第10話 ゴースト・イメージング


「海上のようすは?」

「海洋連合の飽和攻撃が限界に達したようで、APTO軍が息を吹きかえしつつあります」

 サヨリに船務長のマリが説明する。タンクトップの胸を盛っているのは公然の秘密だ。

「殷級の全滅がやはり効きましたね」

「ええ、そしてあくまでAPTO軍は作戦を続行するみたいね」


 サヨリはAPTO軍の進行に不審をいだいた。

 すでに戦端が開かれた以上<航行の正義作戦>の意味は失われ強行するメリットが見当たらない。

 これも作戦のうちとするならB案があらかじめ用意してあったか、あるいは他に目的があるのか。


「あれ?あれあれっ?」

 チエコがうろたえた声をもらした。

「あ、失礼しました。量子レーダーのゴーストがなかなか消えなかったもんで」


 量子レーダーは別名ゴースト・イメージングともいわれるが、見えないものが見えるかわりに、存在しないはずのものまで見えることがある。

 大きなものをゴースト小さなものはクォーブ(量子的Qオーブ)と呼ぶノイズ現象だ。


 スプラッシュ諸島にきてから球状のクォーブが増えていたがゴーストも増えつつあった。チエコはこれ以上ゴーストが増えるとシーキャットの行動に支障をきたしかねないと懸念していた。


「お待たー!」

 そこへ天然ボケのサキナがおにぎりを山と運んできた。パンと張った安産型のヒップが自慢だ。


 発令所が騒然となる。

「誰が炊いたの?」

 マリがおそるおそる手をのばす。以前彼女が挑戦したときは焦げ臭くて固い、食い物以外の何かができた。

「助けた男の子が炊いた」

「男の子?」

 サヨリがけげんな表情になる。

「そう13才だって」


「うっ!」

 ユウがおにぎりを喉に詰まらせた。

「ごめん、お茶忘れたわ」

 サキナは悪びれない。

「水を」

 サヨリが見渡すが長引いた戦闘でみんな水を飲みつくしていた。


「ヤバい!」

 顔色が変わりはじめたユウにサキナがパニくり、お茶を取りに戻ろうとしていろいろぶつかってしまう。


「あのー、お茶の忘れ物……」

 そこへ少年がおそるおそる顔をだした。

 水着の美少女だらけの部屋にたちまち赤面して前かがみになってしまう。

(ここは天国か?)

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