第23話 「ハーレム作戦開始?」

 父娘おやこの凄い会話が終了した。

 

 やり込められたガストンさんが、頭を掻きながら俺の方へやって来た。

 その背後で、父親をやり込めたレベッカは、勝ち誇って腕組みをしながら歩いて来る。

 狩人のせいか、文字通り矢を射るような鋭い視線。

 レベッカって、確かに美少女だけれど、きつい性格って感じだな。


「ええっと……急に用事を思い出してな。悪いが今日は帰るぞ、ケン。後はレベッカに指導して貰え」


 そう言うと、ガストンさんは「そそくさ」と引き上げてしまった。

 あ~あ、やっぱりレベッカに上手く言いくるめられてしまったな。

 つまり……「孫が欲しくないの?」で、一気に寄り切られたってわけだ!


 寄り切り! 寄り切ってレベッカの勝ち!


「と、いう事で……パパ、い、いやガストン副隊長は急用で帰還したの。よって未来の副隊長であるこのレベッカが、ケン、お前の指導にあたるわ」


 未来の副隊長?

 相変わらずレベッカは、上から目線で自信満々の物言いだ。

 俺が澄ました顔をしていると、レベッカは念を押して来る。


「異論は、ないわね?」


「ないです」


 俺が逆らわず「了解」の返事をすると、レベッカは満足そうに頷き小振りの弓を取り出した。

 確か、ショートボウと呼ばれる弓である。

 いや、いくつかの素材を組み合わせて強化しているから、コンポジットボウって奴か。


「うふふ、私の予備の弓を貸してあげる。調整してあるからそのまま射てる筈よ。狩人はやはり弓矢を使わないとね……遠くの獲物を正確にびしっと射る! これが狩人の醍醐味なのよ」


「成る程!」


 熱く語るレベッカに、「こくん」と頷いた俺。


「宜しい! では、ケン! これから向かう目的地は北東の草原。但し奥に見える東の森には絶対近付かないで。森の奥にはゴブリンの群れが居るからね」


 レベッカは、これから行く目的地を告げると共に、俺へ注意を促した。

 ガストンさんに向かって言った『危険な場所』の事らしい。

 但し、その危険をもたらす奴はゴブリンだという。


「ああ、何だ、ゴブリンか」


 俺が、軽く言ったせいだろうか。

 レベッカの口調に、力が入った。


「そう言えばケンは、西の草原でリゼットを助けた時に、奴等を数匹倒したそうね」


「ああ、そうだな」


「それ運が良かったのよ」


「そ、そうなんだ」


「そうよ! 舐めちゃ駄目! 奴等は普通、30匹から50匹の群れで行動するの。中には100匹以上の大群で襲って来る時もあるわ」


「お、おお……な、成る程!」


 うん!

 確か、あの時戦ったゴブリンは100匹以上居た。

 常人が遭遇したら、即座に喰われるだろう。


 レベッカは厳しい表情で言う。


「心しておいて! そんな群れにあたったらすぐに逃げるしかないわ。抵抗しても多勢に無勢、あっと言う間に囲まれ食べられてしまうから」


 レベッカの言う通りだ。

 だが……

 レベル99の超人として、覚醒しつつある今の俺には、どう考えてもゴブリンなんかに負けはしない。

 

「そうなんですか?」


「間の抜けた返事をしないの! もう一度言うわケン」


「は、はい」


「お前が遭遇した5匹の小さな群れなど、単に運が良かっただけよ」


 何度も俺を、叱責するレベッカはとても真剣だ。

 「生死を分ける事だからいい加減に考えるな!」と言いたいのだろう。

 レベッカの厳しい表情を見て、俺は素直に反省した。

 全てにおいて驕り高ぶると、ろくな事はないから。


「分かった、済まない」


 反省した俺が、即座に謝ったのでレベッカは機嫌を直したようだ。


「分かれば宜しい! ……まあ奴等が来たら、遠くに居ても匂いですぐ分かるわ。その為にヴェガが居るのだから」


「ああ、そうか」


 成る程!

