終章
終章 旅は終わり、木こりは村に
朝が来る。
全てを終息させる朝だ。
王国の霊廟では大神官が聖岩に一本の剣を掲げつつ、祝詞を朗読していた。
かつて建国王が聖剣を岩に戻した際に行われた儀式の再現だとからしい。
その様子をサンジカンさんが感慨深げに眺めている。
「神殿の尽力で聖剣は元の姿を取り戻した。ありがたい事であるな」
なんでも1ヶ月以上の祈祷の果て、大司教がその身に神の力を降ろし、聖剣に祝福を与える事で復活させたのだとか。
大神官さんはそういう方向で話をまとめたと聞いた。
事実を知る僕達にはまるで感動できない作り話だが、それで僕達への追究が無かったのだから良しとすべきだろう。
剣が折れた理由を聞かれても答えようが無いし。
「儀式、完了致しました」
かくして聖剣は再び岩に突き立てられた。
「これでようやく我が国は本来の威光を取り戻した、というべきだな」
「そうですね」
あの剣は別物なんすけどね、と心の中で突っ込む。
その事を知っているのは儀式を仕切っている大神官の他、ここで作業を見守っていた僕達4人のみ。
旅のねぎらいか、村に帰る準備をしていた僕はサンジカンの計らいで旅の仲間と共にこの場へと呼ばれたのだ。
その彼の喜び様を見ていると色々複雑な心境ではある。
「剣、抜けません!」
「ジェフリーも同じく!」
念のため何名かの騎士が剣に手をかけ、引き抜けるかを試しているが剣はビクともしない、そうあるべき光景が広がっている。
「これで『選定の剣』の儀式も再開できる。聖剣が折れるなどという珍事で中断されてしまっていたが──」
早速次なる事務的手続きに思い巡らせ始めたらしいサンジカンと目が合う。
「──トート村のブロウよ、お主も儀式の途中であったな」
「……は?」
「剣が折れたのだ。正式な儀式の成立には至っておらんだろう」
言われてみれば、引き抜けるかどうかの判定は出来てなかったかもしれない。
「またお主を遠方から呼ぶのも手間だ。今ここで試していくといい」
「うへえ」
旅の仲間が見守る中、促されて剣の前に立つ。
もう2ヶ月以上も前になるのか、色んな馬鹿げた思い出が過ぎる。
聖剣と呼ばれていた消耗品が折れた事で僕は旅に出る羽目になったのだ。
結果的に意味の無い、しかし良い出会いをくれた旅だった。
そう、剣が折れた事で僕は──
「あの、もし、また折れたら、どうします?」
「はっはっは」
嫌な予感をサンジカンは笑い飛ばす。
「もし万が一、そんな事が起きようものなら……」
「はいすみません、そんな事起きませんよね!」
しかし目が笑ってなかったので謝っておく。
湧き立った不安を振り払い、剣に手を伸ばす。
「……ふぅ、いきますよ」
斧が馴染む僕の手に聖剣の柄が収まる。
ここから引っ張れば
「──えっ、ブロウさん!?」
突然背後で悲鳴が上がる。
驚いたような、慌てたような、急いたような少女の声が。
「リーズ? どうした」
僕は反射的に振り返り、
すぽり。
視線の先に全員の驚いた顔を見出す。
「あれ、なんでみんなが驚いてるの?」
声の主、リーズだけじゃなかった。
サンジカンも、大神官も、お付の騎士達も、ナイトソン&アコットの2人ですら愛情表現を忘れて目と口を丸形にしていた。
こういう時、僕が説明をお願いする相手は決まっている。
「リーズ、解説プリーズ」
「……予測したんです」
「何を?」
「それを」
震える指先で、彼女は僕を指差した。
いや、僕の手の中にあるものを。
聖なる剣。
手に収まった聖剣を。
今度は折れる事なく、僕の振り返る動きに従って岩から引き抜かれていた。
重々しい沈黙が聖廟を支配する。
その帳を破ったのは、さっきの笑顔をより深くしたサンジカン。
「……トート村のブロウ君?」
「……はい」
「少し城内で話をさせてもらってもいいかね? 拒否はさせんが」
「……はい」
……妹よ。
兄は村に、まだ帰れそうにない。
『聖剣が折れるとか聞いてないんですけどぉ!』 完
『この聖剣、斧に換えてくれませんかねえ!?』 に続く?
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