第二試合 VS巨乳妹戦2

 超妹。マユの完全な姿。


 初代キングオブシスター優勝者も、超妹であったという。


 今まさにマユは、生きた伝説となったのだ。


「ユノさん。マユから一つだけ、お願いがあります」


「な、何やねん。急に改まって……」


 金色の髪が風でふわりと揺れ、マユは蒼いクリスタルソードのような眼光を放った。


 超妹に覚醒すると、金髪碧眼となる。なにより驚異的なのが――。


「降参してください。ユノさんの胸がいくら揺れようとも、超妹になったマユには、あらゆる方法を用いても勝つことは不可能です」


「うぁ!?」


 マユのセリフは、ユノを地面にひれ伏してから聞こえた。


 音速を超え、光の域にまで達したマユのスピード。誰もマユに追いつけない。


「はあ……」


 マユの妹力が急激に上昇していく。妹力を計測する妹力カウンターは、すでに30万を越えている。いや、まだ上がる。


 だが、オレの妹力カウンターは、40万を越えたところで煙を立てて壊れた。市販のカウンターでは、計測不可能なのだ。


「マユの妹力は、53万です」


 マユは、愛らしくもクールに笑った。


「だ、誰が。あんたみたいな中坊に……はい、負けましたなんて、ダサいこと、言えるわけないやろ!! 53万がどないしたんや! うちの住宅ローンは5千万やで!」


「残念です」


 マユの姿が消える。もはや、住宅ローンは関係ねーだろという突っ込みも忘れるぐらい戦闘マシーンと化している。


 そして、光の筋がいくつもユノの周囲を飛び交い、彼女の体がまるで踊っているように飛び跳ねた。


 神妹乱舞。いや、超神妹乱舞スーパープリンセスイリュージョン


「トドメです!」


 マユは全身に妹力を纏うと、赤い光りになって空中のユノのオパーイに突撃した。


 マユめ、なんて羨ましい。


 突撃した瞬間、空中で大爆発が起こって、会場の空に黒煙が巻き起こった。凄まじい威力だ。


 これでは、いくら妹力で強化しているとはいえ、ユノは……ユノの体操服が破けて……見える!?


 早く晴れろ、煙!


「オパーイ、カモーーン!!」


 オレは空に向って息をふーふー吹きかけた。


『びっくらこいたわ……さすが伝説の妹やな。けど、あたしはまだまいったせーへんで』


「え?」


 煙が晴れるとそこから現れたのは、残念というか肩透かしというか空気嫁というかオレが直に脱がしてやろうかというか、無傷のユノだった。


「どうして……マユの攻撃は、確かに命中したはず……」


「何故なんだーー!! マユ、もっと攻撃をしかけろ!! 地球を破壊するぐらい、ユノの体操服にダメージを与えろーー!! 男のロマンのためにーー!!」


「お兄ちゃん、うるさい」


 無視された。


 いや、それよりも……あ、あれは! ま、まさか……。そうか、あれがマユの超神妹乱舞を防いだのか。


 ならば、合点もいくというものだ。マユの超神妹乱舞がハルパーの鎌なら、あれはまさにイージスの盾と呼ぶに相応しい。


聖なる妹の絶対領域ニヴルヘイム。奥の手を使わざるを得んとは……恐れ入るで、坂崎マユ!」


 いつの間に着替えたのか、ユノは赤の制服に着替え、ミニスカートとニーソの嬉しいダブルパンチを披露した。


 いや、そうか。揺れる谷間の一時を使って、着替えたのか! くそ、なんてことだ。


 極めつけは、ミニスカートとニーソの間に形成された絶対領域。しかもあれは……伝説の『4・1・2.5』の黄金比率!!


 バカな。そんな、バカな。


「ニヴルヘイム……北欧神話ですか、ちょっと中二くさいですよ、ユノさん」


 マユが挑発的に笑った。黄金比率の絶対領域は、核兵器の直撃にも耐えうるだろう。


 絶対防御なのだ。だが、マユはまだまだ本気を出したわけではない。わけではないのだが……。


 いかに黄金比率の絶対領域といえども、超妹の力を持ってすれば、勝てる。


 しかし、簡単に決着を付けさせたなくない。なぜなら!!