 レベッカ曰く、犬達が『索敵』をしてくれると自慢げだ。

 

 だが実のところ、俺が何かの本で読んだ限りでは……

 犬が、遠距離の匂いをかぎ分けるのは不可能らしい。

 

 「じゃあ、どうして?」と聞かれても、俺には分からない。

 「それでも答えて」と言うのなら、曖昧で私見だけど……

 多分匂いではなく、人間には感知出来ない、敵の『気配』を本能的に感じるのだと思う。


 しかしここで、余計な事を言って、レベッカと揉めるのはNG。

 だから、俺も索敵魔法は欠かさないようにしよう。


「まあヴェガが居て、更にリゲルも居れば万全、絶対に大丈夫。さあ行きましょう」


 こうして、俺とレベッカは村を出発したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 1時間後……

 

 村から見て北東の草原に到着した俺とレベッカは、狩りの練習をしている。


 「まずは弓の練習だ」と言われ……

 俺は借りた弓を使い、構え方から始まって、何本か矢を放ってみた。

 

 やってみて、吃驚。

 弓など触った事もなく、最初は全然駄目だった俺であったのだが……

 レベッカから、しっかり基礎を教えて貰ったせいか、すぐ『さま』になって来たのである。

 

 たぶんこれ、俺の持つスキルの中に、『弓の初級スキル』もあるからだろう。

 

 でもそんな事は、絶対レベッカには言えない。

 だから、とりあえず練習を続ける。

 弓を引き絞って矢を放つ!

 これを何度も繰り返す。

 

 すると更に吃驚。

 矢はほぼ狙った所へまっすぐ飛んで行くようになった。

 さすがはチート能力、オールスキル。


 俺の様子を見たレベッカが、感心しつつ苦笑する。


「ふうん……やるわね。ケンは本当に初心者なの? じゃあ、早速実践ね」


 ちなみに、今日の獲物は草原に住む兎である。

 そして猟犬のヴェガとリゲルが、『勢子』の役。

 

 勢子とは、こうした狩りを行う時に、獲物となる動物を追い出したり、射手に向かって追い込んだりする役割の者を指す。

 すなわち左右から彼等猟犬が兎を追い立てて、俺とレベッカの方に向かわせるって事だ。

 

 レベッカが言うだけあって、ヴェガ達は優秀な番犬らしい。

 兎がこちらに来た所を、まずレベッカが矢を放つ。


 ひょおっ!


 レベッカが鋭い音を立てて放った矢は、兎を見事に貫いた。


 おお、すげぇ、当たった!

 一発で仕留めたよ。


 しかし、レベッカは「当然!」という顔をしている。

 そして「次はお前だ」と促したのだ。


「じゃあ、やってみて! 常識的にはいきなり仕留めるなんて無理だろうけど、とりあえず一回やって貰うわ」


 レベッカの掛け声で、またもやヴェガとリゲルが兎の巣に回り込む。

 2匹は、連携して上手く兎を追い出した。

 俺は逃げて来る兎へ、狙いを定めて矢を放った。


 ひょおっ!


「あ、当たった!」


 俺が思わず声を出した通り、俺が放った矢も見事に命中した。

 これには、レベッカも感嘆した。


「わぁ! すっご~い!」


 その瞬間であった。


『すっご~い』


 レベッカの声に『誰かさん』の声が重なったのである。


『うふふ! さすが弓術初級のスキル持ちですねっ』


 やはりである。

 幻影ミラージュのクッカが、爽やかな笑みを浮かべて、空中に浮かんでいたのだ。


『おい、クッカ』


『は~い!』


『は~い! じゃね~よ。俺が出る時には、まだぐ~ぐ~寝ていたくせに』


『い~じゃないですか! 私って低血圧で朝が弱いんですもの。出かける時に可愛い妻の寝顔を見て、今日も頑張るぞって気になったでしょ?』


 はい?

 また、君はさりげなく凄い事言ったぞ!

 絶対言った!!! 


『ええっと、私って今、何か言いました?』


『……もう充分、君の気持ちは分かったよ』


『でしょ! 私、前に言ってありますからね~』


 前に言ってある?

 何だ、それ?


『ほらぁ! 以前にしっかり言ってるでしょう? ケン様があっさり死んでアウトになるのは困りますって!』


『……』


『ケン様は私と、リゼットちゃんを含めたあの村の適齢期の、女の子全員のモノですからって!』


 い、いや……全員のモノって……

 それって、今みたいにしっかりとぼけたでしょう、君は!


『今、目の前に居るこの子もケン様に興味津々ですし、ツンとしていても実はかまってちゃん状態ですからね。さあ、ハーレム作戦ゴーゴー!』


『ハ、ハーレム作戦!?』


「ねぇ? どうかした?」


「あ!?」


 いつの間にか俺は、幻影のクッカとの念話に夢中となっていたようである。

 怪訝な表情で、俺を見るレベッカ。


 この子が?

 上から目線で命令口調のレベッカが?

 俺に対して『かまってちゃん』ねぇ……


「なな、何よ! 私の顔を何、じっと見てるのよ! 何かついてっるって言うの?」


 あれ?

 少し顔が赤い!


「ど、どうしても、ケンが私を見たいって言うのならさ……別に……良いけど」


 レベッカはそう言うと、可愛く口を尖らせて、俺を見つめたのであった。

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