第16話『治療士ギルド』

 治療士ギルドは冒険者ギルドと道を挟んで向かいにあった。


 冒険者ギルドと同じぐらいの大きさはあるだろうか。


 聞けば、怪我や病気のための入院設備があるから、かなり広いんだそうな。


 中に入ると、そこは予想通り清潔な空間だった。


 冒険者ギルドや魔術士ギルドもかなり清潔なところだったけど、ここはまた違った清潔さがあるな。


 まあ一言でいえば病院、って感じなんだけどさ。


 待合室には一般人っぽい人がたくさんいた。


 とりあえずギルド会員用の受付に向かう。


 受付の人は、白いローブに身を包んだ清楚な感じの女性だ。


「本日はどのようなご用件で?」


「えーっと、ギルドへの新規登録とか回復魔術の習得とかをしたいんですけど」


「ではギルドカードをお渡しください」


 受付のお姉さんにギルドカードを渡すと、例のごとく台座にカードをはめ、採血される。


「ショウスケ様、いつもお世話になっております」


 ってことは、やっぱ薬草採取で貢献してるのかな?


「ショウスケ様は薬草採取等で当ギルドの依頼をすでに数多くこなされておりますので、登録料は免除、Fランク治療士として登録が可能です。このまま手続きを進めてよろしいですか?」


 このお姉さん、スラスラ話すね。


 その後、治療士ギルドの説明もしてくれたが、まあ他のギルドの治療士版ってことで特に気になることはなかった。


 声がキレイで滑舌も抑揚もいい感じだから、すーっと言葉が頭に入ってくるわ。


 なんやかんやでお姉さんが手続きを済ませ、カードを一旦返してくれた。


「はい、登録作業は終了しました。魔術士ギルドで基礎魔道講座は修了されているようですので、ご希望でしたら回復魔術の習得に移らせていただきますが?」


「よろしくお願いします」


 回復魔術の料金表をだしてもらう。


 やっぱ高ぇなぁ。


「なにかお得なセットとかってあります?」


「ございますよ。ショウスケ様はソロの冒険者様ですか?」


「はい」


「でしたらやはり『冒険者基本パック』でしょうね」


 あ、ここは魔術士ギルドと同じ名前なんだ。


「『下級自己回復』『下級自己解毒』『下級自己身体強化』の3点で1,000Gとなっております」


 おおっと、魔術の方は8つなのに、こっちは3つで1,000Gか……。


 個別だと合わせて2,500Gだから、半額以下にはなるんだな。


 魔術士ギルドほどのお得感はないけど、まあいいや。


 正直<毒耐性>がある俺に『解毒』関連が必要かどうかってのが悩みどころだけど、じゃあここから『下級自己解毒』引いても、結局1,000G超えるんだよな。


 『下級自己回復』単品で800Gかかるわけだし、パックでいっとくか。


 ……とその前に。


「すいませんが、ローンは組めますか?」


「はい。Fランク治療士の方は1,000Gまでのローンが可能です」


 お、やっぱそうか。


「あ、魔術士ギルドの方でもまだローンが残ってるんですか……」


「問題ございませんよ。他ギルドとは別枠でご利用可能です」


 よっしゃ!


「ではこの『冒険者基本パック』をお願いします」


「かしこまりました」


 その後俺は別の人に連れられて習得部屋に行き、無事『下級自己回復』『下級自己解毒』『下級自己身体強化』を習得した。


 この回復系魔術とか補助系の魔術は『聖』属性という複合属性だ、


 『光』をメインに『地』『水』『火』『風』四元素属性を混ぜ、ほんのちょっとだけ『闇』のエッセンスを加えると出来るのが『聖』属性。


 人体は四元素で構成されているといわれ、そこに原初属性を加える事で人体に影響を与える『聖』属性が出来るのだとか。


 なんだかあれだね、DNAがATCGの4つの塩基で構成されてるってのに近いね。


 あと『聖』属性にはけがれをはらう魔術もあるらしいんだが、今は必要ないな。



 訓練施設もあるようなので、とりあえず練習だけさせてもらい、ちゃんと使えることを確認した。


 まず『下級自己回復』は、ちょっとした”自分の”怪我の治療が可能。


 生活魔術の『血止め』と併用すれば、切り傷や擦り傷にはほぼ対応できるらしい。


 骨折は直せないのだが、ちょっとしたヒビなら効果あり。


 骨折の場合も、上手いこと骨接ぎすればある程度治療は可能だとか。


 ちなみに他人の治療ができる『下級回復』は3,000Gナリ。


 ただ、一定期間治療士として働くことを条件に覚えることも可能。


 まあ、当分はソロのつもりだし、必要ないだろ。



 『下級自己解毒』はその名前から想像できる通りちょっと弱めの毒を無効化出来る。


 食あたりにも効果はあるけど、食中毒レベルだとちょっと厳しいらしい。


 あと、即効性のある毒にはほとんど効果がない。


 これも他人を治療できるやつは高いけど、治療士ギルドでの労働を条件に習得が可能。



 『下級自己身体強化』だけど、これは使えばなんか体が軽くなって、いつもよりよく動く感じがする。


 試しにステータス画面見てみたら、『物攻』『物防』の基本値と、『体力』『素早さ』『器用さ』がちょっと上がってたよ。


 これは結構使えそうだな。


 これも他者に使える『下級身体強化』になると3,000Gとお高くなっております。


 まあ、この冒険者パックは「最低限自分の面倒は自分で見ましょう」って理念が元になってる感じやね。


 

