第10話『解体講座』
エレナさんに連れられて、俺は冒険者ギルドの地下にある解体場に到着した。
解体場はかなり広い。
体育館ぐらいの広さはあるんじゃね?
ドラゴンとかワイバーンみたいな大物を捌くのに、それなりの広さがいるんだと。
やっぱその辺のもいるのね……。
しかしそんな大物、どう考えても階段や通路通らねぇんだけど、って思ってたらそこはそれ、転移魔術なんつー便利なものがあるわけですよ。
あれだな、ある意味元の世界よりハイテクだな、こりゃ。
奥には解体された魔物の素材や、解体待ちの魔物の死骸が積み上げられてる。
解体場っつーから屠殺場みたいに血まみれの汚れまみれみたいなところ想像してたんだが、意外と綺麗だった。
たぶん『浄化』のおかげだな。
やっぱ便利だよ『浄化』。
「おう、エレナちゃん。そいつが今日の生徒か?」
解体場にいたのは、スキンヘッドのいかついオッサンだった。
半袖のTシャツみたいな服の上に、ツヤのある革のエプロンを身に着けている。
「ええ。Gランク冒険者のショウスケさん」
「ども、ショウスケっす」
こっちじゃみんなファーストネームで呼ぶから、俺もファーストネーム名乗るのに慣れてきたわ。
「おお、アンタが噂の薬草名人か」
「なんすか、それ?」
「ショウスケさんが採取する薬草は、状態がいいから評価が高いのよ」
へええ、そんなことになってんのね。
「いよいよ魔物退治を始めようってわけかい?」
「今日はたまたま遭遇してなんとか返り討ちに出来たんですけどね。今後もそういうことがあるかもしれないので、せっかくなら解体も覚えておこうかと」
「そうかいそうかい。そりゃいい心がけだ。ああ、自己紹介が遅れたな。俺はトセマ冒険者ギルド専属解体士のクラークだ」
エレナさんがクラークさんに、俺が仕留めたジャイアントラビットを渡す。
「じゃ私はこの辺で。あとよろしくお願いしますねー」
「おう」
エレナさんを見送った後、クラークさんは俺が仕留めたジャイアントラビットを検分する。
「ふむ、上手いこと喉を一撃で仕留めてるな。傷も少ないし、うまい具合に血抜きもできているようだ」
「まあ、偶然出した鎌にそいつが突っ込んできたので」
「そうかそうか。ではまず俺が手本を見せるからよく見ておけよ」
そう言うと、クラークさんは解体用ナイフを使って手際よくジャイアントラビットを解体していく。
皮を剥がし、腹を割いて内蔵を取り出し、体を部位ごとに切り分け、肉と骨をバラす。
10分とかからずジャイアントラビットの死骸は立派な素材になった。
「とまあ、こんな感じだ。今はわかりやすくするためにあえてゆっくり解体したが、そに気なればジャイアントラビットぐらいなら今の半分以下の時間で解体できるぞ」
おお、あれでもゆっくりやってたのか。
すげーなオッサン。
「皮にはまだ脂肪や筋がこびりついてるし、細かい骨や取りきれなかった内臓なんかも残ってるんだが、それは魔術や魔道具でやったほうが早いからな。ここまでやれば解体完了ってことで問題ない」
ファンタジーものなんかで、たまに皮に付いた肉をせっせとこそぎ落とすシーンとかあるもんな。
便利な魔法があるもんだ。
「よし、じゃあやってみろ」
そういうと、クラークさんは解体場にあったジャイアントラビットの死骸と、新品の解体用ナイフを俺に手渡した。
さっき見た手順を思い出しながら、実践してみる。
はっきり言おう。
自分でも驚くほどうまく出来た。
たぶんだが、ステータスアップによる【賢さ】や【器用さ】が影響してるんだと思う。
一回見ただけなのに、クラークさんの動きの意図をちゃんと理解できたし、バッチリ記憶もしていた。
いざ死骸にナイフを入れてみても、驚くほどすんなり体が動くんだよな。
「ほう、なかなか筋が良いな。では他の物もやってみるか」
その後俺は、ジャイアンドボア、レッドフォックス、グレイウルフ、ゴブリン、オーク等々、いろんな魔物の解体を教えてもらった。
最初は人型の魔物を解体するのに抵抗もあったが、すぐに慣れた。
《スキル習得》
<解体>
10体ぐらい解体したところで、<解体>スキルを覚えた。
これを覚えてからはさらに手際が良くなり、その後何度かスキルレベルアップ通知を受け、最終的には初見の魔物でも手本無しで捌けるようになった。
「うーむ、ここまで筋がいいヤツは初めてだ。気が向いたら解体士になることも考えておいてくれな」
「ありがとうございます! クラークさんの教え方が上手いお陰ですよ」
「そ、そうか?」
クラークさんの顔が少し赤くなる。
オッサンが照れる姿ってのはあんまみてて楽しいもんじゃないな。
「しかしあれだな。順調すぎて時間を忘れて作業しちまったな。たぶんもう朝じゃねぇかな?」
マジかよ!
