新年祝賀行事の裏側3
視界に白い滝が見える……生暖かいものに絡みつかれてるようだ。
「ここどこなのさ」
視線をそらすと青い絹に銀糸で星が刺繍された豪奢な布の天井……天蓋が見えた。
ああ、そうだ……昨日ついに口説き落とされて……残念王子と……
ということはここは残念王子の私室かぁ。
執務室に雑多なもんおいてるから居住スペースに部屋は無いんじゃないかと疑ってたよ。
ホカホカだなぁ……でもなんか疲れた、今日は確か新年祝賀行事だよね。
銀のまつげ様がバサバサついてる麗しい顔を見たらムカついて胸をバシッと叩いた。
意外と筋肉質でこぶしが痛いよ。
「痛……何するんですか、セレ」
緑の瞳が涙とともに開いた。
「今日、新年祝賀行事ですよね、微妙に動けないんですけど! 」
バシバシと胸を叩いた。
「だ、大丈夫です」
美しい緑の瞳をそらすなよ残念王子〜。
「どうするんですかぁ〜」
ますますパシパシ叩くと残念王子が私を抱きしめた。
「着替えは準備してあります! 」
緑の綺麗な潤んだ目が間近にあってドキドキした。
「さて、新年祝賀会の前にセレさんのお父様ともあわないとですしね」
「う、うちはケエラエルですよ」
王都から遠いんです。
ルリの果樹園が沢山あって超田舎です。
なんか無性に帰りたくなってきた。
「ええ、呼んであります」
リカ王子が目を細めて私の額にキスした。
こ、この残念王子改め腹黒エロ王子!
どうやって忙しい父さんを呼び出した?
「父さん、来るのいやがったでしょう? 」
(別れたお母さんがいるから)王都になんて行きたくねぇしごみごみした都会は嫌いだとこの間たまには会いたい言ったらぼやいてた。
「大事な娘さんの将来のことですから直接話したいと端末の通信で話したら来てくれましたよ、私が忙しいのは理解していただけたようです」
リカ王子がそういいながら私を優しく抱き込んだ。
なんだろう…身体中いたいけど…安心感があるんだよね。
「さっそく支度をしましょう」
ルリ絹の正装を用意させてありますと嬉しそうにサイドテーブルのルリ宝石の小さなベルを手にとった。
ま、まった……私しゃ何も着てないよ……
残念エロ王子みたいに素敵な筋肉持ってりゃいいでしょうけど。
私は慌てて鳴らさないようにベルを取ろうとして離さない残念王子のせいで思いっきり鳴らした。
「
妙に楽しそうに残念エロ王子が微笑んでいるうちに侍女(資格沢山必要な超エリート職って聞いた)が制服の濃紺のツーピースに白いエプロンをつけて入ってきた。
あわてて身体を隠す。
「支度をお願いします」
「かしこまりました」
優雅に礼をして侍女は下がった。
わーん噂ばらまいちゃったよ〜。
「支度をしてお義父様にご挨拶しましょう」
「父さんは根っからのルリ農家ですよ」
だから引くね、間違いなく引くよ。
なんで王宮から連絡がぁと頭を抱えてるのがみえるようだよ。
「さて、行きましょうか? 」
リカ王子は謎めいた微笑みを浮かべ私を抱き上げた。
動ける自信がないから諦めるか。
あ、諦めるんじゃなかった。
一緒に風呂入ったら疲労困憊です。
なめるな〜触るなーキスするなぁ。
続きの部屋に抱き上げられたまま出ると侍女さんと見覚えある人たちが手ぐすね引いて待っていた。
「こちらへどうぞ」
リカ様そこの椅子にセレスト様をおろして出ていっていただきますと責任者らしい人が微笑んだ。
リカ王子は渋々出ていった。
トルソーには薄い紫の
「セレさん、似合うわよ……セレ様かしら? 」
衣装担当者イールさんがリカ殿下ったらスケベと騒いだ。
なんか見つけたみたいだ。
「愛されてる未来の王子妃様ですものね」
化粧担当者ピュリエーヌさんにツンっと首筋を突かれた。
キスマーク隠さないとねとウインクされた。
この二人とは残念王子と色々でかけたりエスコートされちゃったりしてるんで顔見知りです。
セレ様なんて柄じゃないし王子妃は……
「……なんか頭がいたいです」
キスマークってあの残念王子〜。
「お疲れ様? 」
ピュリエーヌさんが頬紅を入れながら笑った。
疲れましたよ。
終わりましたか? と麗しき残念王子が顔を出した。
「セレ、辛いなら抱えていきます」
綺麗ですねと言いながら近づいて来る綺麗な王子殿下は完璧に髪の毛を複雑に結い上げて瑠璃絹の正装を神話の神様のようにまとっている。
うーん、今日の私はいつもの数倍綺麗なのに(プロに身支度してもらったから。)リカ王子の方がその数倍綺麗なんですが?
