第9話 シーキャット無双③
「魚雷管注水音多数確認」
聴音するミツから報告があがる。
「あらあら、わかりやすいこと」
サヨリは呆れたようにつぶやいた。
「LED通信は解析中。あ、出ました」
チエコがコンソールを操作する。くりくりとした大きな瞳がせわしなく動く。色黒のためインド人とさえあだ名されている。
LED通信は指向性が強いため傍受されにくいがこれだけ内懐に入られては意味がなかった。
「次に攻撃された艦に向けて全弾発射、かな」
暗号は解読できたが翻訳の精度がいまひとつだった。軍事用語への対応が今後の課題だった。
「フカヒレは?」
「間もなく接敵します」
スズが八重歯をのぞかせた。フカヒレことサメ型水中ドローンは彼女の作だ。
ソフトアクチュエーター駆動で音波、磁気、画像などのセンサーを装備し索敵、情報収集、撹乱を主な任務としている。
「量子レーダーでも確認しています」
ミツが3Dモニターに表示させる。後方の指揮艦らしき殷級にフカヒレが迫りつつあった。
量子レーダーはシーキャット最大のアドバンテージでソナーが耳なら量子レーダーは目だった。
原理的には
絡み合った二つの粒子はかつてアインシュタインが『幽霊のように気味の悪い相関』といった現象により、一方を観測することによりもう一方の状態を確定させることができる。
実際には絡み合い状態の一つの粒子を相手に、もう一つを受信機に発信する。
そして相手にから跳ね返ってきた粒子を受信することで像を結ぶことができる。
やっている半分は古典的レーダーと同じである。
では古典的レーダーと量子レーダーの違いは何か?
多少の障害物は透過するということだ。
なぜ見えないものが見えるようになるか、明確な理論はまだない。トンネル効果や量子テレポートとの関係などが提示されているが説明不能である。
とりあえずよくわからないが便利なので使っているのが現状だ。
「海洋連合の指揮官さんに人望があることを祈りましょう」
サヨリは白々しく微笑んだ。
フカヒレが体当たりする音響をソナーが拾った。
行動不能の殷級潜水艦群からシクヴァルが殺到する。
攻撃中止命令を出しているが無駄だった。なぜならシーキャットがジャマーでLED通信を妨害しているからだ。
爆発音のあと艦体の破砕音が轟きわたった。
1隻だけ蚊帳の外で囮にされていた殷級がカンチョーをくらったのはそのすぐあとだ。
「考えてみれば囮の味方ごと殲滅するような指揮官に人望のあるはずがありませんわね」
サヨリはころころと無邪気に笑った。
クルーたちはあらためてサヨリという魚が、見た目は美しいが腹黒いことを思い出していた。自分たちの艦長、いやサヨリさんそのままであった。
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