日暮れ前に始めてたから、12時間ぐらいぶっ通しでやってたんだな。
「じゃあ、これ」
そう言って俺は解体用のナイフをクラークさんに返そうとする。
「ん? それは解体講座のオマケだぞ?」
「え、そうなんすか?」
エレナさん、ちょいちょい説明不足なんだよな……。
ナイフ付きで150Gなら高くはないか。
なんにせよスキル習得できたのはでかいわ。
「あー、ちょっと待て」
そういうとクラークさんは奥から別のナイフを持ってきた。
「これ持ってけ」
そのナイフは、明らかに今回渡されたものより上等で、しかも新品だった。
「これはミスリル製の解体用ナイフだ。これなら腕さえあればドラゴンの解体も出来るぞ! しかも鞘には浄化魔術が付与してある上に研磨機能もあるから、メンテナンスも楽だ」
おお! ファンタジー金属ミスリル!! やっぱ存在すんのな!!
「いいんですか?」
「おう。久々にいい才能を見れたからな。それに講座とはいえ実用レベルで解体してもらったからな。そのナイフの三割ぐらいの仕事はこなしてるよ。まあ気が向いたら今後も手伝ってくれや」
「ありがとうございます! 大事に使わせていただきます!!」
「おう! 武器としてもそこそこ優れてるが、出来れば戦闘では使わんでくれよ」
「わかりました! またお邪魔しますね!!」
「おう!!」
たぶん売ればすげー値段になるんだろうけど、オッサンの期待を裏切るような真似はよそう。
解体場を出て一階に戻ると、オッサンの言うとおり夜が明けていた。
朝日を見たら一気に疲れが出てきたので、そのまま浄化設備で浄化を受けた後、寝台に直行した。
**********
久々に、掃除のおばちゃんに起こされる。
なんやかんやでたぶん3時間ぐらいは寝れたと思う。
やっぱこの寝台は疲労回復効果がある魔道具らしく、短時間睡眠の割には疲れが取れていたよ。
疲れはもちろん、ちょっとした怪我ぐらいなら一晩で治るらしいけど、深い傷や骨折みたいな大怪我にはあんま効果ないんだと。
それでも自然治癒よりは治りが早くなるらしいけど。
大怪我に関しては『治療士ギルド』ってのがあって、そっちの入院施設だとかなり早く回復するらしい。
そのうちお世話になるかもな。
例のごとく日替わりランチを食った俺は、ギルド受付に向かう。
ちょっと気になることを確認しときたいんだ。
「やあ、今日も薬草採取かい?」
受付は若い
切れ長の目が特徴のイケメンだ。
大体午前中~夕方ちょいまえまではこの人が受付にいることが多い。
「そうですね、薬草採取はもちろんやるんですが、そろそろ魔物狩りもやりたいなと思いまして」
「お、いよいよランクアップ狙い?」
「まあ、それもあります。せっかく解体技術を得たのでね」
「そういえばおやっさんと徹夜で解体場にこもってたらしいね。溜まってた分の仕事がほとんど片付いたって、おやっさん喜んでたよ」
ちなみにおやっさんというのは解体士のクラークさんのことね。
ギルド職員や冒険者からはそう呼ばれることが多いみたい。
「で、確認したいんだけど、武器の貸出なんてやってます?」
「やってるよ。はい、一覧表」
フェデーレさんはレンタル品の一覧表を出してくれた。
青銅製と鉄製、鋼鉄製の武器や防具がある。
1日あたりだが、青銅製だと3~5G、鉄製で5~8G、鋼鉄製だと10~15Gぐらいか。
さすがにミスリル製ってのはないらしい。
とりあえずお試しで青銅の装備から試してみようかなぁ。
「ところで、ショウスケくんはパーティ組まないの?」
パーティーなぁ。
雑談とか食事ぐらいなら普通に出来るようになったけど、団体行動はまだ避けたいんだよなぁ。
「しばらくはソロでやるつもりですね」
「じゃあさ、生活魔術ぐらい覚えといたほうがいいんじゃない?」
「生活魔術っすか?」
「魔物の素材となると、肉なんかはどうしても劣化が早いし、かさばるからね。冷却魔術や収納魔術ぐらいは覚えといたほうがいいんじゃないかな?」
おお! 収納魔術ってことはアイテムボックス的なアレか!!
「もしかして収納魔術って、無限にに荷物保管できたり、収納物の時間止めれたりするアレですか?」
「無限に、とか収納物の時間を止めるとなると、大変だよ? 普通は魔術で冷凍させてから収納するっていうのが一般的かな。いや、普通はそういうのが得意な人とパーティー組むんだけど、ショウスケくんソロでやるって言うから」
そうだなぁ。
生活に一杯一杯で魔法のことなんてすっかり忘れてたけど、やっぱ異世界に来たからには覚えたいよな。
「魔法ってどこで覚えれますか?」
「そりゃもちろん魔術士ギルドだよ。あと、魔法じゃなくて魔術ね」
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