第28話『下級攻撃魔術』

 まず魔道の基本として『地』『水』『火』『風』『空』『光』『闇』『無』の8つの魔法属性があるってことは前回習った。


 さらに複数の属性を組み合わせた複合属性についても。


 今回『下級攻撃魔術パック』で俺が覚える『基本攻撃魔術属性四種』ってのが水×火の『氷』、火×風の『炎』、地×水×風の『雷』、そして『無』の4つ。


 魔法で複合属性はめちゃくちゃ大変だけど、魔術だと単属性よりも、複合属性のほうが効率は良いんだと。


 だから、よほどのこだわりがない限り『地』『水』『火』『風』単属性の攻撃魔術を覚える奴なんていないらしい。


 ただ、魔力を純粋な攻撃手段に変換する『無』属性は便利だから基本攻撃魔術属性四種に加えられるとのこと。


 ええ、その便利さは身を持って実感しておりますよ。


 『空』『光』『闇』に関してはそもそも単属性での攻撃魔術はない。


 『空』はともかく、ライトニングアローとかダークブレットとかゲームだとよくありそうなんだがね。


 この世界にはないんだと。



 さて、次に各属性の攻撃魔術だが、これは『』『だん』『きゅう』『じん』『そう』『』『』『じん』の8種で、4等級に分けられる。


 まず矢のようなもの飛ばす『矢』と、小さい弾丸のようなものを飛ばす『弾』、そしてそこそこ大きめの球体を飛ばす『球』の3つが下級。


 『矢』が一番初歩的で威力も弱く射程も短いが、詠唱が短く、魔力消費も少ない。


 『弾』と『球』は詠唱も魔力消費も変わらないが、『弾』は貫通力と射程、速度を重視し、『球』は衝撃力と操作性を重視している。


 『弾』は真っ直ぐにしか飛ばないが、『球』はある程度軌道を変えることが可能なようだ。


 中級はお馴染み『刃』と『槍』。


 『刃』は刃を飛ばすようなイメージで、『槍』は貫くイメージだな。


 下級魔術がすべて単体攻撃なのに対し、中級はある程度複数攻撃が可能だ。


 どちらも長さや威力をある程度調整できるので、横に薙ぐか縦に貫くかで2~3匹ぐらいなら同時に攻撃可能だ。


 実際俺も『魔刃』で2匹のグレイウルフを同時に仕留めたしな。


 さて、次の上級だが、これは中級のような中途半端な形ではなく、完全な範囲攻撃となる『渦』と『波』。


 『渦』は目標を中心にまわりへ広がるような、言ってみれば竜巻みたいな現象を起こす。


 『波』は自分を起点に任意の方向へ広範囲に効果を及ぼせる。


 詠唱時間はどっちも30秒ぐらいかかるみたいなんで、ソロで使うのは難しいだろうな。


 最後の『陣』は超級。


 これはかなりの広範囲を蹂躙する殲滅魔術で、冒険者が使うようなもんじゃないらしい。


 詠唱も10分以上かかるし、範囲も数百人規模の団体を相手にするレベルなので、戦争とか魔物の生息地を破壊する開拓とかのときに使うようなものらしい。



 あと、魔術発動までの待機時間をなぜ”詠唱”と呼ぶかってことなんだが、昔は魔術を使うのに難しい呪文を唱えていたんだと。


 でも時代とともに魔術が発達し、やがて呪文を唱える事自体は必要なくなったんだが、それでも呪文を唱えるのに必要な時間だけはなくすことが出来なかったので、昔の名残のまま待機時間=詠唱と呼ばれ続けてる。


「おお、そうじゃヒロスケくん。君は前回属性の競合について気にしとったのぉ?」


「ショウスケです。ええ。でも競合はないとのお話でした」


「そうじゃったな。ただし、攻撃魔術を使う場合の対象との属性的な相性となると話は別じゃよホウサクくん」


「ショウスケです。たとえば?」


「そうじゃな、例えば炎をまとった魔物がおったとしよう。その場合、やはり『炎』属性の魔術よりも『氷』属性の魔術のほうが効果は高いんじゃよキュウサクくん」


「ショウスケです。それは”氷をぶつけたら炎は弱まる”という自然現象に準ずるという考えてよろしいでしょうか?」


「うーむ、やはり君は優秀じゃなドンタクくん。そしてその場合もやはり”炎に氷をぶつければどうなるか”というのは自然現象に準ずるわけじゃな」


「ショウスケです。なるほど。相手が炎をまとっていたからといって弱い氷魔術をぶつけても、それこそ”焼け石に水”ということになるわけですね?」


「その通りじゃ!! ミスターヨシオカァ!!」


「ヤマオカです」


「同じ理屈で、氷は炎で溶けるが、炎が弱すぎれば炎の方があっさり消えるし、水棲生物に雷が効くとしても、弱すぎればマッサージ程度にしかならんということじゃミョウスケくん」


