ファイナルラウンド3
「マリア・ルイベルが超妹に……」
去年までの試合データにはなかった。今までずっと手を抜いていたのか?
マリアはキレイな金髪を揺らし、愛らしくマユに微笑む。
「坂崎マユ、誇りなさい。このわたくしに本気を出せたことを。あなたはとても頑張りました。賞賛に値します」
マリアの威厳ある言葉に、マユはたじろぐ。
気品と美しさ溢れるその姿に、その場にいる誰もが息を呑んだ。
『おおおおお!! マリアちゃあああああん!!』
『俺を踏んでくれええええ!!』
『お姫様ああああああああああ!! ご命令をおおおおお!!』
会場の男どもが続々と変態的な発言をする。
今のマリアには、神々しい何かが宿っている……そんな感じだ。
オレも言葉が出てこない。頭ではマユを応援したい気持ちでいっぱいなのに、マリア・ルイベルから目が離せない。
「降参なさい。ここまでの攻撃ではっきりと解りました。あなたではわたくしにかなわない。これ以上の戦闘は無意味です。あなたのお兄様がいる目の前で、無様な姿はさらしたくないでしょう?」
「……ふざけないで! マユは……マユは確かに勝てないかもしれない。けれど、勝ち負け以上に大切なことがあるの! マユが負かしてきた他の妹たちのためにも、最後までマユは戦う! なにより、お兄ちゃんを失望させたくない。ここまでずっと支え続けてくれたんだもん!!」
マユの瞳に闘志が宿る。妹力カウンターはすでに計測不能な領域だが、まだまだ上がるのかもしれない。
そうだよ。何気圧されてんだ、オレ。
マユのお兄ちゃんはオレ一人なんだぞ。オレがあいつの勝利を信じてやらないでどうするんだ。
「いけ!! マユ!! オレの可愛い妹!!」
「うん!!」
マユは金色の光となってリングを駆けた。
「精神論では絶対的な数値を覆すことなどできません」
マリアもまた、一筋の光となってリングを駆ける。
爆音に次ぐ爆音。振動と閃光が会場に満たされ、その場にいる誰もが動けずただ見守るしかできないでいた。
「きゃあ!?」
けれどしかし、攻撃の応酬はすぐに収まり、無慈悲な結果がリングに残される。
「簡単な計算式です。10と100。どちらの数が大きいですか? 考えるまでもないでしょう」
「や……だ……まだ……終わって……ない、もん」
リングに空いた大穴。その中心に傷だらけのマユがいて……マリアはまったくの無傷で見下ろしていた。
「約束したんだもん。最強の妹になるって……約束、したんだもん!!」
「まだわからないのですか? あなたでは――う、ぁ……!」
急にマリアは苦しみだし、地面に膝を付いた。
「マリアちゃん、どうしたの?」
超妹は解除され、元の銀髪に戻っている。荒い息で胸を抑え、非常に苦しそうだ。
「もう……時間がないのですね……ごめんなさいマユさん……」
「え? 何で謝るの? 意味が解らないよ」
マリアは苦しそうに立ち上がると、マユに近づいた。
「早く、ここから逃げて。このままでは、兄の思い通りに事が進んでしまう……く!?」
「マリアちゃん!?」
マユと入れ替わるように、マリアは地面に倒れてしまう。
マリアが倒れてしまった。病気? ケガ? この場合、試合はどうなるんだ?
その時だった。
「ふん。所詮は欠陥品か……」
「あいつ、ルーファウス!?」
ルーファウスがリングに降りて、マリアを見下ろしていた。
「お、お兄様……」
「僕を兄と呼ぶな、薄汚い妹め。お前は所詮ビジネスの道具でしかないんだ。気安く話しかけるんじゃない」
ルーファウスは、まるで汚い物を見るような目で、マリアを見た。
「お前はここまでのようだね。もう用済みだ。すぐに処分してやる。それに必要なデータはそろった。あとは超妹……坂崎マユ。お前を始末すれば、僕がこの世界の覇者となる」
「え!?」
突然の出来事に会場は大パニックだ。地面が割れ、あちこちで火災が起こり、阿鼻叫喚の地獄絵図になる。
「な、何やあの子!?」
それをやったのは、1人の少女。赤い髪をサイドテールに結った中学生くらいの女の子。
女の子はジャンプしてルーファウスの隣に着地すると、マリアの胸ぐらをつかみ、締め上げる。
「や! あ、あうう……」
「これが僕の創り出した至高の戦闘兵器。
「さあ、まずはお前だマリア。僕は妹ではなくお姉ちゃんが欲しかったんだ。お前にはここで死んでもらうよ?」
人造妹の手がマリアの首にかけられる。だが次の瞬間、マリアの姿はそこになかった。
「……ったく、見てられへんわ。大阪人はイラチやけど、人情深いんや」
「ユノ!」
体操服に着替えたユノが、リングの端にマリアを避難させ、人造妹を睨み付けた。
「ふん、ザコが。やれ、人造妹」
「はい、マスター」
人造妹がこくりとうなずき一歩前に飛び出す。そのとき、赤い光の刃が彼女の足元を薙いだ。
「マユは……大切な友達はやらせない!」
「リコちゃん!」
今度はスク水に着替えたリコちゃんが、人造妹に攻撃を繰り出した。
「そろいもそろって……ふん。まあ、データ収集にはちょうどいいだろう。殺せ、人造妹よ」
「はい、マスター」
すでに決勝戦はなくなったも同然。ルーファウスは私利私欲のために妹を利用し、世界の敵になろうとしている。
それを止められるのは……彼女たちしかいない。
「ほな、行くで!!」
ユノのオパーイが揺れる。一瞬で人造妹の背後に回り込み、ホットパンツの先から伸びた足を、ハルバードのように閃かせる。
「……」
しかし、人造妹はそれをわずかな動作で回避する。
「私だって!!」
人造妹が回避したスキを狙って、リコちゃんが空中から襲い掛かった。
「……」
それも回避され、逆にリコちゃんは付け入るスキを与えてしまった。
「破壊する」
人造妹の右手がリコちゃんに向けられる。右の掌から陽炎が生まれ、灼熱の業火が放たれた。
「しまった!!」
「リコちゃん!!」
リコちゃんが……スク水が一瞬で炎に包まれ、地面に倒れる。
「よくもやりおったなあ!」
「破壊する」
今度は人造妹の左手がユノのオパーイを鷲掴みにした。
「な!?」
ユノは驚きと羞恥で赤くなるが、すぐにそれは真っ青に変わり、全身が凍り付いた。
炎と氷を操るのか、あの子は!!
