帰る故郷はスローライフな異世界！レベル99のふるさと勇者

第１１８話 「魔王軍侵攻せり⑤」

　興奮するクッカを、俺は一生懸命宥（なだ）める。

　俺だって、気持ちは良く分かる。

　いくら気持ちが動じない冷静のスキルがあっても、

　「ユーは魔王にそっくり」だなんて言われたら大暴れする。

　中には魔王と呼ばれ、逆に喜ぶ人も居るかもしれないが……

　クッカは天界の女神様。

　魔王とは真逆な存在。

　怒るのは至極当然だ。

　しかし、ここは冷静にならなければ……

『クッカ、少し落ち着け。奴の話を聞こう』

『はぁはぁ……わ、分かりました』

　クッカは……

　相変わらず凄い目でバルカンを睨んでいる。

　クッカとクーガーという魔王の顔が酷似しているというが……

　このバルカンが原因でなければ恨むのはお門違い。

　全くの逆恨みだ。

　でも、今のクッカに、そんな事を言ったら殺される。

　クッカに睨まれても、禁断の魔法が効いているせいか、バルカンの奴は相変わらず放心状態だ。

　なので、今度はまた俺から質問を続ける。

『そもそも……魔王クーガーというのはどんな奴なんだ』

『魔王クーガー様はいきなりこの世界に現れた。そしてそれまで居た魔王をあっさり倒すと、悪魔騎士エリゴスを召喚し、右腕として、新たな魔王軍を編成し始めた』

　魔王が、いきなり降臨？

　俺は、魔王の出現理由が一体何なのか分からない。

　良く読むラノベにも、魔王の脅威は謳われていてもだ。

　出現したり存在する理由を突き詰めたものは少ない。

　だから、魔王がいきなり現れても、

　「そんなものですよ」と言われたら……

　「はい、そうですか」と答えるしかない。

　そして魔王の右腕……悪魔騎士エリゴス……

　多分、そいつが魔王軍ナンバーツーなのであろう。

　よっし！

　だんだん、話が見えて来た。

　とりあえず、こいつには、もっともっと話をさせるように誘導しよう。

　取捨選択は必要だが、情報はいくらあっても良い。

『魔王クーガー様は冷酷無比の女魔王だ。凄まじい魔力を誇り、高い攻撃力を持っている』

『でも、バルカン。その女魔王が何故、この俺に執着する。人間の俺なんか彼氏にしてもメリット……無いだろうが』

『それも分からない』

『はぁ！？　こらっ！』

　傍（かたわ）らで興奮するクッカであったが、俺は手を挙げて制止する。

　バルカンが、何か言いかけようとしたからだ。

『ただ……』

『ただ？』

『この村に居る勇者……つまりはお前ケンに対して、何かにつけて執着している、何故か異常なほどに、な』

　俺に……何かにつけて執着？

　異常なほどに？

　夢魔リリアンもそう言っていたけど……何故？

『偵察に出した幹部ライカンが行方不明となり、更なる情報収集と破壊工作の為、諜報部のリリアンをお前の下へ送った』

　……あのさ。

　狼男ライカンとその手下は、偵察部隊って感じじゃなかったぞ。

　「ハーレム作る！」とか言って、思い切り個人の趣味へ走っていた。

　挙句の果てに村の美少女を喰うとか、たわけた事を抜かしたから倒したのだ。

　そして諜報部？　

　確かに、女スパイという感じでリリアンは来た。

　まあ良い。

　バルカンの話は、これまでの経緯と一致しているから、引き続き聞こう。

『リリアン？　確かに来たよ。あの夢魔だろう？』

『そうだ！　お前は投降しないという意思を示したそうだな？』

『当たり前さ！　俺が降伏してもこの村は魔物に蹂躙され、滅ばされる。それは御免だ』

『ふむ……リリアンの報告通りだ。クーガー様はその後、ライカンの弟リカントを送ったが連絡が取れなくなった……お前が倒したのか？』

　何か、さっきから逆に、俺がいろいろと聞かれているような。

　ちょっと微妙。

　でもこいつが、気持ち良く話してくれるなら、まあ良いか……

『何か、尋問じゃない感じだが、答えてやろう。リカントって奴も倒したよ』　

『ふむ！　やはりお前は強い！　さっきの戦いを見ても分かる』

　おいおい！

　今度は、褒め殺しか？

　何も出ないと言いたいが、我慢。

　こいつは今、話す気になっている。

『リカントも行方不明となり、業を煮やしたクーガー様は……この村を一気に攻め取る為の橋頭堡（きょうとうほ）を、儂に造るよう命じた。儂は既に基地完成の報告をしたから、まもなくエリゴスと共に、この地へいらっしゃるだろう』

　は？

　魔王が、もうここへ来るの？

　早いな！

　と、いう事は……

『そう、全魔王軍がお前の住むボヌール村を総攻撃するのだ』

『『えええっ！』』

　全魔王軍が、ボヌール村を総攻撃！？

　大きなショックで、俺とクッカの声が重なった。

　で、でもさ！

　全魔王軍って……

　一体どれくらいの規模なんだ？

『バルカン！　か、数は！？　魔王軍の総勢はどれくらいなんだっ！』

『オーガ1万、ゴブリン10万というところだ』

　は！？

　はああっ！？

　な、な、何、それ！！！

　総勢11万って、何それぇ！？

『おいおいっ！　いくら何でも大袈裟だろう？』

　そこまでの大軍なら、この国の王都だって楽に攻め取れるのに……

　人口100人にも満たないボヌール村を魔王軍11万で？

　それも、村民は殆どが非戦闘員じゃないか。

『いや……大袈裟ではない。勇者ケン……お前を倒して生け捕りにする為に魔王軍の全てを繰り出すと、クーガー様は仰っていた』

　魔王って、やっぱり俺が……目的なの？

　全魔王軍11万の軍勢を出すくらい？

　さすがにクッカが、ポカンとして俺を見ている。

　女魔王の情の深さ、執念に呆れているらしい。

『旦那様、改めてお聞きしますけど……以前その魔王と付き合って……まさか、散々騙したとか！』

『騙してねぇ！』

『では！　一方的に！　ゴミ屑みたいに！　非道に！　ポイ捨てしたとか』

『してね～よ』

『本当に本当ですか！』

　クッカの容赦ない詰問。

　確かに、女魔王のどろどろした怨念は感じる。

　でも、俺には天地神明に誓って、全く身に覚えがない。

『見ず知らずの魔王に恨みを買うなんて俺は絶対ねぇよ！　そんなの！』

　俺は疑惑の数々を、一切きっぱりと否定した。

　でもクッカが疑うのも無理はない。

　軍勢11万でボヌール村を攻めるなんて、魔王の行動はあまりも常軌を逸している。

　これから起こるであろう魔王軍の大攻撃を想像した俺は……

　理由が理由だけに、「げんなり」としていたのである。