「ショウスケです。要は、相性も大事だけど威力がないと意味ないよってことですね」


「そういうことじゃ! マンサクくん!!」


「どもっす」


 ってな感じで『攻撃魔術基本講座』を終えた俺は、ハリエットさんの案内で下級攻撃魔術を習得した。



《スキル習得》

<炎魔術>

<氷魔術>

<雷魔術>


《魔術習得》

炎矢えんし』『炎弾えんだん』『炎球えんきゅう』『氷矢ひょうし』『氷弾ひょうだん』『氷球ひょうきゅう』『雷矢らいし』『雷弾らいだん』『雷球らいきゅう』『魔矢まし』『魔弾まだん』『魔球まきゅう



 あと、やっぱ<攻撃魔術基本講座修了者>の称号もらえたよ。


 効果は”下級攻撃魔術詠唱短縮”と”下級攻撃魔術効率UP”。


 詠唱短縮はありがたいね。


 例のごとく訓練場で練習しており、一応『矢』が2秒、『弾』と『球』が5秒ってことらしいんだが、それよりは微妙に早く撃ててるような気がする。


 消費MPや威力については、属性の数でちょっと違ってるわ。


 一番弱いながらもMP消費が少ないのは無属性、ついで2属性複合の『炎』と『氷』、一番威力が高く、消費MPが多いのは3属性複合の『雷』だな。


 っつっても『雷球』でMP8ぐらいだけど。


 あと『球』の軌道が変えられるってのは、自由自在に動かせるってよりも、ほんのちょっと軌道を反らせるぐらいかな。


 野球の投球でいうところのカーブとかスライダーのレベルだわ。


 威力は『魔刃』や『魔槍』に比べたらそりゃ落ちるけど、正直それらはEランク級の魔物相手だと完全にオーバーキル状態なんだよな。


 たぶんホーンラビットなら『炎矢』とかで充分だろうし、ジャイアントボアでも『雷弾』で行けそう。


 『雷弾』だと、貫通できなくても上手いこと脊髄に電撃与えられたら動きは封じれそうだしな。


 うん、今度試してみよう。


 で、ここまでの話はあくまで一般論。


 <無魔法>をそこそこ使える俺の場合だと、無属性魔術に補正がかかって『雷球』より『魔矢』の方が強かったりするんだよねー。


 へへ、やっぱ魔道士って素晴らしいぜ!


「相変わらずショウスケちゃんは物覚えが早いわねぇ」


 俺の訓練状況を見てハリエットさんがほめてくれる。


 ただ、ちょっとお疲れ気味のようではあるな。


 あれか、あのヘクターとかいうストーカーのせいかな。


 まあ、その辺はあんま触れないでおこう。


「そうそう、ショウスケちゃん、これどうぞ」


 そういってハリエットさんが渡してくれたのは30cmぐらいの木の枝のようなもの。


「これね、『攻撃魔術基本講座』修了者に贈られる特典なの。魔術効率が上がる優れものなのよ?」


 なんつーか、イギリスの魔法学校の生徒が使ってそうな感じの杖だな。


「ありがとうございます」


 早速装備してステータスを確認してみる。


枯霊木の杖→枯れた霊木から作られた木製の杖。魔攻F/魔術詠唱短縮 /魔術効率UP /魔法効率UP

 おお! 結構いいじゃんこれ。特に下級とか攻撃魔術とかの縛りがないってことだよな? 魔法にも効果があるのはありがたいね。


 俺は一応魔道剣士だからして杖を使うつもりはなかったのだが、このサイズなら腰にでも差しときゃじゃまにならないし、レイピアと同時に構えても良さそうだ。


 試しに杖を構えて魔術を撃って見たところ、多少だが詠唱が短くなり、威力は目に見えて上がった。


 魔攻Fは馬鹿にできんな。


「すごくいいですね、これ!」


「でしょう? 魔術師ギルドにはもっと性能の良い杖も売ってるから、よかったら買ってね」


 そうだなあ、このサイズでもっと性能がいい物があるんなら、そのうち買ってもいいかもな。


 あ、ちなみにこの杖、腰に差してるだけじゃ全く効果はなかったわ。


 ちゃんと手に持って構えないといけないけど、右手と左手で効果は変わらんみたいだから、剣との併用は可能だな。


 うん、剣と杖の二刀流(?)ってのも悪く無い。


 いや、むしろ魔導剣士らしいと言えるかもな。

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