「排除、完了しましたマスター」
「うむ。では、最後の仕上げだ。坂崎マユを殺せ」
「はい、マスター」
殺す? マユ、を?
「やだ……やめて……」
マユはマリアから受けたダメージが効いているせいか、動くことすらできないでいる。
「さあ。坂崎マユ。その命をささげるんだ。僕の野望のために」
おいおいおい。何言ってるんだ。これ、キングオブシスターズだろ?
試合だろ? ルールはどこいったんだ?
マユはまだ中学一年生なんだぞ。子供なんだぞ。オレの……可愛い妹なんだぞ。
――ふざけんなよ。
「ふざけんなよ!!」
気が付いた時にはもう、駆け出していた。
オレはか弱いただの人間だ。妹力を扱える女の子たちとは違う。時間は止められないし、数メートルもジャンプできない。
かなうわけない。こんな化け物みたいな奴に。
わかってる。わかってるけど、逃げるわけにはいかない。
「貴様……さっさとそこをどけ」
「嫌だね」
オレはマユの前に立って、両手を盾のように広げた。
ルーファウスはさも興味がなさそうに首を振ると、ため息を吐いた。
「そうだ。金をやろう。お前では一生働いても稼げない金額だ。妹1人差し出すだけで、お前は一生遊んで暮らせる……どうだ安い物だろう?」
「金だと? ああ、欲しいね! ゲームもなんでもいっぱい買えるしな。けどな、どんな大金積まれても可愛い妹と釣り合わねーよ。オレの妹はお前の全財産程度のチンケな額で買えるほど、安くない!!」
「バカな奴だ。殺せ」
「はい、マスター」
人造妹がじりじりと近寄ってくる。
やってやる!! オレだって、近所の子供相手にプロレスごっこで負けたことないんだ! ……小学生相手だけど。それも、女の子だけど。
「行くぞ! この野郎!!」
「排除開始」
え? 消え――。
「た!?」
まるで時間が止まったみたいだ。気が付いたときにはもう、オレは倒れていた。
……痛え。たぶんどっか折れてる。けれど……。
「妹には……マユには指一本触れさせねえ!!」
立ち上がり、足に力を入れようとするが、うまく踏ん張れない。
「殺せ」
熱い。体が。口の中が。
殴られ蹴られ、投げられオレの体はぼろ雑巾みたいにくたびれ果てた。
「もう、やめて。お兄ちゃん!!」
「……マユ? お前……」
気力を振り絞って後ろを振り向くと、マユが立ち上がっていた。
「お兄ちゃんは……マユが守る。これ以上お兄ちゃんが傷付くのなんか、見たくないよ!」
「でも、お前……」
「マユは……もう、お兄ちゃんの背中に隠れてる臆病な妹じゃない、よ。これからはマユがお兄ちゃんを……守る!!」
「ほう?」
マユは人造妹を睨み付けた。
「マユには何が起こっているのか解らない。けど、あなたを倒さなきゃいけないっていうのだけはわかる!」
「人造妹には、超妹のデータも入っている。お前ごときが倒せる相手ではないのだよ」
ルーファウスはニヤリと悪役らしく笑った。
くそ!! オレには何もできないのか? ……そうだ。
少しでもマユを元気づけることができるなら……!
「マユ!! 受け取れ――!!」
オレはポケットの中に入れておいた、二つのシュシュをマユに放り投げた。
「13歳の誕生日おめでとうマユ! プレゼントだ!!」
「え、お兄ちゃん!?」
そうだ。今日は、マユにとって特別な日。13歳の誕生日なのだ。
「付けてみろ」
「う、うん。ありがとう、お兄ちゃん!!」
マユはシュシュで左右の髪を結った。
「なんだか、力が湧いてくるよ。お兄ちゃん!!」
瞬間、マユの体が黄金色に輝く。
ツインテールになったのだ。金髪碧眼ツインテールの超妹……その名も!!
「超妹3!! マユ。お前の妹力を見せてやれ!」
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