新年祝賀行事の裏側2

……リカ王子と婚約……婚約ってことは結婚も来るっていうことでわーんどうしよう父さん〜。


王宮の敷地内裏側に職員寮があるんだけど。

裏がルリの森のせいか案外日差しは良くないんだよね。


制服は職場でクリーニングだし洗濯物は干せば乾くレベルだけどね。


公休日だけど予定ないなぁ。

まあ、明日は新年だけど……大掃除とかしてる間もないし……本当にリカ王子と新年祝賀会出るのかな?


ちらっと準備した盛装ドレスが入った時空保存袋差し入れ小袋を見た。


めんどくさいとため息をついてまた外をみる。


ぬけるような青空とさすそうな空気に少しふるえてセーターのとっくりエリを少し上げた。


本当に残念王子と結婚?

リカ王子の隣に並ぶ平々凡々の自分を想像してため息をついた。


綺麗な王子に釣り合わないよね。


社員寮の二階の自室のベランダからケエラエルルリ生産組合と書かれた洗濯したタオルが揺れるのをボーっと見ながら考えてると向こうから背の高い見覚えのある男性がやって来た。


「何、たそがれてるんだ? 」

「イルディス殿下!? 」

私は二メートル以上の美丈夫の出現にあわてて前に出て落ちかけた。

心臓がドキドキしている。

「だ、大丈夫か? 」

イルディス殿下があわてて腕を上に上げた。


二メートル以上あるから背伸びすればてが届きそうだ。


それにしても、なんで思い付かなかったんだろう?

深い緑の目と髪はルーアミーア王族の特徴で深ければ深いほど直系に近いって習ったよ。


「大丈夫です」

私は手を慌てて振った。

自分でも驚くくらいドキドキしている。


そういえばよく美人女優とか麗しい御令嬢とかと週刊紙を騒がしてるの読んだ気がする。

精悍な美丈夫だもんね。


リカ王子は、今回の婚約騒動は以外は星祭りでかぼちゃソーダ飲み競争とか春にする月祭りで仮装してるのとか、ともかく色気のない記事しか見たことない。


「降りてこないか? 」

イルディス殿下がニヤリとして手招きした。


で、本当にいくなんて私、変だよ。


「なるほど、リカの姫君は可愛いな」

庭に設置されたベンチで並んで座りながらイルディス殿下が笑った。

「私は別にリカ王子の姫君ではありません、政治官です」

イルディス殿下を見上げた。

深い緑の目に平々凡々の私が写った。

「あなたがリカとの婚約を嫌なら、力になろう」

イルディス殿下が私の手を握った。

「……ありがとうございます」

そうしてもらえると嬉しいのになんか寂しいって変かな?


「あいつは本気であなたの事が好きだと思うが気持ちはどうにもならないからな」

イルディス殿下が憂いを帯びた眼差しで私を見た。


そんなこと言われても私は別に玉の輿? 何て望んでないし。


「さて、どうにするか? 」

イルディス殿下が腕組みした。

「そうですね」

私は期待するように見上げた。

イルディス殿下がふっと微笑んだ。

「そんな顔してると襲われるぞ」

そういいながらなぜか私の頬にき、キスした。

「やめてください」

私はベンチから立って距離をあけた。

確実に赤くなってる。


自称婚約者のリカ王子にされたこ……あるな。

ほっぺにチュッて王子殿下の必須科目ですか〜。


残念王子と色気の分量が違うけどさ〜


「無防備なのがいけない、男はみんなデケロゴスだと言うぞ」

イルディス殿下が妖しく微笑んだ。


デケロゴスって何さ?

狼とか言いませんか?


「では、こうしようか? 」

イルディス殿下が懐から出した端末を操作してから立ち上がった。


やっぱり見上げるほど大きい。


「どうするんですか? 」

私は身構えた。


毛を立てたマルトネルスみたいだなとイルディス殿下微笑んで私をだきこんだ。


「オレと結婚すればいい」

イルディス殿下が耳元でささやいた。


イルディス殿下と結婚?

抱き込まれたまま私は思考停止したらしい。


「あの、困りま……」

私がやっといいかけたところで気配を感じた。

「イルディス、なんのようですか? 」

聞きなれた美声だ。

「リカ、オレとセレスト・フェリア政治官はこう言う仲だ、身を引いてくれるな? 」

顔をイルディス殿下のお腹に押し付けられて発言を封じられた状態でイルディス殿下の色気のある声を聞いた。

「……お断りします」

妙に冷ややかにリカ王子の声が聞こえた。

「もう、遅いセレストはオレのものだ、辞表は後程送らせてもらう」

イルディス殿下がそういいながら私を抱き上げた。

お姫様抱っこでなくて赤ちゃん抱っこだ。


辞表? すごーく勉強して試験受けて入ったのにー。

辞めたくないです〜


「い、イルディス殿下! 」

私がいいかけたところでリカ王子の睨み付けるような眼差しを感じた。

「セレさん、私はあなたが来なければ、仕事はしません」

リカ王子が静かに私を見つめた。


おい、そりゃどこの中学生ですか?


「リカ、お前、そこまで」

ちょっとヤバすぎだぞとイルディス殿下がたじろいだ。

「リカ王子! そんなんだから残念王子って呼ばれちゃうんですよ、綺麗なのに! 」

私は誰の腕の中にいるのか忘れて叫んだ。


「残念王子で結構です、ピアリさんの時と違います、私はセレさん、セレスト・フェリアを愛してます! 」

高々とリカ王子が宣言した。


緑の瞳がキラキラして従兄弟のイルディス殿下と少し薄いけど同じ色なんだなってちょっと思った。


「どうする?セレスト・フェリア?」

イルディス殿下が聞いた。

「とりあえず下ろしてください。」

私はイルディス殿下の胸を軽く押した。


なにも決まってない。


だけど誠実に対応しないとブルー・ルリーナ王宮が麻痺することだけは確実だから。


それに緑の瞳にどこか逆らえない。

すぐそばに別の緑の瞳があるのに。


「分かった、リカを頼む」

イルディス殿下が安心したように微笑んで私をそっとおろしてくれた。

「はい」

うん? なにを任された?

もちろんお仕事の補佐は精一杯やらしていただきますよ。

「セレさん、こちらへ」

リカ王子が手招きしたのでなだめようと近寄った。


いかないと明日から仕事しないとか言いそうで怖いもんね。


リカ王子!なんで抱き締めるんですか!

あの、き、キス?


「もう、二度と離しません」

リカ王子の綺麗な顔が目の前にあってまたキスされたよ。


え? ええ? えー?


あの?私……別に……婚約者なるなんて言って……まあ、こんだけなつかれれば情もわきますが。


「みせつけるなよ、あーあ、側室手に入れ損ねた」

イルディス殿下がぼやいた。

「側室? 」

側室ってルーアミーア王国の王族ってありなんだっけ?

「ええ、妻子持ちです、奥方を愛してる癖によくもセレストを誘惑しましたね」

リカ王子がどこか暗い笑いを浮かべた。

「ふん、それで愛しい相手を手に入れられたんだろうが、オレはもういくからな」

イルディス殿下はそう言って手をヒラヒラ振って歩き出した。

「セレスト、行きましょうか」

リカ王子がそう言って私を……なんで抱き上げようとする?

「どこもいきません! 」

私はもがいた。

「愛を確かめるのに庭は不味くないですか? 」

リカ王子が妖しい笑いを浮かべた。

「あ、愛? 」

なんかいつもはない色気を感じるよ。


愛って何をする気なんですかぁ〜


「まあ、セレが良ければ私はかまいませんよ」

そう言ってリカ王子は私にまたキスした。


なんかきちんと話をつけないとヤバイ気がする……いやそれよりに、逃げた方が。


「行きましょう」

甘く微笑んで残念王子の笑みに見惚れて油断した私は抱き上げられた。


あ、案外力あるんなぁ……筋肉感じる。


いやいやいやー違うよね。


どうしよう?父さん。

なんかほだされそうで怖いです。


考えてみれば顔は超極上の美貌なんだよね。

中身さえともなえば……


ためだよ、私、中身はしょせんパンツ王子なんだよ?

今日は残念王子に見えないよ。

実は肉食王子? ロールキャベツ王子だったの?



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解説


デケロゴス ルーアミーア王国特産? ワームっぽい虫、集団で狩りをする。


マルトネルス ルーアミーア王国特産? フワフワの銀の毛がたくさん生えてるバレボール大のトカゲ敵に毛を逆立てて威嚇する、主に愛玩用。



『男はみんなデケロゴス』 『男はみんな狼』と同様の意味。

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