第103話 「小遣い稼ぎも大変だ②」

 翌日の晩……まだ宵の口の午後8時。

 俺はこの異世界の大陸の遥か彼方、北の地に立っている。

 

 北の地とはいっても、寒くて死ぬほどじゃない。

 周囲に雪もないし、気温は何とか我慢出来るレベル。

 

 地形は、荒野。

 岩混じりの草原だ。

 この世界の町のように魔導灯など、ない。

 普通は真っ暗闇だ。


 幸い、今夜は月が出ている。

 辺りは、ほんのりと明るい。

 かたわらには幻影のクッカが居るし、ちょっぴりロマンチック。


 カーン! カーン! カーン!


 そして、目の前で響く音は鍛冶屋独特の槌音つちおと……

 エモシオンの町でも聞いた事があるけど、金属を叩いて鍛える独特の音なのだ。

 目前の、ぐるりと石壁に囲まれた、村の中から聞こえて来る。


 クッカが調べて来た、俺が身分証等無しでも、オーガの皮を堂々と売れる場所とは……何と人間の街や村ではなかった。

 

 目の前にあるのは、何と!

 ファンタジーでは定番種族

 ……ドワーフことドヴェルグ達が住む村なのだ。

 村の名前は、テイワズ。


 ボヌール村のあるヴァレンタイン王国の国境を遥かに越え、更に北のロドニア王国をも越えた最果ての地。

 

 ここには内緒で来ていた。

 今、こんな場所に俺が居るなんて、村に居る嫁ズには想像も出来ないだろう。

 自分達同様に自宅で、「すやすや」安眠していると思っている筈。

 ちなみに今夜の俺は魔王軍の手下ルックではない。

 ランク上位の冒険者の風貌と出で立ちだ。


 ざっと説明すれば、身長は180㎝を少しオーバー、長身痩躯。

 手足がすっと長くてモデル体型。

 年齢は少し大人の20代半ば。


 濃紺のお洒落な革鎧を着込み、腰にはシルバーメタっぽいミスリルの魔法剣。

 西洋風異世界なので金髪で長髪。

 

 瞳は金髪とセットで碧眼。

 鼻筋の通った顔立ちは端整の極致。

 

 ズバリ、『イケメンマックス』の男である。

 これで王都をぶらぶら歩いたら、逆ナンをバンバンされるかも……

 

 まあ、今迄の変身は魔王の手下風とか、闇の忍者とか『負のイメージ』が強かった。

 ヒール、いやダークヒーローも嫌いじゃない。

 けれど、たまには正統派の二枚目も良いかなと思って。


 え?

 どうやって、ここまで来たかって?


 それは、我が嫁・女神クッカのお陰。

 彼女が事前に場所を念入りに調べ、特定したお陰で簡単に転移魔法を使う事が出来た。

 ボヌール村の自宅から「ひとっ飛び」で来れたのである。


 でも、いよいよあこがれのドワーフに会える。

 俺、実はワクワクしてる。


 そもそもドワーフは、エルフ同様に北の妖精族の末裔だ。

 しかし両者は、対照的な種族である。


 エルフは細身で華奢。

 ドワーフは筋肉質で、ずんぐり体型。


 戦いにおいてエルフが剣と弓、そして魔法に優れているのに対し、ドワーフは膂力を活かした打撃系の武器や格闘に能力を発揮する。

 そして更にドワーフが有名なのは、戦士以上に武器防具や金属細工の職人としての才能に優れている事。


 またエルフとドワーフは、昔から超が付くほど仲が悪い事でも有名だ。

 それ故、エルフと一緒に居る時はドワーフの話題は厳禁。

 逆もまた然りである。


 前にも言ったけど、実は俺、良い年をして中二病全開。

 

 ラノベやコミック、映画等々で散々ファンタジー世界に憧れていた。

 実際にこの異世界へ来て、それを存分に満喫しているわけ。

 まあボヌール村においては、経験したのは魔法発動と魔物討伐だけなんだが。


 この異世界へ来る前には、管理神様からエルフの世界への転生という選択肢も示された。

 だからエルフが存在するのは認識していたが、ドワーフも居るってクッカから聞いて嬉しくなり「わ~い」と躍り上がりそうになったのは内緒。


 クッカによれば、このドワーフの村テイワズの住民は殆どが職人だという。

 まさに俺の持つドワーフのイメージ通り。


 そもそもドワーフ職人は皆、プロ意識の塊だ。

 だから、武器防具の良質な素材は常に欲している。

 さすがに宿敵であるエルフと取引はしないが、人間には対応してくれるらしい。

 身分証など、煩い事も一切言わないという。

 これはエルフも同じらしいけどね。


 閑話休題。


 テイワズ村のドワーフは仕事熱心。

 何と朝は午前8時から、夜も午後10時まではやりとり可能なんだと。

 つまりは俺の自由時間の夜も取引きが可能って事。


 だから俺がオーガの皮を売る余地がある。

 但し、やっちゃいけない事もある。

 それは彼等に、盗品や呪われた品を掴ませる事。

 もしも露見したら、厳しく罰せられると同時に、二度と取引き不可という処罰を受けるらしい。

 

 俺は絶対にそんな犯罪行為はしないけど。


 でも、俺の中でドワーフって、超が付く大酒飲みってイメージ。

 夜は早めに仕事切り上げて、宴会して寝る。

 豪放磊落ごうほうらいらくな人生を、徹底してエンジョイって思っていたのに……

 頑張って、夜遅くまで仕事しているなんて、何とも不思議だ。

 人間にもいろいろな人が居るのと同様、ドワーフもそれぞれなんだろう。


 さてさて、夜に訪れたので、当然ながら村の正門は固く閉ざされている。

 そして物見やぐらには、門番らしい髭面のドワーフ男がふたり陣取っていた。

 これって、ボヌール村の門番ガストンさん、ジャコブさんと全く同じパターンだ。


 でも持参したオーガの皮……

 どうやってやりとりするんだろう?


『クッカ、どのようにやりとりするの?』


『旦那様、あそこです』


『え? あそこ?』


 クッカが示した方向を見やると、正門すぐ脇の外壁。

 俺が目を凝らすと、猫の出入り口をほんの少しだけ、大きくしたような扉が付いていた。

 

 ほら、時代劇で良く見るような潜り戸ってあるじゃない。

 あれを更に、小さくしたような感じ。


 縦横は約30㎝くらいかな?

 あれじゃあ、変身して身長180㎝オーバーの俺は勿論、150㎝前後と言われるドワーフだって通れない。

 どうやるんだ、一体?


『え? あれ?』


 俺は思わず指を差して、クッカへ聞いていたのであった。

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