第3話 真実の入り口
「聖剣だ。みだりに開けるでないぞ」
「……は?」
はて、聞き違えただろうか。
この大きなケースに聖剣が入っていると言われたような。
「今なんと?」
「聖剣を収めておると言った。それをアーネリア城付の大神官に渡してもらいたい」
うん?
うううん???
「無論その事は他言無用。それで此度の件は仕舞、後は城の者が取り計らうだろう」
「村の木こりよ、帰りはこちらの用意する転送門を使うがいい。案内は」
「あのっ!」
用が済んだと言わんばかりの2人を遮る。
「つまり……どういう事なんでしょう?」
疑問がふんわりした形なのは仕方なかった。
聖剣が折れてから訳の分からない事だらけだったのだ。
剣が折れたかと思えば神殿から神託が下ったとされ。
巡礼じみた徒歩での旅を言い渡され。
旅の過程や行動も後の最終的な神託の判断基準にされるなどと脅され。
バカップルの双方向フェロモンにあてられ。
僕の右腕が勘違いしたいと騒ぎ立て。
いや、最後のふたつは関係ない。
「これが聖剣って、今の1~2分で直ったんですか? 神託が関係してるんですか?」
結局この2点に収束する。
聖剣が折れた事でどんな神託が下され。
折れたはずの聖剣がここにあるのか、或いは神殿にあったのか。
この疑問、発しても問題は無いはず、むしろ問わずにはいられなかった。
しかし。
「貴方には知る必要の無い事です」
「司教様に対し無礼である。下がれ、辺境の木こりよ」
返答は実に素っ気なかった。
答えるつもりが毛頭ない姿勢だった。
そちらの言い分で僕達に旅をさせたくせにその必要性を言及する事も、事情の説明も謝罪の一言もない態度。
流石に少し、いや、かなりイラッと来た。
「……これは色んな事を斟酌して、僕の精神がストレスで危機的状況だと受け取っていいと思うんですよ」
「は? お主、何を──」
僕は握り締めていた右手、折れた聖剣が入った袋を取り出す時も握ったままだった指を開く。
そこには小さな鈴がひとつ。
控え室を出る時、リーズはこう言ったのだ。
『わたし達がついていますから、きっと大丈夫です。それに万一、危険な目にあった時はその鈴を鳴らしてください』
リーズナッボ! 本当に出来た子!
心因性危機的状況下において僕はこの鈴を鳴らす。
鳴らした。
途端、僕の前の空間が歪んだ。
「イスアン、あれは!?」
「く、空間歪曲の魔術、転送門の反応です!」
解説ありがとう。
後から聞いた話だと、僕の受け取った鈴を座標に転送門を開くのと同じ魔術を使ったとの事。
緊急用で多用できる代物ではないらしいけど、もう旅も終わりだし使ってしまってもよかったんじゃないかな!
「ブロウ君! 無事かい!?」
開かれた門から飛び出してきたのは剣を構えた白騎士様と拳舞無双の女神官、そして眠らない居眠り少女。
旅の愉快なパーティがここに再び揃ったのだ。
「木こりよ、これは何の真似……!!」
「ここまで人を旅させて、『何も説明しません・されませんでした』じゃ僕だってみんなに申し開きできないって話ですよ」
それに彼らだって僕と同様、この旅の意義や理由を知りたいはず。
妹だって知りたいに違いない、ならば一緒に尋ねよう。
「みんな聞いてよ。この鞄を渡されてさ、『中に聖剣入ってるんで城の大神官に届けてくれ』って言われてさ、それ以外に何の説明もされなかったんだけど、みんなはどう思う?」
******
かくして広間には神殿の偉い人2人と僕達旅の仲間が向き合っていた。
ただし剣呑な雰囲気はどこかに飛び去り、代わりに「もはやしょーがない」的な空気が満ち満ちていた。
それはそうだ、神殿が他言無用にしたかった話を騎士・城勤めの神官・魔術師と異なる立場の人間にぶちまけたのだから。
仮にも王国からの使者、全員の口を封じるのは難しいだろう。
「貴方がたにも事情を理解し、口を噤んでもらうしかあるまい」
諦めの表情でシキョーさんはそう言った。
「で、改めて聞きますけど、結局何がどうなってこうなってるんです?」
「質問は明確にしてくれ」
馬鹿ですみません。
「司教様、そもそも聖剣がここにある、というのは?」
「事実だ」
アコットさんの問い掛けに短い肯定。
しかしここに本物があったとすれば、ひとつの結論が出る。
「では、あの折れた聖剣は偽物だったと?」
「いや、あれも本物であった。蓄積魔力が切れておったが」
は?
「刀身を形成するアルムナ合金は魔力切れを起こすと極端に強度が下がる。折れたのはその状況で引き抜こうと振り回され続けた金属疲労が原因だろう」
へ?
「どうやら前回交換した剣が不備で充分な魔力量を溜めおけなかったようでな。原因の究明と新たな剣の精製に時間を要すると判断し」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
堪らずと言った感じにリーズがシキョーの言葉を遮る。
分からなくもない、僕だってとてもツッコミを入れたい事を言われたのだから。
「あの、あれもこれも本物って事は、聖剣って2本あった──」
「──いえ」
先んじた僕のツッコミにリーズが震える声で割り込んだ。
「聖剣とは、もしかして、使い捨てなのですか?」
………………は???
は? 使い捨て?
だって建国王以来、王家は代々聖剣を奉ってとかなんとか言われてて。
「あの、リーズさん? 何を」
「娘、よく気付いたな」
「事実なのぉ!?!?」
い、妹よ、妹よ妹よ妹よ!
兄はなんか知っちゃいけない事を知った気がする。
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