ファイナルラウンド2

「うお……何だこりゃ」


 会場に到着すると、今まで見たことのないくらい人という人で、海ができていた。


 選手じゃないオレでさえ、その光景に一瞬身がすくんでしまう。マユはこの中で戦うのか……。


「お兄さん! こっちです」


「おにーちゃんさん、はよおいでや」


 きょろきょろと周りを見れば、リコちゃんとユノが最前列の席から手を振っていた。


 オレのために席を取ってくれていたのか。ありがたい。


 人の海をかき分けて二人の所にたどり着くと、右手をリコちゃんにつかまれ、左手をユノのオパーイに挟まれた。


 おお、両手に花! 二人とも今日は私服で残念だが、この状況は嬉しいな。


「一緒に見ましょう、お兄さん」


「離さへんで。席が二つしか取れへんかったら、おにーちゃんさんの膝でもよかったんやけどなあ」


 非常に嬉しい申し出をユノから受けたが、今それはできない。今オレが思う妹はマユだけだ。


「お、なんか始まるみたいやで?」


 突然会場の照明が落とされ、主賓席にスポットライトが当てられた。光の中心には、銀髪の若い男が立っている。


『お集まりの皆様。今大会を主催させていただきました、ルーファウス・ルイベルです』


 ルーファウス・ルイベル……って、マリアのお兄さんか。決勝戦だもんな、主催者が試合前に一言くらい挨拶するか。


『さて、今大会もいよいよ終わりを迎えつつあります。世界中からお集まりいただいた妹の皆さん。そして、お兄さん。泣いても笑っても、この試合で最強の妹が決定します。最強となるのは、果たしてどちらの妹なのか?』


「え」


 今、一瞬……ルーファウスと目が合った?


『それを知るのは神のみです。さあ、始めようではありませんか。美しくも儚い戦士たちの、最後の戦いを!!』


 スポットライトはルーファウスからリングへ移る。


「あ、マユだ。がんばれー!」


 選手たちはすでにリングでスタンバイしていたらしく、マユとマリアの姿がそこにあった。


 マユは今回、赤の制服。対するマリアもまた赤の制服。


 同じ戦闘服ということは、単純に妹力の強いほうが勝つ。至ってシンプルだ。


「あれが、マリア・ルイベルか。まあまあ、可愛いやん。けどま、あたしのほうが可愛いけどな!」


 ユノがぷるんと胸を揺らしながらそう言った。


 確かにマリアは可愛い。あの小さな体と、小学校高学年とは思えない胸元……末恐ろしい子だな。今でこそ可憐な美少女だが、将来は巨乳の美女になるだろう。


『マリアちゃああああああああん!!』


「うお、びっくりした!?」


 突然会場はマリアちゃんコールに包まれた。会場にはなんだか特攻服を着たアイドルの親衛隊みたいなやつらもいるし……すごい人気だ。


『マリアたーーーーん!! 結婚してくれええええ』


 男どもの遠吠えが聞こえる中、渦中のマリアは非常に落ち着いた様子で手を振っている。


 完全にアウェーじゃないか。すでに会場の空気はマリア・ルイベル一色だ。


 くそ、負けてられない! 例え世界を敵に回しても、オレはマユを応援する!


