第116話 「魔王軍侵攻せり③」

 現実だと受け止めながら、俺は再び聞かざるをえない。


「この洞窟に巣食ったのは、やっぱり魔王の命令なのか!」


 俺の質問に対して、バルカンははっきり肯定する。


「左様! 魔王クーガー様は儂に命じられた。この地にて我が魔王軍の眷属を増やし、村を制圧せよとな」


 おお、魔王の名がクーガー?

 何か、聞いた事のある名前だ。

 クーガー……クーカー……クッカなんちゃって。


 俺がくだらない事を考えていたら、心の波動から伝わってしまったようだ。

 空中に浮かんだクッカが、凄い目をして睨んでる。


『旦那様! 馬鹿な親爺ギャグはやめて下さい』


『悪い! 御免!』


 しょーもない冗談を、言っている場合ではなかった。

 眷属を増やすって、こいつの部下みたいな不死者アンデッドスケルトンにするって事だ。

 もしくは同じく不死者のゾンビか、怨念に染まった死霊だろう、きっと。

 

 俺はつい想像した。

 もしも愛する嫁ズが殺されてスケルトンになったら……

 皆、見た目が骸骨。

 つまり全く同じになっちまう。

 いろいろなタイプの、可愛い美少女嫁なのに!

 

 いやいや違う!

 嫁ズが殺されたりしたら、俺は嘆き悲しみ、正気を失ってしまう。

 そんな非道な事は、させね~!

 絶対に、させね~よ!

 

「ふん! そんなに簡単に目的を言うって事は……俺を帰さないつもりのようだな」


 俺が「ズバッ」と言い放てば、バルカンはVサインを出して来やがった。


「ビンゴ! 大当たりだ! 魔王様はお前がお好みで、生きたまま捕らえろという命令を出した」


「…………」


 やっぱりそうか。

 魔王クーガーは俺だけを生け捕りにして、残りは皆殺し……そうなのか?


 しかしバルカンの話には続きがあった。


「だが、面倒だ」


「何? 面倒?」


「ああ、お前を殺すよ! 生きたまま捕えるなんて面倒だ。不慮の事故なら死んでも仕方がないだろう?」


「成る程ね、お前は魔王を裏切るのか?」


「いや、裏切りじゃない。お前の死は単なる偶発的な事故だよ」


「事故ねぇ、モノはいいようだ」


「という事だ、このまま我が眷属達の手で死ね! ひひひひひ~~」


 俺は、バルカンの戯言ざれごとと同時に駆け出した。

 ちょうど正面に居るバルカンへ向かって、無詠唱で火弾をぶっ放す。

 

 相手から見れば、予備動作無しの拳という感じだ。

 何といっても、不死者アンデッドの弱点は火。

 よ~く、燃える。


 とっさに、反応したのだろう。

 黒い法衣ローブが、火弾を避けて転がるように横へ動くのが見えた。

 

 お!

 素早い!

 さすがに『司令官』だけの事はあるね。

 だが、こんなの、所詮はおとりの攻撃なんだよ。


 俺は、更に風弾を数発連発した。

 当然、無詠唱だ。


 死霊術師に操られたスケルトン達に、生きた人間のように細かい動きなど無理である。

 

 それにレベル99の神速攻撃を避けられる筈が無い。

 加えて俺は、風弾にある仕掛けをしていた。


 俺の風弾にあおられたスケルトンが派手な音を立て、次々にぶっ倒れる。 単に倒れただけじゃない。

 即座にちりとなる。


「あ~っ! な、何だぁ!」


 バルカンの奴、驚いて叫んでいやがる。

 「ざまあみろ!」ってんだ。

 風弾に、死者を塵にする葬送魔法を組み合わせてぶっ放したんだよ。

 だから、お前等みたいな不死者アンデッドはイチコロなのさ。


 パッキン! バッキン! パリン!


 更に俺は、「ダッシュ!」しながら天界拳を炸裂させた。

 拳と蹴りで、スケルトン共をあっさり倒して行く。

 頃合を見て、次は抜いた剣でぶっ叩いた。

 ちょっとダメージを加えただけで、スケルトン達は乾いた音を残しながら粉々に砕け散る。

 葬送魔法も同時に放っている。

 だから、粉々の次には「細かい塵になってさようなら~っ」て寸法だ。


 さあ!

 残りはクッカの指示通り、火の魔法で完全お掃除だ。


 ごおおおおおおおっ!


 俺は、襲って来るスケルトンをどんどん燃やした。

 やっぱり、面白いように燃え上がる。

 まるで非常用の固形燃料みたいだ。

 

 おらおら!

 迷える奴らめ、悔い改めてあの世へ帰りな!

 あっさり成仏させてやるぜ。

 

 俺がどんどんスケルトンを燃やし、最後の一体が燃え上がって……

 約300体居たスケルトン部隊も速攻でジ・エンドとなった。


「お、お、おのれ~~っ!」


 悔しそうに唸ったバルカンは、何か詠唱を始めようとしていた。

 なので、俺は手を伸ばして奴の首根っこを掴む。

 

 バルカン、貴様は甘い!

 どこぞのヒーローみたいに、俺は相手の攻撃を待ってなどやらん!


 でも、バルカンの首根っこを掴んだ俺は驚いた。

 凄く細い首だったから。


「あがが、放せぇ!」


 俺はバルカンの首を掴んだまま、持ち上げる。

 不思議と体重も、やたらに軽い。

 

 と、その時。

 フードがまくれあがり、隠されていたバルカンの顔がのぞく。

 

 ああ、ひと目で分かる。

 やっぱり、こいつは人間じゃなかった。

 肉が付いておらず、ミイラのような幽鬼面だ。

 

 索敵すると、不死者アンデッドリッチと出ている。

 ええっと……

 リッチって、不死者アンデッドの親玉か。

 いかにも、スケルトンの元締めに相応しい。


 だが……

 変態狼男達より色々な事を知っているだろうナンバースリーのコイツ。

 当たり前だが、厳しい尋問をすべきである。


「バルカン、お前に聞きたい事がある」


「だ、誰が話すかぁ! え!? あああ……」


 問い質しても態度を変えずふてぶてしいバルカンであったが……

 ふと俺の後ろを見た途端、驚きの声をあげる。

 

 奴の……バルカンの視線は、俺の背後のクッカへ注がれていた。


「そ、そ、その女の顔は!? ままま、魔王様か!? ばばば、馬鹿な!」


 バルカンの奴、もしかして幻影のクッカが見えるのか!?

  

 それによりも、この驚きようは何だ?

 クッカの顔が、魔王様って!?

 まさか!!


 吃驚した俺は、バルカンの首を掴んだまま……

 まるで石化の魔法をかけられたように、固まっていたのであった。

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