 もっとユノの絶対領域を拝んでいたいからだ! うむむ……。


「中坊に中二言われんのは不本意やわ。ていうか、クロノスもニヴルヘイムも、兄貴が名付けたんやからしょうがないやろ。あんたかて、お兄ちゃんに無慈悲なる女神の吐息イグニスとか、怒れる破壊の女神シヴァとか、そんな名前付けられてみ? 反論できへんで」


「う……確かに、そうですね。お兄ちゃんのいうことは絶対ですから……」


「ま、ごたくはええわ。あんたに破れるか? このあたしの絶対防御を」


 ちらり、とミニスカートが揺れる。見えそうで見えないというのがなんとも憎らしい演出だ。


「ユノさんは、超妹の力をご存知ないんですね。わかりました、教えてあげます! マユの本当の力を!」


 マユの体に黄金色のオーラが湧き上がった。超妹の妹力を増幅しているのだ。


 一度だけ、特訓の最中に使ったことがある大技だ。


 あの時は威力を調節できず、衛星軌道にあった人工衛星を破壊してしまった。だが、今回は違う。


「これが、マユの全力全開です! 女の子らしくて、乙女な必殺技!」


 会場の空気が張り詰める。さらに、気温がぐんぐん上昇していく。


「は……はん! あたしの聖なる妹の絶対領域で防げへん攻撃はないんや! ビームでもピコピコハンマーでも、こども銀行券でも、何でも持ってこいや!」


 ユノはミニスカートをちらりと揺らした。


 惜しい。非常に惜しいが、マユの勝利のため。さらば、絶対領域!!


 この攻撃は、一点集中の大火力を誇る。溜め込んだ妹力を一気に解放する、大迫力の妹技。その名も……。


 あ、まだ決めてなかった。


 どうしよう? 何かかっこいい名前……名前……あ!


「決めろ、マユ! 無慈悲なる女神の吐息イグニスだ!」


「な!? 結局あんたんとこも、中二やないかい!! しかもパクんなや!」


 ユノはずっこけかけたが、ミニスカートであることを思い出し、踏ん張った。さすが関西人だ。


 マユはそのスキを逃さず空中に蹴り上げる。地上で使うと被害がハンパでは無いからだ。


「さよなら、ユノさん……!」


 マユの小さな口が開く。そこに黄金の光が収束していき――光の柱が放たれる。


「な、なんでやねんー! それのどこが乙女な技やねん! 思いっきり怪獣やないかーい!!」


 口腔部から発射されるビーム。それが、無慈悲なる女神の吐息イグニス


 ユノは空中で光の柱の中に消えながらも、ツッコんでくれた。ありがたい存在だ。


 当のユノは、ぼろぼろの制服姿で落下してきた。


「見事な勝利でしたわ」


「え?」


 いつの間にか、オレの膝の上に女の子が座っていた。


 銀色の長い髪をこちらに向け、白いドレスに身を包んだ小学校高学年くらいの女の子だ。


「やはり、イスは年上の殿方のお膝が最高ですわね」


「あ、あの?」


 女の子は背を向けたまま、手招きした。


「セバスチャン! お茶を」


「かしこまりました、お嬢様」


 突然執事がやってきて、女の子に紅茶の入ったカップを手渡した。


「クッキーはいかがでしょう、お嬢様」


「いただくわ」


 さらに、クッキーを食べ始める女の子。


「あの、この状況は嬉しいんだけども、君は一体?」


「あなた、この大会をどこまでご存知?」


「え?」


「今年のキングオブシスターズは、今までとは違うのです。スポンサーのルイベル財閥が、裏で暗躍しているのですよ」


「いや、何のことだか解らないんだけど……」


最終兵器妹開発計画プロジェクトシスター。……あなたも見たでしょう? 妹力が引き起こした数々の奇跡を。核兵器にも耐えうる防御と、衛星軌道の人工物さえ破壊できるビーム兵器。これを軍事利用しようと目論む連中がいるのです」


