第61話 I wish..♥願わくば♡ 61 加筆修正有2020.08☆

61.


=== 仁科葵 & 仁科貴司& 興信所調査員 ===




 2人の関係は、真っ白と報告が上がってきた。

 報告書を受け取った貴司は、加藤なる調査員からトドメのひと言を

云われる始末。




「あんな素敵な奥さん、私が欲しい位です。

大切になさって下さい。」♥♡( ´ω`)/she's ステキ





 普通の人間なら、ここは喜びほっとするところなのだが

元々目的の方向性の違う貴司はガクっときたのだった。



 内心では自分もこんな風な結末だろうことは、判っていたのに。



 念の為、録音したという畑でのふたりの会話を聞いた。

葵の声が弾んでいて楽し気だった。


 息子達と話している時の妻の様子に近いモノがあった。


 相手に気を許し心を開いている様子を伺い知ることが出来た。

長年妻が自分に対してどんなに心を閉ざしていたのか

思い知らされる結果になってしまった。



 今更、と云われるかもしれないが、いつの間にかこんなにも

妻の気持ちが自分から離れてしまっていたのだと気付いた。



 自分は今まで何人の女達と関わってきたのだろう。

 だが、ひとりとして妻程に、自分の心を開いた相手はいない。



 だが、どうもその妻に対しても俺は云うほど心を開いては

いなかったのかもしれない。




 きっと妻の方では俺に対して心と心を通わせ合えるような関係を

構築したかったのかもしれないが、自ら俺はそれを打ち壊し続けて

きたのだろう。




 先日の妻の半端無い決意を聞いてしまった以上、焦るものの

妻に家へ帰って来てほしい、また元の家族で暮らそうと

もはや云い出せない貴司なのだった。



 特に主になって調査を進めていた加藤は、畑での男女を知るにつけ

今時珍しい実直な2人のファンになっていた。



 ある夕暮れ時に見たふたりの姿が今も瞼に焼き付いている。





 女性の方が猫を2匹連れて来ていた日のこと。





 ふたりが水筒に入ったお茶で休憩していたら、それぞれの膝の上で

猫達が一匹ずつ寝てしまい、ふたりは猫をそれぞれ自分の子供に

するようにやさしく撫でる。


 むろん、ふたりは無言だ。



 そこには2人と2匹のやさしいたゆとう時間が流れていた。



 男と女。 猫と仔猫。




 しばらくの間、4つの存在は切り取られたアルバムの中の写真の

ように異次元に飛んでいった。


 それは美しく清らかな一枚の絵となった。




 この時感じた出来事は、依頼者である夫には報告していない。

 必要性を感じなかったから。




 長年の経験と勘から、調査員加藤は思った。



 調査が必要なのは、寧ろ依頼してきた女に追いかけられることは

あっても自ら女を追いかけたりはしそうにない、この類稀なる

みごとにきれいな男の方だろうにと。




 そして続けて、こうも思った。



まぁ、依頼人とその奥さんもお似合いではあるのだが

あの畑にいた小児科医と依頼人の妻の方がしっりくりして

いるように思えた。



 今回の依頼人の非凡な雰囲気に比べ、小児科医と依頼人の

妻はどちらも実直そうに見えたからだ。



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