ファイナルラウンド4

「バカな!? 超妹3……だと!?」


 ルーファウスは驚きのあまり、その場に尻餅をついて倒れた。


 この際、2はどこいったんだとかいう突っ込みはナシだ。


「オレの妹は伝説を超える!」


「ふ、ふん。だが……いくら妹力があろうとも、人造妹にはかなわん。なぜならば……」


 マユの拳が人造妹に触れた瞬間、人造妹の体が金色に輝いた。


「力が……妹力が奪われてる!?」


「排除、開始します」


 人造妹の右手から灼熱の業火が放たれる。それはさっきリコちゃんのスク水を燃やした火力の比じゃない。


「く!?」


 マユはそれを無慈悲なる女神の吐息イグニスではじき返すが、はじき返した無慈悲なる女神の吐息イグニスごと、再び人造妹に吸収されてしまった。


「これでわかったかい? 人造妹は相手が強ければ強いほど、それに比例して強くなるのだよ。たとえこの先、超妹4が出ようが、超妹100までいこうが、お前たちに勝ち目は……ない!」


 超妹は100までねーよ。と、返してやりたいところではあるが、これはまずいな。


 力を吸収してしまう相手に、どう戦う? このまま攻撃を与えても、いたずらに力を増やすだけ……まるで、底の見えないバケツだ。


 いや、まてよ。許容できないだけの妹力を与えれば……自滅に追い込めないか?


 破裂しない風船はない。底がないバケツはない。


「マユ! もう一度、無慈悲なる女神の吐息イグニスだ!」


「え? でも、吸収されちゃうよ!?」


「それでいいんだ。膨らみ過ぎた風船は、破裂するしかない。バケツにあふれた水は、こぼれるしかない。それと同じ原理だ!」


 オレがそう叫んだ瞬間、ルーファウスはバカにしたように笑った。


「愚かな。人造妹は普通の妹とは違う。常人に制御できないほどの妹力を内包できるよう、肉体を強化してあるんだ。無駄なことを」


「それでも、やってみなきゃわからないです!!」


 マユの小さな口から光の柱が放たれる。超妹3になった今、その威力は以前とは比べ物にならない。


「……!!」


 だが、人造妹は正面から受け止め、いとも簡単に吸収してしまう。


 ……くそ! ダメ、なのか?


「マユ、あんたは大人しい癖に、他人に頼るのが嫌いな頑固な子だったよね。ピンチな時くらい、友達に頼りなさいよ、まったく」


「ほんまやで、少しは年上の同性に甘えることも覚えや?」


 マユの左右にぼろぼろのスク水をまとったリコちゃんと、布きれに近い状態の体操服を着たユノが寄り添い、マユの背中に手を当てると、力を注いだ。


「リコちゃん! ユノさん! ありがとう!!」


 マユの無慈悲なる女神の吐息イグニスはいっそう威力を上昇させるが、まだ足りない。


「ふはははは!! 人造妹よ! すべて飲み込んでしまえ!」


 もう1人。もう1人分の力が必要だ。


「う……お兄様……」


「マリアちゃん!」


 リングの隅でうめくマリアを見て、オレは駆け寄った。彼女の力を借りることができれば……あるいは勝てるかもしれない。


「マリアちゃん……力を……貸してくれないか?」


「マユのお兄様……でも……わたくし、お兄様にいらないと……妹ではないと、言われてしまいました。もう、わたくしは誰の妹でもないのです。今のわたくしの妹力は0。何の役にも立てません。わたくしなんて……生きていても、仕方がないのです」


 マリアの瞳にうっすらと光るものがあった。


「だったら! オレが君を妹にする! だから、そんな悲しいこと言うな!」


「え?」


「君を放っておけないんだ。どこにも居場所がないなら、オレが君の居場所を作ってやる! だから、今日から君は……オレの妹だ!」


「……」


 マリアの瞳から、大粒の涙が零れ落ちた。


 ……オレでは彼女の悲しみを拭うことはできないのか?


「ありがとう。初めてです……嬉しさで涙を流したのは」


「え?」


 マリアは今まで見たことのない女神のような笑顔で、オレの胸に飛び込んできた。そして、ゆっくりと顔を上げ、恥ずかしそうにオレの目を見る。


「その……呼んでもいいですか? あなたのことを……お兄ちゃんと」


「ああ!」


「お兄ちゃん!! わたくし、マユさんを助けてきます!」


 マリアはオレからそっと離れると、マユの隣に立った。


「マリアちゃん!? 体は大丈夫なの?」


「はい。それになんだか、今まで以上の力が……出せそうな気がするのです」


「ふはははは!! 愚かな女だよ、マリア。すでに誰の妹でもないというのに、お前に何ができるっていうんだ!?」


「いいえ……マユさんのお兄様は、わたくしを受け入れてくれました。今日からわたくしは、坂崎マリアです!」


 マリアの体が金色に光る。超妹に覚醒したのだ。いけるぞ。超妹が2人!


「な、マリアを義妹に……!? だが、その程度では!」


 一瞬、ルーファウスの顔が驚きで歪んだが、すぐに冷静さを取り戻した。


「マリアちゃんを妹にって……お兄ちゃん……あとでぶっ殺す」


 一瞬、マユの顔が憎悪に歪んだ。


「……怒った顔も可愛いぞ、マユ」


「え、ほ、本当……? で、でもあとでちゃんと説明してもらうからね!!」


 マユは真っ赤になってオレから顔を背けると、マリアを見た。


 ああ、危なかった。本気で殺されるところだったぞ、オレ。


「マリアちゃん、力を合わせよう!」


「はい、マユさん!」


 マリアはマユに抱き付くと、その力をマユに分け与えた。


 超妹3のマユ。義妹のリコちゃん。巨乳な妹のユノ。そして、洋ロリな妹マリア。


 4人の妹たちの力が一つになって……巨大な光の波となる。


「いけええええええ!!」


 人造妹は光の波を吸収しきれず、押されて膝を付いた。


「な、なぜだ!? なぜ、こんな力が……!!」


 驚愕の事態にルーファウスは膝を付き、頭を抱える。


「ルーファウス。お前、わかってねえよ。妹ってのは、ただの年下の女兄弟じゃない。兄がいるから、妹なんだ! 愛があるから、妹なんだ! お前は妹を愛することを忘れた……そんな愚かな兄に、妹を止めることはできやしない!」


 そして人造妹は、リングから押し出され、壁に叩きつけられる。


「ルーファウス……妹を……なめるな!」


 人造妹は、気絶してそれ以上起き上がることはなかった。


 マユたちが勝ったのだ。

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