
「ふふふ、とってもな、良い事を考えたんだよ」
「良い事……ですかい?」
「ああ、良く見りゃよ、こいつの女房はすげぇ
「あ、な~る」
「おい、兄さんよぉ、そういうわけだ。すっげぇ良い儲け話だろう? 金は払ってやるから、その女を寄越しな」
やっぱりか。
さっきから黙って聞いていれば、悪口雑言の上、金を払うからクーガーを貸せ……だと。
へぇ、面白い事言うじゃないか。
あまりにもアホらしくて俺は苦笑する。
「ははは、ご冗談を」
「冗談じゃないぜ」
「ははは、貴方にはね、冗談と言って貰わないと困るんですよ、はい」
丁寧な口調は変わらずだが、俺の眼差しが鋭くなった。
笑顔だが、目が笑っていないって奴だ。
「何だ……と、はぐうう……」
髭の元従士長が何か俺へ反論しようとしたが、身体が強張ってしまった。
言葉が、全く出せなくなっている。
俺は奴の様子を見て、にやりと笑う。
「あごごご」
「あぐぐぐ」
「ぎぎぎぎ」
言葉を出せないのは、髭首領だけでは、なかった。
手下連中も、同様に金縛りのようになっていた。
まるで、蛇に睨まれた蛙状態である。
かつて俺が、
「あはは、皆さんったら、身体の具合が悪そうですねぇ? ちょっと店を替えましょうか? 近くに良い店があるのですよ」
笑顔の俺が、ピンと指を鳴らすと元従士の男達はふらりと立ち上がった。
この2年間で俺もクッカの指導の下、随分新しいスキルを覚えた。
今、使っているのは他人を自在に操る、傀儡のスキルだ。
「お、お客様!」
異様な雰囲気に、酒場の店主が慌てて駆け寄るが……
リーダーの髭男は、別に助けを求める素振りも見せない。
普通に勘定を支払ったので、店主だって何も言えなかった。
表面的には、あくまで合意の上での、話し合いという趣きなんだもの。
俺とクーガーは、店主へにっこり笑う。
ふたりの顔は元の顔とは全然別人だし、年齢背格好も違う。
町の人間に覚えられても、全然構わない。
もう、この顔には二度とならないから。
ははっ、変身魔法バンザイだ!
相変わらず、ふらふら歩く男達は、店外へ出て行く。
目指すは、
「さあさあ、この先にありますから……本当に良い店なんですよ。異界という他の人間が一切居ない静かな店です」
俺に急かされて、男達は路地へ入って行く。
怯えたリーダーが、呻くように悲鳴をあげた。
「だ、誰か! た、助けて!」
「ほう、まだ喋れるのですか? 魔法の効きが弱かったかな? でも丁度良い。もっと喋って貰いますよ、静かな、誰も邪魔しない異界でね」
俺が凄みのある笑いを浮かべた瞬間、全員が煙のように消え失せていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ここは俺の創った引きこもり部屋……いや、異界でドラポール一味を尋問したところ、意外な事実が判明した。
何と彼等の依頼主は、ドラポール姉弟ではなかったのだ。
ドラポール家の長女ヴァネッサの要望で、彼女を王都まで護衛した元従士長達。
約束では、ドラポール伯爵家に従士として雇用される筈であった。
だが約束は果たされず、すぐに放逐されてしまったという。
自業自得ではあるが、酷い話だ。
王都で、憧れの上級貴族に仕えるという目論見が外れた彼等は、三行半を旧主につきつけた手前、今更故郷へ戻る事も出来ない。
何のツテもない彼等は、フリーの冒険者という選択肢しかない。
しかし田舎者の純朴さ故、生き馬の目を抜く王都ではあまりにも要領が悪かった。
仕事にあぶれて王都の中央広場で「ぼうっ」としていたら、仲介者を名乗る男から今回の仕事の依頼があったという。
前金で、金貨100枚※約100万円を見せられた彼等は即座に飛びついた。
エモシオンの町で二週間『破壊工作』を行えば、王都に戻ってから残金の金貨200枚が貰える条件だという。
金に困っている彼等にとっては、破格の条件である。
旧主を貶める嫌な仕事ではあったが、生きる為にやむなく引き受けたというのだ。
俯いた元従士達へ、俺は問う。
「お前達、本当は故郷を捨てて後悔しているのだろう?」
「…………」
「正直に答えろよ、本当は戻ってオベール様にまた仕えたいのだろう?」
俺が再び聞くと、元従士長の髭首領は俯いてしまった。
脈あり……だ。
「俺がオベール様に執り成してやるから、こんな依頼は放棄しろ」
更に優しく言ってやると、髭首領は済まなそうな目を向ける。
「で、ですが……勝手に従士をやめた俺達は今更オベール様に会わせる顔もありません」
「大丈夫だって!」
「そ、それに、ちゅ、仲介者からはもし依頼をこなさず金を持ち逃げしたら殺すと……」
二度目に会った契約締結の際、仲介者は屈強な男達を大勢連れて来たという。
成る程……こいつらに、契約を確実に履行させる為には脅迫もしたんだ。
「それも大丈夫だ。そいつらとは俺達が話をつける。だから心配するな」
「は、はぁ……」
俺が交渉するといっても、髭は半信半疑だ。
どこまでの実力か、測りかねているのだろう。
ここで、クーガーがぴしりと切り出す。
「私達の心配より、あんたたちよ! オベール様に忠誠を尽くすと誓える? 裏切ったらもう二度はないわよ」
「わ、分かりました! ち、誓います」
「あんたなんか元従士長だけど、戻ったら地位は残った従士の下になるけどいいわね」
「とんでもない! 俺達、故郷に帰れるだけで充分です」
話はついた。
こいつらには、再びチャンスを与える。
後はオベール様が許してくれるかどうかだが、多分大丈夫だろう。
だが、こいつらが裏切るとか万が一の事があってはいけない。
人間は流され易く、弱い生き物だからだ。
こんな時にこそ、俺やクーガーのチート魔法を使う。
俺の手から白光が放たれて男達を包むと、彼等は呆気なく意識を手放してしまったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます