王子殿下の婚約者の裏側なんてこんなものです。
リカ王子の執務室は今日も活気に満ち溢れている。
婚約者になっても皆さん態度が変わりません。
むしろ宣伝になっていいと好評です。
残念パンツ王子はなんがデレてますが……忙しいからスルーだよ。
変わらない代表エアリ先輩が端末の前から手招きした。
「なんですか? 」
「セレ、王都ルリ実研究所にいってサンプルもらいにいってくれ」
今度の観光客誘致フェスティバルで提供する菓子の試作品に使いたいそうだとエアリ先輩が申請書類を渡した。
カリスマパティシエが作るらしい。
写真のルリのショートケーキ美味しそうです。
「帰りにパンツとランシャツお願いします」
「かしこまりました、リカ王子殿下準備万端でございます」
リカ王子の私物満載のタンスがおいてある一瞬入浴室に手の平を向けて慇懃無礼に礼をした。
リカ王子は微妙な顔をした。
どうせ頼まれると思って洗い替えは準備万端だよ、整理したらルリ柄ばっかだったのに驚いた。
星見の塔の頂上で愛を叫ぶパンツはそっと奥にしまっといたよ。
だってクリーニングがかかって大事そうにしまってあったんだもん。
「おお、さすが嫁だね」
ミナト先輩が微笑んだ。
嫁……嫁まで行ってないよ。
「昼飯頼んどくから早く帰れよ」
ローランド先輩がそういいながら伸びをした。
相変わらずの新人ライフです。
残念王子の婚約者といっても仕事は変わらないし。
まあ、残念王子の部屋に引っ越させられそうになったので全力で拒否しました。
愛してますよ、確かに。
でも、そんなに情熱家じゃ無いんです。
それに同棲したら体力回復する間がないじゃないですか〜。
あの体力バカ〜。
どうせ結婚したら一緒に住むんだから当分独身貴族を満喫します。
だから休みごとに拉致るんじゃねぇ~。
失礼しました……
結婚したらリカ王子は髪をバッサリ切って王位継承権を返上して臣下に下る予定となってるんだけど……
まだ、王位継承権は返上しないでちょうだい〜とフキイロ王太女殿下がごねてるのでお子様方が大きくなるまで王宮暮らしなのかもしれないです。
「いってきます」
軽く会釈して歩き出すとリカ王子がすごく寂しそうな目で見た。
今生の別れじゃないんだから情けなすぎです。
なれた廊下を歩くと庭が少しずつ色づいていっているのがわかった。
うーん、もうすぐ一年か……ルリの花が咲く頃にまた新しい人たちが来るんだよね。
まだまだわかんないところも多いけど一番わかんないのは私がリカ王子の婚約者ってところだよ。
あの人一応王族だしさ。
平々凡々の私のどこが良かったんだろうね。
父さん、リカ王子つれてそのうちケエラエルに里帰りしようかなって思ってるんだ。
さすがに町の人ビックリだよね。
私だってあの人と実際に会うまで夢持ってたもん。
今のところ妹がうるさいです。
結婚するんだからエステ行こうとかいいです。
綺麗な王子様の実態は残念パンツ王子。
華やかな王宮の裏側は激務三昧。
そして、なぜかその残念パンツ王子と婚約。
人生よくわかんないな。
結婚じたい遥か彼方の出来事だとおもってたよ。
王都ルリ研究所は王宮から離れたところにある。
だから支給されてるバスカードで行くんだよね。
王都のにぎやかな通りをぬけると少し田舎の郊外になる。
王都ルリ研究所は王都郊外の広大な敷地に立っている。
ルリ果樹園とか巨大温室をいくつも有していて建物もそこここに点在している。
だから移動も大変なんだよね。
ゲートに設置された受付に顔を出した。
「お疲れ様です、ファリアさん」
顔見知りの受付さんが微笑んだ。
「フキイロ様にルリの実のサンプルをいただきに参りました」
「はい、第6研究室にいらっしゃいます」
連絡を入れておきますねと受付さんが端末を操作した。
会釈して門を入ってひたすら案内看板を見ながら歩く。
本館に入ると研究員たちが忙しそうに動いていた。
廊下を歩いて第6研究室を探してノックするとどうぞと声がした。
中央の温室につながる部屋らしく実験用のルリの木が季節外れのルリの花をつけたり実をつけたりしてるのが部屋の向こうにみえた。
「セレさん、お疲れ様です〜」
タマイロ王女が今日もルリの実汁まみれの白衣で顕微鏡の前で微笑んだ。
近くのシャーレにルリ色の液体が入っている。
「サンプルを受け取りに参りました」
「サンプルですね~サンプル〜」
ドタバタと立ち上がって部屋の隅の保冷庫をあさりだした。
このこだっけ? あのこだっけ? とつぶやきながらあさっている。
さすが、残念王子の妹だよ、美人なのに残念王女っぷりがありありだよ。
「タマ、そこじゃありません」
メガネをかけた長身の青年が保存容器と共に別室からやって来た。
「シルナテス〜」
「あなたが隣に置いたんじゃないですか」
ため息をついて青年がタマイロ様に保存容器を渡した。
えへへと照れ隠しに笑いながらタマイロ様が保存容器を私に差し出したので受け取って申請書類を渡した。
「お兄様の婚約者さん、これをよろしく」
お義姉様とよんでもいいかな〜とタマイロ様が小首をかしげた。
まだ、やめてくださいと断って青年を見ると気の毒そうな目で見られた。
も、もしかして……あなたもまさか……
「えーとタマイロ様の婚約者さん? 」
私がつぶやくように聞くと青年がお辞儀してシルナテス・ディナムと申します、ここの研究員ですと研究員のところを強調して自己紹介された。
ディナムエーダ地方の領主の三男で向こうでルリの研究をしていたところに視察に来たタマイロ様に
いつの間にか周りを埋められ婚約者となったところは誰かを思い出すよ。
残念腹黒王族被害者の会作ろうかな……
「お義姉様って呼べる日を楽しみにしてますね〜」
タマイロ王女が極上の笑みを浮かべた。
うわぁ……なんかストレスが……
リカ王子の事は愛しているんだけどさ。
シルナテスさんが気の毒そうな顔をした。
「シルナテスも早く呼びたいよね〜だからシルナテスと早く結婚したーい」
「タマ、少し落ち着いてください」
引かれてますよとシルナテスさんがため息をついて申請書類を受け取った。
中を確認お願い致しますと丁寧に言われて保存容器を開けた。
「ええ? 別にいいでしょう? 」
タマイロ王女がすねた。
仕事ですよとシルナテスさんがタマイロ様の頭を撫でた。
さっさと仕事して帰ろうっと邪魔そうだもんね。
「おかえりなさい、セレ」
麗しの残念王子がわざわざ出迎えて私を抱き締めた。
本当に大げさだなぁ……キスはけっこうです。
食事が来てるテーブルに集まった先輩たちの視線を感じた。
「ご飯食べる前にごちそうさま状態? 」
アイル先輩がつぶやいた。
「ええ? 超甘いリカ王子の分食べるの嫌だよ」
ミナト先輩が目線をそらした。
「抱き合ってねぇでセレ、ルリの実をくれ」
エアリ先輩が手を出したので渡そうとするとリカ王子が保存容器を受け取って渡した。
いや〜自分で渡せるからね。
エアリ先輩は中を見てうなづいて保存容器を閉じた。
保存容器には時空魔法技術がかかってるので閉じてあれば長期保存……例えば10年とか……も可能なのですぐに渡さなくても大丈夫だ。
とりあえず食事を食べてから届けるので良いらしくエアリ先輩が席についた。
リカ王子も私と手を繋いでテーブルに近づいた。
今日はルリの実ミートボールパスタらしい。
添えられてるルリ茶があきらかにミルク色してて甘そうだよ。
「セレ、一度やってみたかったんです」
残念王子が私を無理矢理膝の上にのせてハチミツかけたパスタをあーんした。
絶対に口開けるもんか!
「片付かないから食べてやれよ」
エアリ先輩がパスタを食べながらため息をついた。
「お前も家では奥さんにやってるのか? 」
ローランド先輩がルリ茶を飲みながらからかった。
「ば、ばかするかよ」
エアリ先輩が赤くなった。
ああ、マーシェ先輩あらためデルフィーヌ先輩とそう言うことしてるんだ。
「セレ、あーん」
残念王子がフォークを口元に押し付けたので仕方なく食べた、あ、あまー。
「あ、甘すぎです」
私はすぐにルリ茶をのんで脳天直撃のルリ茶の甘さに悶絶した。
今度、糖分減量計画をたてよう。
「そうですか? 」
ニコニコとリカ王子が口を開けたのでパスタを放り込んだ。
なんですか先輩がたそのため息は?
「セレとリカ王子、とってもおにあいです」
ミナト先輩が生暖かい笑いを浮かべた。
「破れ鍋にとじ蓋」
ローランド先輩が呟いた。
「まあ、収まるところに収まったと言う事か? 」
エアリ先輩がまとめると何故か全員うなづいた。
「ありがとうございます、さあ、食事を続けましょうか? 」
残念王子がニコニコ言ってフォークを突き付けた。
「ええ?いやですよ」
「セレ」
恥ずかしいもんと拒否ったらさらに恥ずかしいことされた。
残念王子についに口うつしされました。
おおって先輩たち助けて下さいよ。
「セレはうかつ街道まっしぐらみたいだな」
エアリ先輩がいったらまた先輩たちがうなづいた。
ええ?そんな街道まっしぐらしたくありません。
……王子殿下の婚約者(一応)なのに全然華やかじゃないよ。
まあ……一応愛してるからね、私の残念パンツ王子様。
だから、極甘パスタの口うつしはやめてください。
とうさん……大ダメージだよ……
いつか……いつか残念王子に仕返ししてやるんだから〜
何をするかはわからないけどさ。
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