「さあ、お父様がお待ちですよ」
リカ王子が拒否する私を軽々と抱えてあるきだした。
逃げられないようにって子供だきすんなぁ。
お陰さまで皆様に見られました。
王宮の応接室に父さんがしっかり正装してカチンコチンになって座ってました。
国王夫妻もいるんですが、正装して父さんの向かいの席でなんか言ってる。
「フェリアさん、素敵な娘さんですわね」
王妃様がロイヤルなスマイルで微笑んでる。
「あ、あの
父さんがしどろもどろでハンカチで汗を拭った。
「いえ、うちの愚息に勿体ないですわ」
王妃様がルリ絹レースの扇で口元をおおって笑った。
「ああ、リカきたか……フぇリア氏がおいでになっている」
リカ王子とどこか似ている国王陛下が手招きした。
父さんがびっくりして私を見てるのが見えた。
不可抗力だよ~
「はい、父上」
リカ王子がロイヤルな微笑みを浮かべて私を抱いたまま軽く礼をして応接間に入った。
お願いします、おろして下さーい。
父さんもみとれないでください、残念王子に騙されてますよ。
「この度はわざわざ来ていただきありがとうございます」
リカ王子が私をソファーに優しく座らせてから父さんに王族の礼をした。
父さんはボーッとなった。
父さん、その人残念パンツ王子だから…ああ、肉食系残念パンツ王子ともいうけどさ。
「せ、セレスト、それで本当に? 」
父さんは目をそらして私に聞いた。
「はい、セレストさんと結婚させていただきたいのです」
リカ王子がなぜかこたえた。
「リカ、フェリア氏はセレスト嬢に聞いている、口をはさむな」
国王陛下が口をはさんだ。
なんか、注目されてる……
こ、ここで断れば……
あれ……おかしいな心が沈むんですが……
「父さん……私、どうしよう……」
涙があふれてくる。
「せ、セレ? どうしたんだ? もし嫌ならオレがどんな事をしても! 」
父さんが拳を振り上げてた。
「ち、違うの残念王子が……リカ王子が……好きなの……」
ああ、自分の気持ちがわからない。
おもわず隣の麗人をみあげた。
なんか綺麗な顔がよく見えない……私、泣いてる?
「残念王子で結構です、セレ、私はあなたがいなければ生きていけませんから」
リカ王子が私の涙にくちづけて背中をそっとなでてくれた。
わからない……でもこの人はいつでも本当に……企むけどどこか憎めない……
初めてリカ王子の執務室に配置された時はなんてきれいな人なんだろうって思った。
神話の神様とかこの世のもの思えなかったよ。
『新人さん、パンツ買ってきてください』
その一言で台無しだったけど……生きてるって分かったし……
文句も言うし、人の事はめるしワーカーホリックだし……
でも……なんか憎めない。
でも……一緒に居たいような気がする…。
隣が女子力ない私でもいいのかな?
「父さん……私……結婚してもいい?」
やっと超えを絞り出して父さんを見つめた。
まだよく見えない。
「……ああ、かまわないぞ……ん?ああああ?つーことは王家と親せきか? 参った」
父さんが当たり前な事を言って頭を抱えた。
「セレさんのうかつは、もしかしてお父さま譲りですか? 」
「……悪かったな……って王族にいっちまった!」
父さんがうわぁぁぁと叫んだ。
うちの一族仕事以外迂闊街道まっしぐらだもんね。
父さんなんて都会の女の母さんに翻弄されて結局離婚したしね。
失礼しましたと我に返った父さんに国王陛下と王妃様は鷹揚に微笑んだ。
「フェリアさん、義理の息子になるのですからどの様に扱っていただいてかまいませんよ、親戚になるのだから」
国王陛下がニコニコととどめを刺した。
……しまった……もしかしたら、フェリア家のうかつさは王家のかっこうの餌食かもしれない。
残念王子が義理の息子、王家と親せきの発言の時点で父さんが固まってるよ。
「あの……」
私が言いかけた所でリカ王子に涙の跡をなめられた。
ファンデーションの味するんじゃないでしょうか?
「さて、新年祝賀行事にまいりましょうか、フェリアさん親子も同行していただきなさい」
国王陛下がリカ王子に指示して立ち上がった。
「そうですわね、国民に婚約を報告しなくては」
王妃様も優雅に立ち上がって国王陛下と腕を組んだ。
「では、セレ、いきましょう」
やっとはなれたリカ王子が極上の笑みを浮かべて私を抱き上げた。
また子供抱きだよ、逃亡防止ですか?
流石にもう逃げませんよ。
私はおもわず父さんを見た。
父さんは茫然自失で護衛官に立たされてる。
うかつなフェリア家はこうして泥沼にはまっていくんだよね……
私、はやまったかな? でも好きな気持ちに偽りはないんだよね。
今年の新年祝賀行事でばっちりと『婚約者』として紹介されたよ……
外国人員の御令嬢とかに殺されそうな目で見られたよ〜
そして自国人の貴族の人には同情の眼差しで見られたんですが……さすが残念王子だよ
。
自分は決断した事だからいいけど。
父さん、まきこんでごめんね。
結婚したら果樹園の世話の手伝いとか行きたいと言ってたよ……本当にごめん。
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