第17話『初めてのFランク依頼』

 青銅の槍を借りた俺は、いつもの薬草採取に加えジャイアントラビットの皮10羽分という依頼を受けた。


 依頼ランクはF。


 初のFランク依頼だ。


 この依頼を達成すればランクアップ確定なんだよな、へっへっへ。


 例のごとく採取キットも借り、俺はジャイアントラビットの生息地に向かった。



 生息地に向かう道すがら、ちょこちょこと薬草採取も行っていく。


 いっぱいになった袋は『収納』で収納庫へ入れていけるから、すっげー楽ちんだわー。


 ちなみに槍も収納庫に入れてある。


 あれ、結構かさばるんだよね。


 採取キットは出したり入れたりでMP消費すんのもアレなんで、出しっぱだけど。


 なんやかんやですでに50G分ぐらい採取できた。



**********



 ジャイアントラビットの生息地に近づいた。


 すでに短槍は用意してある。


 <気配察知>にビンビンひっかかってるね。



 魔物の生態ってのは不思議なもんで、活動範囲が限られてる上に、一定数以上増えることはあまり無いらしい。


 活動範囲から一歩も外に出ないかというと、そんなこともないんだけど、一時的に範囲外に出ても最終的には戻る、みたいな感じで基本的にはその活動範囲を守るんだと。


 生息数も不思議と一定に保たれる。


 数が減ったらすげー勢いで増えるんだが、ある程度の数に達すると急に増えなくなるんだと。


 ただ、ここ数十年は全体的に増加傾向にあるとかなんとかって話はチラホラ聞いたな。


 魔物ってのは完全に狩り尽くしたと思っても、数日でどこからともなく現れ、増え始めるらしい。


 活動範囲から魔物を完全に排除するには、その場所の環境を大幅に変える必要がある。


 たとえば森に棲む魔物がいるなら大規模な伐採を行うとか、池に棲む魔物がいるなら池を埋め立てるとかそんな感じで。


 魔物は乱獲しても絶滅するということがないので、素材はいい感じに安定供給できるから、魔物素材を元にした産業も発達してる。


 つまり、魔物狩りを生業にすれば生活もそこそこ安定するってわけで、魔物狩りをメインに活動する冒険者なんてのはたくさんいるんだが、それでも生息地にくれば獲物に困るってことはほとんどない。

 

「おー、いっぱいいるなー」


 <気配察知>に引っかかっている数は5匹。


 とはいえ、そこそこ広い範囲を察知できるようになっているので、群れってほどじゃない。


 ジャイアントラビットは群れで獲物を襲うということがないので、初心者向けの魔物として見習い冒険者から好まれているんだな。


 だからこの依頼を受けたんだけどさ。


 あ、ジャイアントラビットは草食じゃなく雑食なんだよね。


 だから人間も襲います。


 念のため『下級自己身体強化』を使って能力を上げ、<気配察知>全開で、こちらに気づいてなさそうな奴にこっそり近づく。


 草むらの向こう、死角になっているが、そこに1匹いるのは間違いない。


 もう少しで槍の間合いに入ろうかという時、草むらの向こうからガササという音が聞こえた。


(気づかれた……!)


 お互い姿は見えていないが、何となく向こうがこっちに気づいたのは感じ取れた。


 腰を落とし、いつでも突きを繰り出せるよう槍を構え、ゆっくりと一歩踏み出す。


 この距離なら届く……!


 草の陰にいるであろうジャイアントラビットに向けて、思いっきり槍を繰り出した。


 だが、槍の穂先が届く前にソイツは横に飛び、あっさりとかわされしまう。


 そしてソイツは着地と同時に草むらから飛び出るようなかたちで俺に飛びかかってきた。


 おもいっきり突きを繰り出して隙だらけになっていたところに体当たりを受けてしまう。


「ってぇ!」


 結構な衝撃を受けたが、装備と魔術のおかげで思ったほど傷みはない。


 なんとか踏ん張って体勢を立て直し、敵が着地した瞬間を狙って槍を繰り出した。


 柄を持つ手に確かな手応えを感じる。


 槍の穂先がジャイアントラビットの脇腹あたりに刺さったが、致命傷じゃないのか、暴れまくっている。


「クソっ! おい、じっとしてろ!!」


 なんて俺の希望なんか聞き入れてくれるはずもなし。


 ジャイアントラビットはひと暴れしたあげく俺の槍から逃れた。


 相当な深手を与えているが、まだそこそこ動き回れるらしく、俺から逃げるように駆けだす。


 さすが「脱兎のごとく」という言葉があるだけあって、逃げ足速ぇなウサ公め!



