帰る故郷はスローライフな異世界！レベル99のふるさと勇者

第１０２話 「小遣い稼ぎも大変だ①」

　ソフィこと、ステファニーがボヌール村へ移住して、俺の嫁ズは計6人になった。

　（管理神）様からの授かりものだが、いずれは子供も生まれるだろう。

　はっきり言って、大所帯。

　これから、何かにつけて物入りとなる。

　まあユウキ家の財政はそう悪くない。

　『財務大臣』ミシェル、そしてリゼットのふたりが管理し、上手くやっているみたい。

　先日の商隊護衛引き受けといい、俺や嫁ズが絡んだ副収入を管理し、少しずつ貯金してくれているようだ。

　それ故、俺がいくら狩りをしても、大空屋で働いてもユウキ家の副収入扱い。

　手元には一切入って来ない。

　「ちらっ」と聞いたら、来年から新生活を始める際の資金としてがっつりキープされている様子。

　だから今の『俺個人』は完全に金欠。

　自身の、自由になる金が殆どない。

　そう愚痴（ぐち）ると、レベル99なのに、どうしてさ？　

　と絶対に聞かれるだろう。

　……確かに俺は究極のレベル99。

　だけど、目立たずひっそり暮らすひきこもりのふるさと勇者。

　嫁ズ以外、俺の力を知る者は居ない。

　何故か？

　それは、俺がこのヴァレンタイン王国で勇者認定されるのが嫌だから。

　レベル99の力が知れ渡れば、必ず王様からお呼びが掛かる。

　その結果、王都で勇者になる……

　勇者って、一見恰好良さそうだが、所詮は王様の都合で使われる雑用係。

　この世界へ来るときに、女神ヴァルヴァラ様を怒らせてしまったが、考え方は変わっていない。

　多くの場合、周囲から人間離れした能力を妬まれ恨まれ、挙句の果てに厄介者扱いで追放……

　俺はゲームや、漫画、ラノベでそんな勇者を山ほど見て来た。

　あくまで私見だけど……

　人間って自分と比べて想像も出来ない凄い人間を見ると反応はふたつ。

　ひとつは、憧れを通り越して敬い奉る。

　まるで、創世神様のように。

　もしくは怖れて、敬遠するか。

　そして最後は、無視状態。

　……そんな扱い、俺は真っ平御免。

　だったら、このボヌール村で静かに暮らしていた方が良い。

　あの時……

　選択肢において、ケルトゥリ様を選択し、柄に合わないエルフになるのは俺の中では無かった。

　残るは王都行きか、田舎のボヌール村行き。

　都会嫌いを我慢、割り切って勇者になる為、ヴァルヴァラ様と王都行きを選んでいれば、今とは全く違う人生を送っていただろう。

　でも、管理神様はクッカを選ばなければ、レベル１にすると言っていたっけ。

　そうなると、あの体育会系姉御女神様の多大なサポートはあったとしても、今頃は中堅クラスの冒険者になって依頼を受けて、完遂。

　ある程度の謝礼金を貰って、仲間と居酒屋（ビストロ）で飲んだくれる。

　そんな生活を送っていたかもしれない。

　まあ、そうなれば小遣いくらいは捻出が出来たに違いない。

　でも、俺は静かに暮らす方を選んだ。

　この超田舎ボヌール村で。

　まあいくつか戦いはあったけれど。

　通常の日々は極めて平穏だ。

　断っておくが、村で暮らすなら、基本生活費など掛からない。

　日用品は農作業着などは誰かのお古を貰えるし、消耗品はミシェルが調達してくれる。

　ご飯は嫁ズの誰かの家へ行けば食べさせてくれるし。

　家事だって、嫁ズが交代でやってくれている。

　思い出した。

　家事といえば、大の付く苦手なレベッカなのだが……

　最近は頑張ってやってくれている。

　俺のパンツと自分の勝負用黒パンツを嬉々として洗い、一緒に干すのはかなりシュールだ。

　殆どヒモ状態なのだが、我儘（わがまま）さえ言わなければ、金なんてまるで必要ないのだ。

　しかし！

　やはり小遣いは欲しい。

　……この前、エモシオンの町で、思うように買い物出来なかったトラウマが残っている。

　あの時は……悔しかった。

　凄く欲しいモノがいっぱいあったのに。

　それに、これからの生活は勿論、嫁ズの誕生日には何かと物入りになるだろう。

　家族全員からのプレゼントはするだろうが、それとは別に、「これは俺から！」とか言って、夫からのスペシャルなプレゼントをしたい。

