第21話 「リゼットの打ち明け話②」

「え? 何? 村の女子の気持ちが乱れたのって俺が原因……なの?」


 俺は、思わず聞いてしまう。

 村の女子の団結を、悪戯いたずらに乱す男……

 それって、まるで俺が女の敵=極悪人みたいじゃないか。


「はい! ケン様は、村に残った女子全員にとって理想のお婿さんなんです。村民への紹介の時、ふたりも声を掛けて来たのがその証拠ですよ」


 は?

 俺が、理想のお婿さん?

 何、それ?


「おいおい! 理想って? 俺この村へ来たばかりだし、そんな大した男じゃないよ! ……たまたまだろう?」


「そんな事ありませんっ! だって今日のクラリスもそうですよ。女子は皆、心を乱して鉄壁であった団結心を失ってしまったのです」


「…………」


 あのぉ……

 悪いけど、リゼット。

 『俺程度』が来ただけで揺らぐなんて、団結心が『鉄壁』とか言わないと思うけど。

 それに、珍しい外部からの男ってだけでちょっと興味が出たくらいでしょ、多分。


 俺はそんな、喉まで出かかった言葉を抑えていた。

 雰囲気からして、これって絶対に言っちゃいけないって分かったから。


 そうだ! リゼットは真剣に熱く語っている。

 ここは、空気を読んで聞き役に徹しよう!


「ケン様、お願いがあります」


「おう! 何だい?」


「幸いこの国では、一夫多妻制が認められています」


「ぶっ! いいい、一夫多妻制!?」


「は、はいっ! そうです……男の子は、たくさんの女の子をお嫁さんに出来るんです」


 ななな、何?

 いきなりのご都合展開!? 

 ハーレムOK! 来たぁ~っ。

 顔と姿は、見た事がないけど、分かる!

 管理神様の、満面笑顔のVサインが目に浮かぶ。


「ははは、凄いね~。でもさ、女の子はやきもち焼いて仕方がないだろう?」


 話がどんどん!

 シリアス展開になっているので、俺は何とかやわらげようと必死だ。

 俺はこの村で、普通に、「の~んびり」暮らしたいと思っているんだから。


 しかし、リゼットの話は終わらない。


「はい! でも私は我慢します。だからもし、村の女の子がケン様を本当に好きになって……お嫁さんになりたいと求めたら、全て受け入れて欲しいのです。そしてその最初が私……です」


「は、はい~っ?」


 最初?

 最初って、ナンダ?


「告白します! わわわ、私はケン様が好きです。昨日、お会いしたばかりだというのにちょっと会えないだけで、こんなに心が苦しいのです」


 やっぱり……

 リゼットは、真面目な女の子だ。

 そして一途いちずだ。


「リゼット……」


「もうひとつ聞いて下さい。私、ケン様に命を助けて頂いて、改めて自分がこの村で何をすべきか、何をやりたいかを考えました」


 一旦、失いそうになった自分の命。

 リゼットは助かってから、それを改めて考えてみたのだろう。


 軽く息を吐いてから、リゼットは微笑んだ。

 自分の将来をイメージして、夢見る乙女といった面持ちである。


「私……花を育てるのが好きなんです。以前、お父さんに町へ連れて行って貰った時に、花一杯の綺麗なお花屋さんを見て、自分でもやってみたい! そう思いました」


 成る程!

 お花屋さんか。

 女の子らしくて良いじゃないか。


 しかし、リゼットはしっかり、現実も見ていたのである。


「でもこの村で、普通のお花屋さんをやっても商売にはならない。そんな事を考えながら、ボヌール村へ帰る前に町のあるお店でハーブティーを飲んだんです」


 おお、ハーブティ。

 だんだん話が見えて来たぞ。


「凄く美味しかった! そして……これだ! と思いました」


 リゼットにとっては、目の前に道がぱっと開けたと感じたのだろう。


「その後、たまたま西の森へ内緒で遊びに行ったら、秘密の場所を見つけました。その場所はハーブの宝庫なんです」


 ああ、例のあそこだ。

 あの、自然のハーブ園の事なんだね。


 俺は、思わず頷いた。

 リゼットは、自分の話を真剣に聞いてくれる俺が嬉しいのだろう。

 にっこりと微笑んでいる。


「私……あの場所から株を持ち帰って、この村にハーブ園とお店を持ちたい。この前、とても怖い目にあってしまったけど……やっぱり諦めきれない。ケン様……いずれ私を、その場所へ連れて行ってくれますか?」


 ここまで聞いたからには、俺も心が決まった。

 それに元々、俺は……


「ああ、構わないぞ! それに俺も……リゼットが好きだ」


「え!?」


 リゼットは、俺の告白に驚いて、小さな手で口をふさいだ。

 

 ようし!

