ヤキモチカレシ。

歌音柚希

ヤキモチカレシ。

最近、彼氏であるかなえの様子がおかしい。


いやまぁ、何がおかしいのか具体的に百三十文字以上百四十字以内で述べよ、と言われても返答に窮するだけですが。


文字数的な意味ではなく。


なんか、なんとなく機嫌がよろしくないのとは違う気がするんだよなぁ……。

私何かしたっけ? 身に覚えがないけど。


ということで。


我が親友であり、叶の親友でもある遊に相談してみた。


「こういう事情なんだけど、どう思う?」

「心当たりはねーの?」

いかにも面倒くさそうに、一応聞いてくる。私は勢いよく机に突っ伏した。

「それがあったらこんなに悩んでないわボケ」

真面目に取り合ってくれない遊を、怨みがましい気持ちで見上げる。

遊は、やれやれといった風に首を振った。いちいちわざとらしい奴!

「答えなんかここにあるだろ」

「は?」

遊の言ったことは理解できない。だから私は思いっきり首をかしげた。

『ここ』にあるの? え、教室だよねここ? 何故?


疑問符が手を繋いで踊る踊る。回る回る。


いくら噛み砕いて内容を飲み込もうとしてもできない。

結局ギブアップだ。

「どーゆーことですかー?」

私のお手上げ宣言に、遊が大げさなため息をついた。


癪に障るったらありゃしない。


「俺の言ったことがわかんねーやつはさっさと帰れ! 叶が待ってるぞ、この幸せ者が」

何で叶が、と思ったら。

ちょうどドアが開いた。案の定といいますか、そこには件の彼がいた。

幸せ者がって吐き捨てられたことは彼方に消えて、驚きに上書きされる。

「叶!?」

今日も遅くなるから先に帰ってていいよ、って言ってたのに。

「予定より早く終わったから……。まだいてよかった。一緒に帰ろ?」


久しぶりに聞いた気がする、“一緒に帰ろ?”


実際には三日なんだけど。

たったそれだけなんだけど。


どうしてこんなにも嬉しいのかって、そりゃあ好きだからだよね。

最近お互いに忙しくて、ゆっくり喋る暇も一緒に帰る暇も無かった。

心の奥では恋しかった。そんなの表には出さないよ?


「じゃあね、遊。話聞いてくれてありがとう」

「うぃー」


外はとても寒い。雪が世界を飾り立てる。はらはら舞ってもすぐに溶けてしまう儚さを知ってなお、雪はその身で私たちに冬を教える。

気づけば、恋人として叶と迎える一回目の冬だ。

降っている、と形容できないくらい量の白いそれを、身を竦ませるような風が巻き上げていく。おかげで雪の寿命が延びる。


「さっき、遊と何話してたの」

気のせいか、いつもより低めの叶の声。

「ん? 相談してただけだよ」

「僕ってそんなに頼りない?」


言葉尻に重なるんじゃないかって勢いで、叶が脈絡のないことを言う。


「……頼れる人だよ? 叶は」

「だったら」


こちらをまっすぐに見つめる。


不覚にも、ドキッとしてしまう。叶の真剣な表情が、私は大好きなんだよ。君は知らないだろうね。


「だったら、僕に頼ってよ。あいつじゃなくて、僕に」


……あぁ。つまり、そういうことだったんだ。

なんだ、私と同じじゃないか。


「嫉妬させてごめんね、叶」

やっと分かった。遊の言葉の意味。今までの叶の態度の意味も。


全部全部、好きだからなんだ。


「なっ……!」

言葉を詰まらせた叶がそっぽを向く。

右手を握りしめてるから、絶対に今の叶は照れている。

ふふん。いつものお返ししてやる!

「照れてるー?」

わざと叶の正面に回り込む。顔が赤く染まっているのが分かりやすい。

「うるさい! 性格悪いよ!」

分かりやすい性格してるなぁ、叶。

だってほら、急に足早に歩きだす。

遅れないように小走りでついていくと、叶は自然に歩調を緩めた。

こんなさりげない優しさも、私は大好き。


「ここ最近、ずっと遊ばっかだったから」

叶がいじけたような拗ねたような、一言で表現するとすれば『可愛い』声で、そんな爆弾台詞を呟く。

私より成績低いくせに、いい性格してるくせに、身長さほど変わらないくせに、


なんて威力が強い爆弾なんだろう。


「私より可愛いか男のくせにぃ!!」

抱きつこうとすると、華麗に避けられた。声つきで。

こんな冷めたところも良い。

特に、珍しくでれた後に素っ気なくなるこの冷たさが好きだ。

「全部分かってるんだからー、照れ屋め」

その冷たさをからかったときの反応も同じく。

「ヤキモチ焼いて悪い!?」

「悪いなんて言ってないよ、むしろどんどん焼いて。苦しくなるくらいに」

これは本心。

もっともっと妬いてほしい。だってそれは動かぬ証拠なんだから。


そこに愛があるという、完璧で最強の証拠。


「えー……やだ。もう二度と焼かない」

「何でさ」

「からかわれるから」

からかってないよ。愛のある絡みだよ。

あ、それをからかいと言うのか。あは。

「ジェラシーしてよー」

「それ変じゃない?」

「いいの」


なんだかんだ言ってもさ、結論は不変だよね。


叶は私が好きで、私は叶が大好き。


これが幸せだろうとも。

幸せだからもうそれ以上は求めない。


「ヤキモチ焼いてくれてありがと」

「何それ」


叶が小さく笑う。私もつられて笑う。

そんな日常。


「君が一番に決まってるでしょ、ちゃんと大好きだよ、叶さん?」


ちょっと間を置いてから、負け惜しみのように叶は控えめに叫んだ。


「僕もだしッ」


嫉妬されるのも、たまには悪くないかもね。



……………………なんちゃって。



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ヤキモチカレシ。 歌音柚希 @utaneyuki

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