⑨<少女6> 『メダルのお化け』

⑪【ソフィア】

 私の周りを囲うように、沢山のメダルお化け達が集まってきている。

 どれも真ん中の目が血走っていて私を睨み付け、様子を伺っていた


「絶対仲間を殺されて怒っているよね。『これは誤解よ。ただの事故よ』って言ったら許してくれるかな?」


『無理だろうね。だって嘘じゃん』

 そうだけど。殺意しっかり込めて念入りにやっちゃったけど。


『ソフィア、魔族の格言に、こんな言葉があるんだ……』


「正直、この状況で言い出すのが怖いんだけど聞くよ」


『ゴブリンは、一匹見たら三十匹居ると思え』

 そうね。ゴブリンじゃないけど、まさにその状況。


「……で? だから?」


『声が怖い! 続きがあるんだ……“三十匹に出会ったら、逃げるが勝ち”』

 そうね。流石は魔族。良いこと言うね。

 ……でも、そんなの、そんなの――


「……ったりまえでしょ!!」

 メダルとメダルの隙間を狙い、全身の力を解放し走り出す私。様子を伺っていたメダル達が一気に動き出す。


「……死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅ!?」

 行く手を阻むメダルを避け、空から連続して放たれる光魔法の光線をカンで避け、舌の触手をかいくぐる。

 ってかコイツらまともな口がないのに私を捕まえてどうするつもりよ?

 ……はっまさか……。


「まさか、周りに付いてる小さな顔の口を使って、少しずつ少しずつ私を捕食するつもり? それともその沢山ある長い舌を使って目か耳か口から侵入してきて血が空っぽになるまで吸い取るとか!? 脳みそとか内臓とかを耳から絞り出してくるとか!?」


『想像力豊かすぎてついていけない!』

 駄目だ、絞り出されてたまるか!

 でも逃げても逃げても追いつかれ、行く手を阻まれて囲まれる。このままじゃ……捕まってしまう!


「ねぇちゃん!」

 大白鳩シェバトで逃げる? でもコイツら空も飛べるし絶対追いかけてくるよね。光魔法で大白鳩シェバトごと美味しくお肉料理にされるなんて絶対嫌だよ。


「ねぇちゃん!! こっち! こっち!」

 こんなことなら王都に居るときにでも一度、全身甲冑パレードアーマーでも見ておくんだった。……ああでも夢魔法で出しても、着込んでる間に攻撃されそう。

 

「はっ、そうだ、また“私”を出して、絞り出されている間に大白鳩シェバトで逃げるとか? あっ、一度に一体しか出せない。駄目だ――ってマシュー!?」

 ふと向けた視線の先にマシューが居た。古木にできたうろの一つに潜り込んで、私に向けて手招きしている。


「ソフィア! 早くこっちに!」

 木のうろ。確かにあの大きさならメダル達は入ってこられない。ここからじゃ良く分からないけれど、奥行きもありそうだし、助かるかも!

 それに……それに……

 マシューの元気な顔を見た瞬間、私の心は一つの感情で満たされる。


 怪我一つなさそう。顔色もいい。

 あぁ、マシュー……


「よくも私をこんなところに来させたわね!!」

 怒りで心が満たされる。

 あのガキ……どんだけ心配かけたと思ってんだ!

 

 怒りを原動力にメダルの攻撃を避け、大木の根をつたい駆け上がる。

 死ねない。私はあの糞ガキの頭を引っぱたくまでは死ねない。


「あっねぇちゃん!止まっ――」


『ソフィア! 足元!』


「マシュー! アンタふざけんぁなああああぁああ!?」

 木のうろに入り込んだ瞬間、私は足を滑らせた。予想に反してうろの中はツルツルになっていた。

 そして、深かった。

 うろの中に突撃した私は足を滑らせ、その勢いのままうろの中を滑り降りていく。


「ぁあああああああ!?」

 長い、長い長い! これ大丈夫? 私このまま死ぬの!? うろの中で足を滑らせて死ぬとかそんなつまらない人生でいいの?


「で、出ろ! 『ふかふかお布団』!」

 私の真下に布団が出た瞬間、視界が一気に広がった。地下にできた洞窟の広場に、私は辿り着いていた。

 お尻から床に叩きつけられる。


『だ、大丈夫!? ソフィア!』

 頭の上のメフィスが心配してくれる。


「……痛い」


『大丈夫そうだね』

 どこをどう見てそう判断したのよ。掛け布団が間に挟まってくれたおかげで大事にはならなかったけど、それでも痛い。


 落ち着いてみると周りを見わたす余裕ができる。

 ここは光蘚が群生している洞窟だった。洞窟全体が緑色に明るく照らされている。

 横も縦も広く、壁はツルツルしている。縦穴が一つ空いていて、私はそこから落ちてきた。良く見ると縄ばしごがかけられている。


「ここはどこ!? マシュー! 降りてこれる!?」


「随分と、騒がしいヤツが来たもんだな」


「ひっ……」

 洞窟の端に、男が横たわっていた。丁度光蘚の影になっていて気がつかなかった。

 突然の声かけに、私の心臓が跳ね上がる。


「な、なんなの? 誰ですか!?」


「あぁ、緊張しなくていいさ嬢ちゃん。オレはこのザマだ。なんにもできやしねぇ」

 男が片足を上げる。太股の辺りに添え木がしてあり、布でそれを固定していた。

 歳は良く分からないけど、結構大人。お母さんくらいかも。無精髭がよく似合っている男の人だ。


「弟君がお姉ちゃんの声がする、と言って行ってしまったが、なんとか助けられたみたいだな」


「え、えっと、あの……ソフィアと申します。マシューのお知り合いですか?」


「いいや、ここで少し助けただけだ。それでオレの名は――」


 男は腰に妙な長剣を付けていた。刀身が波打っている変な形の剣だ。


「レオン。『夜のノカ』管理者、レオンだ。……忘れられた町へようこそ、お嬢ちゃん」


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