 今度は、俺が言ってやる!


「病気のお婆ちゃんを助けようと、あんな無茶までする優しいリゼットが好きだ。村の人の為に役に立つ夢を、しっかり持って頑張ろうとするリゼットが大好きだ」


「ケン様!!!」


 俺の言葉が『響いて』いるのだろう。

 リゼットは、目に涙がたまっている。

 悲し涙じゃない、嬉し涙。

 

 ここで、俺はひとつ提案をする。


「リゼット、また俺と秘密を持って貰えるかい?」


「また? ひ・み・つ……ですか?」


「ああ、秘密を絶対に守ると約束してくれ、決して大きな声をあげるなよ」


「は、はい!」


「行くぞ! ほ~ら出ろぉ!」


「ああああっ!?」


 俺が魔法の箱から出して、テーブルの上にぶちまけたのは……

 昨夜、西の森まで取りに行ったハーブの数々。

 良い香りがする、切り取ったララルーレの花。

 根っこがついて、そのまま植えられる数種の草も。


 魔法の箱の中は全く時間が進まないから、劣化しないで保存出来ると、クッカに教えて貰っていたからね。


「ああっ! 風邪に効くララルーレ、それにトットコでしょ、ラーダにフィルまであるっ! どどど、どうして?」


「お婆ちゃんが辛い思いをしているのに、出すのが遅くなって御免な。リゼットを助けた日の晩……だから昨夜だな、俺が西の森へ行って取って来たんだ」


「もしかして! わわわ、私の為にっ!」


 リゼットは、さすがに驚いたようだ。

 夜、ひとりきりで森へ行くなんて、常識では考えられないからだろう。


「ああ、お父さん達から、リゼットがあんなに怒られていたからな。だけど大事なお婆ちゃんだから、万が一危険を冒してまたひとりで森へ行ったら困るだろう? 現にゴブより怖い魔物が出たぞ」

(変態ちっくな狼男だったけど……)


「ええっ!? ケン様! 危ないですよっ」


「ははは大丈夫、何とか倒したぞ」

(本当は一撃だったけど……)


「………やっぱり……そうだ!」


 ここでリゼットは、納得したように微笑む。

 そして、真っすぐに俺を見る。

 何かを、確信したって感じだ。

  

「やっぱりケン様は私の王子様だ! 強い強い王子様だ! ケン様ぁ! 大大大好き!!!」 


 リゼットは、勢いよく俺の胸へ飛び込んで来た。

 そして俺を優しく「じっ」と見つめた後、情感たっぷりにキスをしてくれたのである。


 そんな事があった、次の日の朝……


 俺はリゼットの家で朝飯をご馳走になった後、2日目の研修に臨むべくガストンさんの下へ向かっていた。


 ……あれから、俺とリゼットはふたりで結婚の約束をした。

 キスもあと2回、あっついのを「ぶちゅっ」とね!

 もうひとつの約束、村の他の女子を、俺が受け入れる事も改めてしたのだ。


 そして……

 俺がリゼットを押し倒した?

 Hした?


 ノンノンノン!


 そんな事はしない。

 俺は……紳士だから!


 ……本当はリゼットが「貰ったハーブを内緒で使って、お婆ちゃんを早く直したい!」というから仕方なく自宅へ帰したんだ……はぁ……

 一応16歳未満はH禁止ってのもあったけれどね。


 俺は、自分の勇気のなさに苦笑する。

 B行為、すなわち、おっぱいくらい触っても良かったかなと。


 俺は、そんなもやもやした気持ちで歩く。

 そして、今日の研修の先生役となる、屈強な戦士の待つ村の正門へと向かったのであった。

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