　男の見栄って、そんなモノ。

　皆さんも分かるでしょう？

　随分、前置きが長くなってしまった。

　本題へ入ろう。

　だから俺は、自分の小遣いを稼ぐ方法をずっと考えて来た。

　一番簡単なのは、仕留めた魔物の部位を売る事。

　俺が今迄倒した中で、一番強いのは魔王軍の狼男。

　だけど倒した後、そこまで考えず、不死者（アンデッド）防止で塵にしちゃった。

　嫁に害為す『お邪魔野郎』は、風に吹かれて、さようなら～って感じにね。

　完全に後の祭りって事で、部位など取れなかった。

　反省して、それ以降部位をとってはあるが、現在持っているのはオーガばっかり。

　数はと言えば、なめした皮を12枚ほど……

　そういえば、俺の前世でも皮革製品があった。

　この異世界でも皮革製品は、あるという。

　牛、豚の家畜、そして野生動物は勿論、魔物も種類によっては人気が凄い。

　ちなみに、魔王軍の狼男ほどではないが、

　俺の持つオーガの皮は、上質な革鎧の原料になるそうだ。

　クッカいわく、この世界の魔物は自然に繁殖するのは勿論、次元の裂けめと呼ばれる空間から湧くという。

　それって……無間地獄。

　俺は一生、魔物討伐をしなければならない定め。

　まあ、どちらにしても、村の平和の為に跋扈（ばっこ）する魔物は倒す。

　ならば皮を回収して、有効利用した方が良い。

　葬送魔法で、役に立たない『塵』にするよりも、世界のどこか誰かの命を守る革鎧にした方が良い。

　そうすれば、俺にだって、働いた見返りが入って一石二鳥。

　ちなみにオーガの皮が売れるというのは、さりげなくプロの狩人であるレベッカに聞いた話。

　あまり根掘り葉掘り聞くと、勘繰られるのでこれくらい。

　我が嫁ズは、全員勘がとっても鋭いから。

　質問は以上。

　そんなわけで、これ以上の相談はクッカとする。

　いつもの夜デート兼魔物討伐が終わった後で、いろいろと話す事にしたのだ。

　さてさて……

　今夜も俺は、オーガを3体倒した。

　こんな時、必殺天界拳は役に立つ。

　剣と違って、皮に傷をつけないですむからだ。

　念の為、レベッカを救う際繰り出した、あの拳撃『豪拳貫通』ってのは使いません。

　相手が、ぐちゃぐちゃ、もしくは粉微塵になっちゃうので。

　あと、

　革にする加工作業は引きこもり部屋……

　否、作業部屋を空間魔法で作って行っている。

　スキルには狩人スキルもあったから、皮なめしもお手の物。

　安全だし、じっくり集中出来る。

　その上、誰にも見られないで済む。

　終わったら、収納魔法で仕舞っておしまい。

　今夜も作業完了。

　クッカが、話し掛けて来る。

「バッチリですね。オーガの皮……だいぶストック出来ましたよ」

「うん、これで15枚か……そろそろ何とかしたいな」

「はい！　問題はどこでオーガの皮を売り、換金するかですね」

「まあ、そうだよな」

　この世界でも、商品の売買には身分証が必要だという。

　結構、身元チェックが厳しい。

　でも俺は、正体を明かしたくない。

　15歳、平凡な少年の俺がオーガの皮1体分を持って行っただけでも、大騒ぎになるだろうから。

　いろいろ、突っ込みをされてしまう。

　え？

　魔法を使って、変装した容姿で身分証を取れ？

　王都で売りさばけば楽勝？

　金がガッポリ？

　はい、確かにそれは可能。

　無理をすれば出来ない事はないが、何かと足跡が残る。

　更にオーガを持って行けば、絶対に商人から経緯（いきさつ）を聞かれる。

　下手をすれば、専属の狩人になれと言われかねない。

　変装した俺は、特定の場所に深入りしたくない。

　万が一何かあって、面倒臭くなると嫌だもの。

　何とかして縛りのない、自由な売り買いをしたい。

　クッカと常々話していたのである。

　だが、さすがはクッカ。

　しっかりと、完璧にこの宿題をやってくれた。

「ええっと、旦那様。私、調べました」

「何を？」

「もう！　惚（とぼ）けて！　ずっと知りたがっていたでしょ？　許可証なしに、旦那様がオーガの皮を売れる場所ですよ」

「おお、そうだった。半分諦めていたけど、あるんだ、そんな場所」

　俺は思わず身を乗り出して、クッカの話を聞いたのであった。