第11話 ニンゲン狩り①

 サヨリはサキナに少年を食堂で待機させるよう指示した。


 戦闘発令所は機密の宝庫だ。部外者を入れるわけにはいかなかった。それどころか潜水艦そのものが機密のかたまりだ。

 まさか自由に歩き回っているとは思いもよらなかった。少年ということでクルーが油断したようだ。


「チヅルとイクを呼んで」

 エビフリャーの艇長と看護長の名を口にした。


 チヅルはたとえるならドラミちゃんだ。手も足も指も首も短い。しかも舌足らずだ。つまりなにをしていても可愛いのだ。


 かたやイクは陸上の短距離選手をイメージすればいい。頂点の高いヒップラインに脂肪の少ない健康的なウエストとヘソだ。


 二人の話を要約すると少年の名前は一条斗真いちじょうとうま13才。日本人で家業は食堂。

 いわゆる天才、神童で飛び級の盛んなアメリカに渡りすでに大学生。

 空母に乗船していたが沈没。奇跡的に助けられお礼におにぎりを作る。

 得意料理は居酒屋メニューすなわち酒肴全般。


「いまのところ心身ともに異常はなさそうです」

 最後にイクがそうつけ加えた。


「異常なし、それ自体が異常なことですわね」

 人の死に動じないなどショックが大きすぎたからか、あるいは天才にありがちな人間性の欠如かもしれなかった。

「自分と自分が興味のあること以外は無関心のようです。本人の分析ですが……」

「料理に興味があってよかったわ」

 イクに軽口をいったもののサヨリは嫌な予感がした。


「非対称シールドはどうなっています?」

 ユウに尋ねる。

「自己組織率50%、あと一時間で回復予定です」

「けっこう。着底後は充電ケーブル伸展のこと、よろしい?」

「了解です」

 いわゆる温度差発電をおこなうのだ。この辺りの海域は水温の差が大きくて発電に適していた。

「わたしは食堂でお話をしてくるわ。チエコさんもついてきて」

「はい」


「わたしもよろしいでしょうか」

 チヅルがおずおずと申し出た。

「気になることがあって……」

 少し言いよどみ、

「艦長、いえサヨリさんは人魚の存在を信じますか?」




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