第2話 人魚の涙〜a tale of Siren

Ⅱ.人魚の涙〜a tale of Siren


「あ、なんか泉の中で光ってるよ〜~」

 中央に、長い尾をひく魚を模した彫刻が飾られた噴水。その縁に腰掛けたトルティーネは、泉の中にふとキラキラ反射するものを見つけました。袖も捲らず、水の中に手を入れたトルティーネに、両腕を上げたうっさんが怒ります。

「こらトルティ!普通、濡れるとわかっていたら袖を────」

「うぅん・・・雫石~なんだろぅこれ〜~」

 うっさんのお叱りもトルティーネは全く気にすることなく、手にした透明な欠片に興味津々です。滴る水がローブを濡らしても、全く気にしません。

「ぴぃ!ぴぃ!ぴ!」

「んー~どうしたのぴぃ・・・よく見て~う〜ん、え〜~」

「ぶるぶるぶる・・・」

「いぬ、お前も何かあるの~~」

「ぶるぶるぶる・・・」

「うん、全然わかんないー」

「(がーん)・・・くぅ」

 ぴぃの言っていることはわかるのに、いぬの言いたいことはさっぱりなトルティーネは、悪気もなく切り捨てます。

 しょんぼりしたいぬは、前足に顔を埋めるようにそのまま丸くなってしまいました

「これ、なんの“パーツ”なのかなぁ~」

 トルティーネは飾りのついた雫のような欠片を翳して陽光に重ねます。覗き込んだ視界の中でふわりと、舞い落ちてくるものがありました。

「────あ、・・・羽〜~」

 真っ白な羽根が一つ、淡雪のように藍色の水面に溶けていきます。それはまるで夜空に流れる天の川のように広がって、消えていきます。

「・・・海、かなぁ。あ、歌声がするね〜・・・~なんだか切ない・・・女の子の歌声だね〜~」



『──遠いあの日、星降る夜。静寂に響く歌声。海の色に照らされて貴女はいた。

 ──人ならざる羽、美しい瞳。紺碧の空へと舞う姿、その全てに見とれた・・・』



 波が静かにひいていくように、メロディが遠ざかっています。目を瞑って耳を傾けていたトルティーネは、余韻に浸りつつしんみりと呟きました。

「そっかぁ〜セイレーンに・・・、会えるといいねぇ・・・」

 瞬きを繰り返して、水晶を通して視える誰もいなくなった海辺を見つめます。

 今しがた“覗いた”物語を胸に刻み込むように、トルティーネは“パーツ”を両手で包み込むと、勢いよく立ち上がりました。

「よぉし、これはどこかに飾っておこう〜!」

「こらトルティ!それはいつもダメだと言っているだろう!」

「えーなんでぇ〜~キレイだし、いいじゃん〜」

「パーツを炉にくべるのが、お前の仕事だろう!」

「行くよ〜ぴぃ、いぬ!」

「ぴぃ!」

「ぶるぶる・・・!」

「あっこら逃げるな!待たんかトルティ!トルティー!トルティーネ!」

 しんみりとした情緒はどこへやら。すぐにいつもの調子に戻ったトルティーネは、うっさんの静止を振り切って駆け出します。

 手にした宝物に胸を踊らせながら、嬉しそうにスキップをして。

「これは空の見える庭園に飾っておこっか〜。そうしたらあの子達も、会えるからね〜」

「ぴぃ〜い!」

「ぉ〜ん!」

 トルティーネはにっこりと微笑みました。

 海から空に向かう、次の物語を予感しながら。

 手のひらの中で、きらりと。“人魚の涙”は光り、形を変えていきます。

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