第24話 「ツンデレ逆ナン! そして……」

「へぇ! じゃあレベッカをよ~く見ようかなぁ!」


「何度も言わせないで! 見ても良いって言ってるでしょ!」


 やはり、レベッカは『ツンデレ』だ。

 「別に良いけど!」なんて誰にでも通じるツンデレ確定の言葉じゃないか。

 ちなみに俺は、ツンデレが大好きだ!

 なんて、話がそれた。


 多分……

 レベッカは、俺の事が「大好き!」とまではいっていないと思う。

 

 だが、若い男で謎めいた存在の俺に対して、興味津々なのは間違い無い。

 村に適当な男が居なくて、俺に目を向けたというのもあるだろう。

 ツンの部分は俺に対して主導権を握りたいから、出るのだ。

 上から目線で、命令口調なのは、俺より年上なせいもあると思う。


 そして1時間後……

 結局、俺が3羽にレベッカが4羽……兎を狩った。

 弓初体験で、狩人デビューにしては充分、合格点だと思う。


 しかし……


「もう少し、歯ごたえのある獲物を狩ろうよ」


 レベッカが、いきなり獲物の『ランクアップ』を申し出たのである。

 これは、俺と居る時間の延長を、さりげなくはかる作戦と見た。

 更に大きな獲物を狩って手本を見せて、先輩として優位性を見せる意図もあるみたい。


「歯ごたえのある獲物って?」


「うん、鹿とか、あわよくば猪かな」


 鹿と猪か……

 確かにこれらを狩れば、今日の俺の研修も文句無しの『高評価』となろう。


 レベッカによれば、通常の狩猟というものは色々と制限がある場合が多いそうだ。

 狩って良い動物の種類、狩猟数、そして使用可能な武器の制限等。

 王国各地の領主様のお考えで、様々な『ローカルルール』があるという。


 このボヌール村を治めるのは、リゼットから度々名前の出るオベール騎士爵様。

 彼の方針により、城館近辺の御狩り場とした森以外、狩りの制限はないそうだ。

 

 しかし、これには落とし穴がある。

 

 狩りが自由に行える代わりに、村で収穫した小麦の80%は、『年貢』として納める決まりらしいのだ。

 そのお陰で村民が食べるパンは、主に小麦粉が余り含まれていないライ麦パンとなる。

 

 結果……

 主食は、ライ麦パンと畑で取れる数種類の野菜。

 肉は数少ないブタを滅多に食べず、ニワトリがたま~にくらい。

 そして狩猟で兎や鹿をそこそこ狩る……

 それが、ボヌール村のつつましい『食糧事情』だというのである。


「ふ~ん……自由に狩りが許されているなら、どうしてもっとやらないの?」


 獲物が増えれば、余剰分を売って現金に変える事も出来るだろうに。

 しかし、レベッカは俺の言う事など論外だという。


「馬鹿ね、村のメンツを見たでしょ、ケン」


「あ、ああ」


「なら分かるはずよ。実際狩りが出来るのがパパ、いえガストン副隊長を含めて村にはほんの少ししか居ないの。もし留守中に魔物が襲って来たら戦う人が居なくてあっと言う間に村は蹂躙されちゃう」


 狩りが出来るのは基本的に男で、レベッカみたいな女狩人は例外中の例外。

 かと言って、他村の狩人や冒険者などの余所者を雇って狩りをさせるのは厳禁だという。

 俺はもうジョエルさんに認められた正式な従士だから、何とかセーフらしい。


 ふうむ……

 領主のオベール様って、中々の策士。

 大規模な狩りが出来ない村の事情を見越して、大量の小麦での納税を求めるなんて。

 村民が、狩りをやり過ぎなければ、領内の森はそんなに荒れないものね。

 

 話を元に戻し、敢えてもう一回言おう。

 村には若い男が全く居ない。

 逆に『彼氏無しの美少女』がたくさん居ると。

 

 俺にとっては、完全な売り手市場……

 これ……凄くラッキーなのだろう。


「だからさ……農作業者の代わりは居ても、戦士や狩人の代わりはそうは居ない。ケン、あんたさ……」


 ああ、何か……「どんどんどんどん」本題へ向かっている気がする。

 と思ったら、予備動作無しでいきなり来た~!