「マユーーーー! 愛してるぞおおおおおお!! 結婚してくれえええええええ!! マユたーーーーん!!」


「ちょ、お兄ちゃん!! 恥ずかしいよ!! 何言ってるの、バカ!!」


 オレがそう叫ぶと、リングからマユが顔を真っ赤にしてあたふたと手を振っていた。


「大丈夫かな、マユ……」


「大丈夫ですよ、お兄さん。だってマユ、すごく嬉しそうでした」


「そっか、ならいいんだけど……」


 オレが安堵したのも束の間、ファイナルラウンド開始のゴングが鳴った。


 マユとマリアは互いに睨み合い、じりじりと間合いを探りながら一進一退を繰り返している。


 まさしく一触即発。まるで居合の達人同士が対峙したように空気が張り詰めている。さっきまでのアイドルのコンサート会場みたいな雰囲気はすでにない。


「フフ。さすがですわ。坂崎マユさん」


 マリアは挑発しているのか、お嬢様らしく口元に手を当て上品に笑った。その姿も非常に可愛らしい。ていうか、抱きしめたい。


「え? な、何」


「わたくしの妹力を前にしても退かないその勇気……ここまで勝ち上がってきただけはありますわね。褒めて差しあげます」


 妹力カウンターを見れると、マリア・ルイベルの妹力は現在14万2000。


 マユの妹力は現在5万8000。倍以上の差がある。けれど……! 妹としての実力は数値だけじゃない。


「マユ、お前の力を見せてやれ!」


「うん! お兄ちゃん!!」


 マユの右手に赤い光が収束していく。


「あれは……私の!?」


 放たれる赤い閃光。それは光の刃となって、マリアに襲いかかった。


神なる妹の裁きジャッジメントエンド!」


 マユは一度見た超妹技を自分の物にできる。リコちゃんの技も、すでにマユは自分流のアレンジを加えて習得済み(さすがにユノの揺れる谷間の一時クロノスは、無理だが)。


「いっけええええ!!」


「あら。偶然ですわね。あなたもわたくしと同じこと・・・・ができるのですね」


「え?」


 マユの神なる妹の裁きジャッジメントエンドがマリアに直撃する。その直前だった。


 マリアの小さな体に実った二つの果実が……平たく言えばオパーイが、揺れたのだ。


「な、何やて!?」


 次の瞬間、マユはお腹にマリアの蹴りをくらっていた。


揺れる谷間の一時クロノス……!! そ、そんな。まだ11歳のあの子があんな技を。ロリ巨乳……だと!?」


 洋ロリ……恐るべし!


「ウフフ。驚いていらっしゃるの? でも、まだまだそれは早いですわよ!」


「う、うそ。その技は!」


 マリアの右足に青い光が収束していく。


 そして、一瞬でマユの懐に飛び込み、連続蹴りを放つ。まるで、分身の術みたいにマリアが複数いるみたいで、1人くらいお持ち帰りしてもバレないんじゃないかと一瞬考えさせられるが、それは犯罪だ。繰り返す、それは犯罪だ。もう一度だけ言っておく、犯罪だ。


「トドメですわ!」


 マユはマリアによって上空へ蹴り上げられる。無防備になったところへ、マリアがカカト落としを繰り出した。


神妹乱舞プリンセスイリュージョンまで!?」


 マユはリングへ墜落すると、うつぶせになったまま動かなくなった。


「う、う……そんな、マユの必殺技まで……」


「お分かりかしら? あなたではわたくしにかなわないのです。最強は、わたくし1人でいい。そう、わたくし1人が犠牲になれば……」


 マリアは悲しそうな顔をして笑った。


 何だ?


「勝手に決めつけないで! 最強は、あなたじゃない! マユは、マユだって!!」


 倒れているマユから黄金色のオーラが漂っている。


「まさか……マユ!? やめろ!! もう一度超妹になったら、お前の命は危ないぞ!!」


「お兄ちゃん……心配してくれてありがとう。でも、マユはやる! 妹には戦わなきゃいけない時があるの! 今はその時なんだよ!」


 マユは立ち上がると、ニコっと笑って目を閉じた。


「超妹……ですか。それでもわたくしの勝利は揺らぎません。伝説の妹と最強の妹……どちらが上か、身をもって知りなさい」


「はあああああ!!」


 マユの髪は金色に染め上がり、瞳は青くなる。超妹に覚醒したのだ。


「マユは、負けないもん!!」


 黄金色の光が残滓となってリングに残り、すさまじい衝撃と爆音が会場に伝わった。


「く!?」


 マユの拳による一撃を受けて、マリアが大きく後退する。


「まだだよ、マリアちゃん!!」


 マユの体が、一筋の金色の光となってリングを駆ける。すでに常人の目では何が起こっているのか理解できない状況だ。


「ええぞ、マユーー!! そんな生意気な女、やってまえ! お好み焼きで窒息死させたれ!」


「マユ、がんばれ!!」


 どうやらマユが押しているらしい。ていうか、お好み焼きで窒息死って斬新だな。オレならユノのオパーイで圧死か、リコちゃんのスカートの中で窒息死がいいけど。


「トドメだよ、マリアちゃん!」


 マユはリングからマリアの体を空中へ蹴り上げた。


 超神妹乱舞スーパープリンセスイリュージョン。いや、これは……。


 マユは小さな口を開き、そこから黄金の光が放たれる。


 超神妹乱舞スーパープリンセスイリュージョン無慈悲なる女神の吐息イグニスのコンボ!!


 ――勝った!!


 マリアの小さな体が光に飲まれ……え!?


「この程度で伝説を語られては困ります」


「うそ、まさか……」


 無慈悲なる女神の吐息イグニスはマリアに直撃する瞬間、軌道を強制的に変更させられた。


「初代キングオブシスターズ優勝者の名をご存知ですか? エリザベス・ルイベルの名を」


 マリアは黄金色の光をまといながら、リングへ落下した。


「我がルイベル家は彼女の末裔なのです。その子孫たるわたくしが、なれないわけがないでしょう、超妹に」


 マリアは、無表情な青い瞳でマユを見た。

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