realplaying

@kurohitugi

-プロローグ- 誕生日祝い

その日、少女は15歳の誕生日を迎えた。

窓から見える景色は足跡が消えてしまう程の雪だったが、真っ白く静かで緩やかだった。


彼女が居る部屋も、同じように真っ白かった。

違うのは、部屋でいそいそと動く機械達が居ることと、とても暖かい事だ。


「誕生日おめでとう。あなたもやっと15歳ね」


壁に掛けられた大型のモニターから話しかけてくるのは少女の母親である。


「ありがとうママ。私も早くそっちに行きたい」


少女はモニターの前に立って、目を輝かせながら母親に言う。

母親は、長い髪を後ろに束ねながら、少女を見て優しく微笑む。


「今ね、木を切りに行く準備をしているのよ。イヴも早くママ達の居る部屋に入ってこっちへおいで。イブの為にいっぱい飾りつけをして待ってるからね」


「うん!えっと・・・ママ?」


「なあに?」


「お友達・・・も今日誕生日なんだけど・・」


イヴがモニターから目を逸らし、ちょっとだけズレると、後ろにはイヴよりも背が低く、イヴの着ている服より少し質素な服を着ている少女が見えた


「レイアちゃん?」


母親はイヴに話しかける時と少し違った低いトーンで話しかけた


「えっ・・と。レイアも、駄目かな?ママの居るところに・・一緒にはダメかな?レイアも今日で15歳なんだ」


イヴは声が小さくなっていくのに自身気付いていた。

母親から感じる少しの冷たさが、イヴに伝わったからである。


「ごめんねレイアちゃん。装置は15歳になる子の家庭に子供の数だけ配られるの。その装置が無いとこちらには来れないのよ。申し訳ないけれど・・・うちにはイヴの装置しか置いてないの。」


母親の声の音は少し怯えているかのようにも聞こえる


「だいじょうぶ」


レイアと呼ばれた少女は、腰まである美しい銀色の髪を靡かせ、真っ黒い瞳をイヴに向け手を握った


「イヴ」


「・・・・うん」


「いってらっしゃいリアルに。」


低く細い声でレイアはイヴに言った。

整った顔に笑みを浮かべて


「でも」


「15歳であるうちに、私は私でちゃんとリアルに行くから」


でも・・と口に出したイヴだったが、それ以上言葉が続かなかった。


「見送るから。おばさん、ありがとう・・・イヴからリボン、受け取りました。」


レイアはモニターのイヴの母親に向けて、赤い色のリボンを箱からスルッと出して見せた。

「あ・・うけとってくれたのね。良かったわ。レイアちゃんの髪を結うのに似合うと思って」


母親は少し顔を曇らせたようだったが、そのまま続けた


「じゃあ、待ってるからねイヴ。部屋に入ったらきちんと内側から鍵をかけるのよ」


そういうと、モニターは切れ、この世界の国のニュースが流れ始めた。

音声を最小にし、イヴはポットの前に向かう。


「いかないの」


レイアはリボンを手にイヴに駆け寄った


「行くよ。でも、先にぃ・・・・」


ポットから赤い液体が二つのグラスに注がれる


「これで乾杯!私の誕生日で、レイアの誕生日で。今日はとっても素晴らしい日よ」


揺れる肩までの黒い髪。青い色の瞳がレイアを優しく見る。そして手渡されるグラス。


「ありがとう・・・イヴ。・・知ってるのよ。このリボン・・・・」


「かんぱーーーーい!」


レイアが話し終わらないうちに、壊れそうな勢いでグラスは音を立て中のドリンクがゆらりと大きく揺れた


「大好きレイア!お誕生日おめでとう!」



イヴは自分より低い背のレイアの頭を抱きしめ、そう言った


「・・・私も。大好きイヴ。」


真っ白い肌をした頬が、少し赤らんで黒い瞳に滴が浮かんだ。

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