 

「私と付き合わない? 当然……結婚前提にさ。私、18歳で年上だけど……あんたの狩りの腕なら私の良い相棒になれるし、男前で恰好いいし……」


 うわぁ! ズバッと豪速球来た!!!

 コクられてる! コクられてるよ!

 22歳の俺ならともかく今の俺は15歳の少年。

 18歳の、綺麗な体育会系お姉さんから告白されている夢のような展開だ。


「ちなみに私、身体はとても頑丈さ。ミシェルみたいに胸は大きくないけど……絶対に良い子、産めるよ」


 なんちゅう告白だ!

 逆ナン?

 いや逆プロポーズ!

 

 直球ど~ん!!!

 伝説みたいな凄い剛速球だ。


 ここで、例の御方からも突込みが入る。


『あのぉ、綺麗な年上のお姉さんならここにも居ますけどぉ!』


 幻影のクッカが、空中に浮かんで俺を『ジト目』で睨んでいた。

 例によって、胸や身体のラインが透けて見える服は男心をそそる。


『確かに! それは否定しない。けど……クッカは俺をいじって面白がっているだけでしょ』


『面白がる? 違います! そんな言い方って………酷いわ!』


 酷くないって!

 俺は化け物みたいなレベル99だけど、所詮は人間。

 片や貴女は、天界の女神様。

 明らかに『身分』が違うだろう。


『酷い! って言われても人間の俺と女神のクッカじゃ超えられない壁があるだろう?』


『超えられない壁……』


 ああ、何かクッカの奴、考え込んでいるよ。


『ちょっと行って来ます』


 クッカさん、行くって何?

 一体、どこへ行くんだよ?

 何か、いや~な予感。


『ケン様、それではまた』


 クッカは手を挙げてそう言うと、「すうっ」と消えてしまった。

 ああ、本当に嫌な予感がする。


「どうしたの?」


 俺が考え込んでしまったと勘違いしたレベッカ。

 心配そうに顔を覗き込んで来る。


「あ、ああ……大丈夫だ……」


 俺の歯切れの悪い返事を聞いたレベッカは顔を歪ませてとても悲しそうな顔をしたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 俺は失敗した!

 すご~く失敗した。

 勇気を振り絞って告白したレベッカに対して、俺が見せた暗い表情は愛を拒否したと思われたらしい。

 まさか、クッカの不可思議な行動を心配したなんて言えないし……


「今日の訓練は終わり! もうさっさと帰って良いよ」


 何と!

 レベッカのデレな口調が一転して、ブリザードが吹き荒ぶような冷たい言い方に変わってしまったのである。


「おいおい、レベッカ」


 俺がレベッカを呼ぶと、彼女は美しい眉を吊り上げる。


「気安く呼ばないで! どうせ私みたいな年上の貧乳は嫌なんだろう? リゼットみたいに若くて可愛いか、クラリスみたいに優しい癒し系か、ミシェルみたいな巨乳ぼ~んが好きなんだろう?」


 ああ、そんな事ない!

 スタイル抜群なスレンダー美少女のレベッカを、俺は決して嫌いではない。

 さっぱりした姐御肌で優しい性格と、親身になって丁寧に教えてくれた弓の教授からも彼女が真面目でとても良い子だと分かっている。


 でも……何て思い込みの激しい子なんだ。


「レベッカ! 違うぞ! 俺……」


「呼び捨てにするなって言っただろう!!!」


 レベッカは、大声で叫んで走り出す。

 当然、レベッカに忠実な2匹の猟犬も走り出した。

 俺も当然、彼女の後を追うとするが……


「同情の慰めなんて要らないっ! ついて来ないで!!!」


 更に、大声で拒否されてしまう。

 そしてレベッカが2匹の犬と向かう先は……東の森だ。

 自然と、俺の索敵スイッチが入る。

 まだ俺の中で危険は察知されないが、何と言うか嫌な予感がする。

 さっきのクッカ以上に、嫌な予感だ。


 そうしている間にも、レベッカは俺との距離を遥かに離してしまう。

 狩人として、日々鍛えた彼女の剛脚は、あっと言う間に森の入り口へ達している。

 そして、姿が森の中に消えた。


 まずい!


 俺は身体強化のスキルを発動し、レベッカの向かった方向へ走り出したのであった。

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