第27話『消えた依頼』

 ある程度薬草の採取を終えた俺は、森を出て街へ帰ることにした。


 森を出て少し歩いたところで、またもやデルフィーヌさんに遭遇した。


 向こうが気付かなければスルーしようと思っていたが、今回は気付かれたみたいなので、軽く会釈。


 すると、なんかデルフィーヌさんがこっちに向かってきた。


「アナタ、いま森から出てこなかった?」


「ええ、まあ」


 なんか怒ってない? この人……。


「森は危険だから近づくなって、注意されてたでしょ? 忘れたの!?」


「はぁ……。でも俺基礎戦闘訓練受けて、Eランク程度なら余裕ってお墨付きもらったんで」


「……そうなの?」


「ええ。だから無理のない範囲で魔物狩りも始めてるんですよ」


「え……、じゃあもう薬草採取はやめたの?」


 ん? 薬草採取やってるって話、この人にしたっけ?


 ……ああ、そういや俺『薬草名人』て呼ばれてたんだったな。


「いやいや、薬草採取は継続してますよ。割がいいですからね」


「そ、そう……。ならいいわ」


 ……なにがいいんだ?


「とにかく、無理してギルドに迷惑かけちゃダメよ!!」


 そりゃアンタだっつーの!


「はぁ、気をつけます。俺は納品があるのでこの辺で……」


「あら、そうなの? 私はもう少しこの辺で薬草を探そうかと思ってるんだけど……」


「そうですか。この辺なら強い魔物もいないし、安心ですね。では、頑張ってください」


「えーと、あの……」


「はい?」


「その……帰り道、気をつけて……」


「はぁ、どうも」


 なんかよくわからん人だなぁ。



**********



 やっぱ森での活動は草原での活動に比べると危険な分割がいいな。


 サナンの葉を始めとした、森で効率よく取れる薬草に、ホーンラビットとジャイアントボア、それに保管していたグレイウルフの骨と皮を一部納品して、この日の成果は500Gを超えたぜ!


 なんでもFランク冒険者ってのは数は多いけどEランクの魔物を狩れる人はほとんどいないんだと。


 なので、Fランク級の魔物はすげー安いけど、Eランクになると一気に価値が上がるのだ。


 ホーンラビットで80G前後、ジャイアントボアだと100~150G、あとグレイウルフはEランクだけど群れだとDランクになる上、ほぼ群れで行動しているので骨と皮だけで200G程度になる。


 やっぱ基礎戦闘訓練受けといて正解だな。


 あと何気に『魔刃』と『魔槍』が心強い。


 苦労はしたけど、デルフィーヌさんに感謝だな。


 ……いや、感謝まではしなくていいか。


 

 とりあえずその日から俺は数日間同じようなペースで仕事を続け、ある程度の生活費を確保しつつも各ギルドへの借金を返済できた。


 あと、寝る前の魔力操作練習は相変わらず続けていて、ようやく手に魔力をまとうことが出来るようになったよ。

 

 そしたら<魔力操作>と<無魔法>のレベル上がったわ。


 今度は全身に魔力を纏えるように練習しよう。



 そういえば、時々デルフィーヌさんと遭遇して、その都度なんとなくつっかかってこられたな。


 適当に流しておいたけど。


 あの人なんなの?



**********



 借金もなくなってある程度生活も落ち着いてきたので、そろそろハリエットさんの頼みを聞くことにする。


 あの話はループで無かった事にはなってるけど、無理して中級魔術教えてくれた事実は消えないし、今でもすげーお世話になってるからね。


 無視する訳にはいかないよな。


「あらぁ、ショウスケちゃんひさしぶりねぇ」


 だから決してこの魅惑の谷間を見たいがためにここを訪れたのではないことを明記しておく。


「ども。えーっと、魔石の採取を行いたいんですが、どうすればいいでしょう?」


 そう、あの時ハリエットさんは「魔石を集めて欲しい」と言ってたんだよな。


「あらぁ、魔石に興味があるの? おねーさん嬉しいわぁ」


「はい。ちょっとそういう話を耳にして、興味が湧いたもんで」


 本当は貴女に依頼されたのですよ。


「ショウスケちゃんはどうやって魔石を集めるか知ってるのかしら?」


「いえ……。どっかで採掘するんですかね?」


 ファンタジーものだと、魔物を解体すると体内から見つかるってのが多いが、今のところそれらしいものは見つかってないんだよなぁ。


 魔物から採れないなら、考えられるのは鉱石か何かだってことぐらいだし。


「ふふ……ショウスケちゃん何も知らないのねぇ」


 くっそー、やっぱこの人エロいなぁ……。


 ずっとこうして会話していたいぜ。


「魔石はね、ダンジョンモンスターから採取するのよ」


「ダンジョン!?」


 マジか!! ダンジョンあんのかよ!!


 そうか……そこに思い至らなかったのは迂闊だったな。


「ただ……ショウスケちゃんソロでしょう?」


「ええ、まぁ」


「浅層ならあまり危険はないけど、できれば攻撃魔術を覚えておいたほうがいいと思うのよねぇ……。まだ覚えてなかったわよね?」


「……ええ、はい」


 実は中級魔術使えるんですけどね!


「なら、『下級攻撃魔術パック』なんてどうかしら? 基本攻撃魔術属性四種の『矢』『弾』『球』と『攻撃魔術基本講座』をセットにしてなんと3,000G!!」


 おおっと、以前聞いたようなセリフだな。


「でも、お金が……」


「前回のローンは比較的短期間で返済してくれたし、魔石採取に行ってくれるっていうんだから、特別にローンでもオッケーよ!」


「お願いします!」


 即答しちまったぜ!


 でも、無属性以外の魔術も使いたかったんだよな。


「『攻撃魔術基本講座』は受けるでしょ?」


「もちろんですとも!!」


 講座修了者の称号はバカにできないからな。


 タダで受けさせてくれるってんなら喜んで受けるさ。


 早速ギルドカードを渡して手続きを行ってもらう。


「じゃあ、あのおじーちゃんについていってね」


 あ、やっぱ講義はあのじいさんなんだ。


 まぁあの人の話わかりやすいもんな。


「おい、用がすんだならさっさとどけ!」


 後ろからの声に振り返る。


 またお前か。


 えーっと、ヘクターさんだっけ?


「あーはいはいすいませんね―」


 やっぱ目つきヤバいなぁ。


「ハリエットさん! 今日は貴女あなたに似合うアクセサリーをお持ちしました!! どうです、この宝石? 我が盟友フレデリックが州都で買い付けた逸品なのですよ。見事でしょう!!」


「あのねぇ……。そんなものはいらないから、魔石でも採ってきてくださいな」


「あのような無粋な石ころなんぞ、貴方には似合いませんよ!! あと、私の思いを綴った手紙を用意しましたので、ぜひお返事を!!」


「はぁ……」


 ほんと、美人は大変だねぇ。


 しかしあのヘクターってのも欲張りな人だ。


 ああいう美人の受付嬢ってのは公共の宝みたいなものなんだから、ちょっと話せるぐらいで満足すりゃあいいのに。



「おー、チョウスケくん、久しぶりじゃの」


「ショウスケです。またよろしくお願いします」


 じいさん、俺の顔は覚えてるのに名前は相変わらずなんだな。



 場所は前回同様、教室みたいなところで、生徒も俺1人。


 戦闘訓練に比べて人気無いのな、魔術講座は。


 とりあえず俺は爺さんの講義に耳を傾けることにする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る