**********



 治療士ギルドでは回復魔術を覚える以外特筆すべき事も無く、俺は冒険者ギルドに戻った。


 さくっとディナープレートを食って寝台に行く。



 さて、実は今日寝る前にやっておきたいことがあるんだわ。


 それは<魔力操作>のレベルアップ。


 寝台なら最悪MP切れで気絶しても大丈夫だろ。


 俺は寝台に横になった状態で、体内を流れる魔力を練り始めた。


 ステータス画面を見ながらでも出来るので、どういうふうに魔力を動かせばMP消費が増えるのか、みたいなことを気にしながら魔力を練る。


 他の人には真似できない訓練方法だよな。


 少しの量をゆっくり動かす分にはほとんど消費はないんだよね。


 早く動かしたり動かす量を増やしたりいろいろ試してみる。


 MPってのは時間経過で回復するんだが、いい塩梅で魔力を全身に巡らせるようにすると、何もしてない状態よりMP回復が早くなることも発見した。


 ガーッと操作して消費し、魔力酔いに耐えつつ気絶寸前でMP回復を図る。


 その夜はそれをひたすら繰り返していたが、真夜中過ぎぐらいにちょっと油断してしまい、MP切れをおこして気絶した。



**********



 翌朝、ステータスを確認すると<魔力操作>はLv3になってたよ。


 MPも結構増えてた。


 たぶん魔術士ギルドの寝台で寝てたらもっと回復してたんじゃねぇかな。


 HPとMPって最大値みたいなのがないからどこまで回復するのかは不明だけど。


 一応冒険者ギルドの寝台だと疲れは完全に取れるんだけど、それでも日によって寝起き時のHPは上下してたから、体調とかの影響は受けるんだと思う。



 さて、昨夜の魔力切れによる疲れもあんま残ってないし、今日は武器レンタルして狩りに出かけるか!



**********



 俺はかれこれ10分ほど武器防具レンタル表とにらめっこしている。


 だって、よくよく考えれば武器なんて使ったことないもんよ。


 中学の時に体育の授業で剣道やったけど、結局竹刀振り回してチャンバラごっこしただけだもんなぁ。


「随分悩んでるねぇ」


 受付にいるのはイケメンリザードマンことフェデーレさん。


「いやぁ、武器なんて使った経験がないんで、どれ選んだらいいかわかんないんですよねぇ」


 まあファンタジー=剣と魔法の世界っていうぐらいだから、剣を使ってみたいけど、ショートソードにロングソード、レイピアといろいろあるし、でも刃物って何度も切ってたら切れ味が悪くなるっていうから、メイスみたいな鈍器も捨てがたいし、正直魔物に近づきすぎるのは怖いから槍もありかなとも思うし、いっそ弓ってのもどうかと思いつつも、さすがにソロで弓は厳しいかぁ、と思ってみたり……。


「ふっふっふ。そんなアナタに『基礎戦闘訓練』!」


「基礎戦闘訓練?」


「そ。ショウスケくんみたいに、戦闘経験がない人なんてたくさんいるからね。実際武器なんて使ってみないと何が自分に向いてるかなんてわからないでしょ? だからそんな見習い冒険者のために、ギルドでは基礎戦闘訓練というのを行っているさ」


「へええ」


「ちなみにショウスケくんの場合、Gランクでの依頼貢献度が高いから、きっちり訓練を受ければFランクに上がれるよ」


「え、マジっすか?」


「マジマジ。ギルドランクっていうのはそのギルドに対する貢献度や信用度を示すって意味合いもあるけど、こと冒険者ギルドに関しては実力に見合わない高ランクの依頼受注を規制するっていう意味もあるんだ。基礎戦闘訓練をきっちり受ければ、少なくともF~Eランクの依頼で命を落とすなんていう可能性はかなり減せるからね」


「へええ……、で、おいくら?」


「1,000Gだよ。ショウスケくんはGランクだけど特別にローンも可」


「1,000G……」


 いま魔術士ギルドと治療士ギルドに合わせて1,900G借金があるんだよなぁ。


 で、再来月から収納庫のレンタル代が毎月50Gかかるし、出来れば早く『下級浄化』も覚えたいからなぁ。


「すんません、基礎戦闘訓練は後回しで」


「ありゃ、ざんねん」


「とりあえず、今回は青銅の槍でお願いします」


「青銅の槍ね。じゃあこれ。円盾まるたてとかいらない?」


「んー、今は節約したいんで、円盾はいいです」


 渡された槍は1mちょいの木製の柄に、30cmぐらいの青銅の刃……えーと槍だとっていうんだっけ? が付いてる。


 全長1.5m足らずだから、短槍ってやつか。


 後で知ったんだが、冒険者が使う長柄系の武器は大体この短槍サイズが基本になってるらしい。


 森や洞窟なんかを探索することが多い冒険者にとって、2m超えるような長槍は扱いづらいんだと。


 手にとってみると、いい感じの重さだね。


 周りに気を使いながら軽く振ったり、突いたりの真似事をしてみたけど、結構扱いやすそうだ。


 こっちに来てレベルアップしたり、薬草採取で何気に体使ってるから、多少筋力は上がってると思う。


 ヒキニート時代の俺じゃあ軽く振っただけで落としてたかもな。


「ショウスケくん……やっぱ基礎戦闘訓練受けたら?」


 今のちょっとした槍の真似事だけで、俺の戦闘センスのなさが露見してしまったというのか!?


「あはは……。とりあえず弱そうな魔物だけ相手にするようにしますよ」


 とりあえず笑ってごまかしとこ。 


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