第117話 「魔王軍侵攻せり④」

 魔王軍幹部バルカンは、俺にしか見えない筈である幻影のクッカを見る事が出来た。

 何故だろう? 

 謎は残るが、それは今、最も知りたい事ではない。

 他に聞きたい事は山ほどあったから。

 

 クッカのアドバイスで魔法行使を封じたバルカンを座らせ、俺は尋問を続けている。

 しかし、バルカンは簡単に口を割らなかった。

 魔王に、絶対的な忠誠を誓っているのか?

 もしくは不死者アンデッドという事もあって、死への恐怖が希薄なのか?


 黙秘し、口を割らないバルカン。

 しびれを切らしたクッカが言う。


『こうなれば仕方ありません。時間もないですし、自白超強要のスキルを使いましょう』


 自白超強要って?

 超が付くほど強要させるって事?

 

 そりゃ、怖ろしいスキルだ。

 喋りたくない、恥ずかしい過去のプライベートな秘密まで、一切明かしそうで俺は御免蒙ごめんこうむ

 

 何か、不穏な気配を察したのであろうか。

 バルカンは、開き直ったらしく、落ち着いた口調で言う。


「今度は拷問するのか? やるが良い、儂は絶対に喋らんぞ。それにこの不死の身体には魔法もろくに効かぬわ」


 おお、すっげぇ自信だ。

 それに、とてもふてぶてしくてムカツク。

 俺は困った顔で、思わずクッカを見た。


『大丈夫です。旦那様に使って頂くのは天界で使用される魔法、この地上では禁呪扱いです。効かないわけがありません』


 クッカは、怖ろしく真剣な表情である。

 そりゃ、そうだろう。

 敵の幹部から、いきなり首魁である魔王にそっくりだと指摘されたのだから。


『りょ、了解!』


『ええと、詠唱と発動はこうです』


 クッカは手短かに、しかし丁寧に教えてくれた。

 以前ならいざ知らず、今の俺なら発動の手順を覚えるのは楽勝だ。


「く! 無駄だぞ、無駄ぁ!」


 バルカンは、やばそうな気配を察して叫んでいるが……無視だ。

 クッカが空中に浮かんで腕を組み、バルカンをキッと睨んでいる。


『貴方には幻影と化した私の声は聞こえないでしょうが……そこまで抵抗するのなら致し方ありません』


 クッカは、バルカンに声が聞えないのを承知で言い放った。


『バルカンとやら、普通の尋問なら単なる自白の魔法で充分なのですが……私達の知りたい事はお前の魂の奥深く隠れていると見ました』


「な、何だ? この怖ろしい波動は?」


『素直に答えないのなら、直接お前の魂に聞くとしましょうか』


 クッカの声には、珍しく迫力があった。

 凄まじいクッカの怒りの波動……

 恐怖を感じたのか、バルカンが慌てて叫ぶ。


「な、何だ!? お前等、や、やめろぉ!」


『さあ、旦那様。存分に!』


『了解!』


「う、うわぁ、やめてぇ」


 バルカンの制止を無視して、俺は詠唱を開始する。


「ひとつは嘘、ひとつは真実、ひとつは狂気、3つの鍵よ、今こそ我が力により全て解放され、そなたの魂は、ここに開かれん!」


「くわああああっ、やや、やめろぉ~っ!」


 バルカンは自分が何をされるのか、本能的に感じたようだ。

 今迄の取り澄ました態度など、捨て去ったように取り乱している。


全てオムニス!」


 俺の言霊から発した、独特の波状の魔力波オーラがバルカンを包む。

 白光に包まれたバルカンの全身から力が抜け、緊張でぴりぴりした気配が一切消えた。


『うふふ、こうなったらもうおしまい、今のこいつは私達に抵抗出来ず、全く無防備な状態なのです』


『おお、すっげ~な。発動する時の魔力も結構使いそうだ』


『はい! MP10,000くらいは使います。けど、旦那様は1分経てばMPが即、満タンですから』


『あはは、俺のMPって、一体どれくらいあるの?』


『今はその質問に答えるより、こいつの尋問の方が優先です。ここからの奴との会話は一切念話で行けます。私も尋問に参加出来ますからビシバシ聞きますよ』


『…………』


 クッカの容赦ない口調に、俺は強張った表情で頷いた。

 一方、俺の魔法を受けた後のバルカンは、「ぽけっ」として座り込んでいる。

 

 ひと目で分かる。

 クッカの言う通り、全く無防備な感じだ。

 さあ……尋問を始めよう。


『お前の名は?』


『バルカン』


 おお、こいつの名前は偽名とかじゃなく、まんまなんだ。

 ならば!

 いきなり直球勝負!

 だって、クッカがとても気にしているから。


『バルカン! お前の言う魔王クーガーがここに居る女性に似ているというのは本当か?』


『似ている! そっくりだ。まるで双子のようだ』


 ああ、やっぱり……

 クッカがもう我慢出来ないとばかりに俺を押し退ける。


『バルカン! 魔王が私に似ているって? 何故? どうしてなの?』


『…………』


 クッカが興奮し、身を乗り出して迫るが、バルカンは無表情だ。

 まあ骸骨に近い顔のリッチだから、表情を読むのは難しい。 

 だが反応が無いのは確かである。


『こらっ、バルカン! 早く言え!』


『……儂には分からない』


 痺れを切らして再度問うクッカに対し、告げられたのは無情な答え。


『分からない!? こらぁっ、ふざけるなぁっ!』


 クッカは興奮のあまりバルカンの肩を掴み、揺さぶった。

 実際にはすり抜けて無駄なのだが、今のクッカには怖くて声をかけられる雰囲気ではない。

 

 本当に怖い!

 鬼気迫る表情だと言って良いもの。


 俺は、初めて見るクッカの姿を、驚いて見つめていたのであった。

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