「それが……スポンサーのルイベル財閥、とでも?」


 女の子はオレの膝の上に乗ったまま、振り向いた。


 天使、だと思った。銀色の髪と透き通った白い素肌。頭に乗せた薄紫のカチューシャが彼女にピッタリと似合っている。


「ご名答です。彼らの目的は、超妹の細胞。その細胞からクローンを創り出し、最強の戦闘兵器とすることなのです」


「何で、オレにそんな話をするんだい?」


 女の子は、悲しそうにうつむいた。


「あなたと、マユさんなら……わたくしの兄を止めてくれるかもしれない。そう、思ったのです」


「兄?」


「お嬢様、そろそろお時間でございます」


 執事のセバスチャンが現れて、時計を指差した。


「あら、もう? 仕方がありませんわね……それではごきげんよう、マユのお兄様」


 女の子はオレの膝から降りると、銀色の髪を揺らして去ろうとした。


「待って! 君は一体?」


 女の子は背を見せたまま答える。


「マリアですわ。マリア・ルイベル」


 あれが最強の妹、妹の王、キングオブシスター。


 ――マリア・ルイベル。


 とんでもない美少女だった。今もあの子のお尻のぬくもりが、11歳の少女の体温がオレの膝に残っている。


 オレは叫んだ。


「まったく、小学生はさいこ――だぶぇ!?」


「くたばれ、変態お兄ちゃん」


「マ、マユ……いいパンチだな」


 リングから観客席までの距離を一瞬で詰めて、マユがオレに腹パンした。


 ちくしょう、腹パンと縞パン。こうも似ている単語なのに、ときめかないのは何故だ。


「そのセリフは二重の意味で危険なんだからね! それに……お兄ちゃんのお膝は、マユの特等席なんだから」


 マユはそういうと、照れてうつむいた。


「お膝に座らせてくれたら、ゆ、許してあげても、いいんだから!」


「おいで、マユ。まったく、お前はいつまでたっても子供だな」


「子供じゃないもん……妹だから、いいの」


 マユは背中を見せ、ブルマに包まれたお尻をオレの膝に着陸させようと――。


「マユだけなんて、ずるい!!」


「え?」


 横からリコちゃんが割って入ってきた。


「マユのお兄ちゃん、私にも座らせてください、ね、いいでしょ?」


「え、いや。オレは大歓迎だよ」


 即答に決まっている。しかもリコちゃんと来たら、ずっとスク水のままだ。


 スク水の女の子が膝の上に座るって、誰得だよ? オレ得だよ!


「マユのお兄ちゃんの膝やて? 大阪人はみんなイラちなんや。そんなん、あたしが一番乗りに決まってるやろ!」


 今度はユノが所々破けた制服で、オレの前にやって来た。


「もちろん、大歓迎です。ぜひとも!! お乗りください!!」


「そんなら、邪魔するで」


「え!? いや、逆向きって!!」


 ユノは、オレの膝の上に背中からではなく、真正面から座り込んできた。


「何や、緊張しとるんかいな?」


「そ、そりゃ。目の前に巨乳やまがあるんですもの」


 ユノのミニスカートが破けていて、そこから黒い下着が見えている。


 ああ、ここは天国か。


「お・に・い・ちゃ・ん~」


「へ?」


 気がつけば、マユが完全にブチ切れていた。


「死ね!! 変態お兄ちゃん! 来世でも、マユのお兄ちゃんに生まれ変わってきなさい!!」


「ら、来世はオレ。ユノの弟でもいいかな~。リコちゃんのお父さんでもいいし」


「お兄ちゃんのバカ!!」


「お、おおお!?」


 マユの右足が目の前に迫ってきて……視界が暗転した。そこから先の記憶がない。


「う……ん?」


 いつの間にかオレは医務室に運ばれていて、何故かマユと一緒に寝ていた。


「お兄ちゃん……バカ……ごめんね……」


 マユめ、オレを殴ってしまった罪悪感から看病してくれていのか。そして、眠くなってしまって、思わずオレと同じベッドに入ってしまったのだろう。


「ふう、ごめんなマユ。ちょっと調子に乗りすぎたよ。でもな、目の前に巨乳があったら、のぼるしかないだろ? スク水の女の子が降ってきたら、飛びつくしかないだろ。つまりはそういうことなんだ」


 力説してみたが冷静に考えればどういうことなんだよ、オレ。


「男の子はみんな、変態というの名の紳士なのさ」


 オレはぐっすり寝ているマユの頭をなでると、医務室を抜け出した。


 最終兵器妹開発計画。マリア・ルイベル。決勝戦が何事もなく終わるとは思えない。


 けれど、それでもオレは信じてる。オレのマユが、最高最強だってことを。

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