 <気配察知>と草むらを走る音を頼りに全力でジャイアントラビットを追いかける。


 この世界に飛ばされた日以来の全力疾走だが、いろいろステータスが上がってるおかげで、確実に足も速くなってるし、持久力もついてるな。


 万全の状態のウサ公相手なら逃げられたかもしれないが、相手はそれなりに深手を負っているため、動きは鈍い。


 しばらく追い掛け回した結果、背後から追いついて首の裏を槍で貫き、なんとか仕留めることが出来た。


 随分騒いでしまったせいか、<気配察知>の範囲内にジャイアントラビットはいなくなってしまったので、とりあえずコイツを解体することにする。


 血抜きをし、内蔵を取り出し、皮をはいで部位ごとに切り分ける。


 続いて骨と肉を引き剥がして解体完了。


 <解体>スキルと解体用ミスリルナイフのおかげで、10分程度で解体できた。


 皮を剥いだり、腱を切ってバラしたりすんのがすげー楽だわ。


 クラークさんありがとー!!



 さて、内蔵は穴を掘って埋めておく。


 その他の部位は『製水』で洗い、皮と骨は『乾燥』。


 肉は『冷却』で頑張って冷凍し、まとめて『収納』。


 『収納』使用時、収納庫内のどの辺に置くかってのを指定できる。


 庫内に仕切りを作ってあるので、冷凍肉とその他の部位は仕分けておく。


 皮と骨もとりあえず冷蔵庫の方でいいだろう。


「ふぅ。これでよし、っと」


 ちょっと苦労したけど、なんとか1羽ゲット。


 ただ、ジャイアントラビットは1羽で10G、解体しても15Gなんだよなぁ。


 まぁ供給が安定するってことは、価格も安定するってことで、その分儲けも少なくなる、っと。


 特にジャイアントラビットなんてほとんど冒険者が狩れるわけだから、しょうがないんだよね。


 俺の場合は薬草採取の方が効率は良いんだけど、まぁこれはランクアップ試験だと思って我慢しよう。



**********



 その後も<気配察知>を頼りに獲物を見つけ、狩りを続けた。


 出来れば不意打ちで仕留めたいんだが、どうしても寸前で気づかれるんだよな。


 結局2時間ぐらいかけて、ようやくもう1羽仕留めた。


「なんとか気付かれずに済む方法は無いものかねぇ」


 改めて獲物を見つけた俺は、例のごとく<気配察知>全開で近づく。


(あ、魔力の流れってどうなってんだろ?)


 ふと、そう思った。


 なんとなくだが、自分の中に流れる魔力は感じ取れる。


(空気中にも魔素ってのが漂ってんだよな)


 いままでちゃんと意識したことはなかったが、集中すれば確かに自分の周りを漂う魔力の流れを感じる事ができた。


 これが魔素ってやつか。


 魔術士ギルドの魔素が濃い部屋では目に見えるほどだったが、普通はこれぐらいの濃度なんだな。


 かなり意識しないと感知できないわ。



《スキルレベルアップ》

<魔力感知>



 お、なんかスキルレベル上がった。


 そうかー、<魔力操作>のことばっか考えてたけど、<魔力感知>も大事だよなぁ。


 スキルレベルが上がったおかげで、より広い範囲の魔力の流れを感じ取ることが出来る。


 そうなると気になるのが、獲物の魔力だ。


 この世のすべてのものが魔力を有しているってんだから感じれるはず。


 集中しろー、集中ぅー……。


 すると、まずは周りに生えてる草や転がってる石ころ、さらには地面を流れる魔力を感じ取れるようになる。



《スキルレベルアップ》

<魔力感知>



 あぁ、なんか頭がぼーっとしてきた……。


 いかんいかん! 集中集中!!


 ……お? これがジャイアントラビットの魔力か?


 <気配察知>とはまた違った形で獲物を感じることが出来た。


 


《スキルレベルアップ》

<魔力感知>



 おお、なんかすげー勢いでスキルレベルが上がってんな。


 さてと、この状態だと、今までよりも相手の状態がわかるな。


 今なら確実に向こうは気づいていない。


 ここで細心の注意を払いつつ、近づく……あれ?


 なんか俺の魔力、微妙に漏れてね?


 漏れた魔力が空気中の魔素に絡んでんのがわかる。


 それが風にのるように拡散していって……、獲物の方にも流れていってんじゃね?


 あ! 気付かれた!! んで逃げられた!!


 ……なるほどねぇ。


 この魔力の漏れをもうちょっと制御できるようになったら不意打ちも出来そうだな。


「ふうぅ~……」


 大きく息が漏れたあと、急に目の前が真っ暗になった。


 なんとか意識を保とうと思ったがダメだった。


 

**********



 気がつけば俺は、街の門の外にいた。

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