第7話『初めての依頼』
俺が歯を磨いている間にあらかたの冒険者は食事を終えたのか、1階に降りると食堂は半分以上空席になっていた。
みたところセルフサービスみたいなので、奥に調理場のあるカウンターっぽいところに行ってみる。
「すいません、食事を頂きたいのですが?」
「あいよー。もう日替わりランチしかないけどねー」
調理場の方から背の低いまるっとしたおっちゃんが出てきた。
なんかの獣人かと思ったけど、こりゃ普通のヒトだね。
「いくらですか?」
「5Gだよー」
「じゃそれで」
「あいよー」
おっちゃんが手際よく区切りのあるプレートに盛りつけていく。
小さくて黒いパン2つと、サラダ、ハンバーグみたいなのが盛りつけられ、空いたスペースにスープが入った器と水がのせられた。
トレイを持って、空いたテーブルに座る。
(これが噂の黒パンかぁ)
異世界もののラノベなんかに出てくる黒っぽいパン、通称黒パン。
(……やっぱ硬ぇー!)
試しにかじってみたけど、噂通り相当硬いな。
でも大丈夫。
これはスープに浸して食べるんだよねー。
(うん、結構美味い)
スープに浸せばちゃんと柔らかくなるし、スープの旨味をすっていい感じだ。
試しにスープもすすってみたけど、野菜の旨味がしっかり出てるし、塩味も結構効いてるわ。
異世界モノでよくあるのが、塩とかの調味料が結構な高級品で、食事が味気ないってのが多いんだが、ここのメシは普通に美味い。
サラダには油と塩と何かの果汁っぽいのがかけてあったけど、これもすげー美味しかった。
(さて、これはハンバーグだよな、どうみても)
メインディッシュはひき肉を固めて焼いたもので、形も匂いもハンバーグそのものだった。
ただ、ソースはかかってなかったけど。
ナイフで切ってみると、中から肉汁が出てきたよ、ちゃんと。
(お、うめー! ソースはかかってないけど、ちゃんと味付いてるね。胡椒の味がしっかりしてるわ)
料理については当たりの世界に来たみたいだ。
もともと食に関してこだわる方じゃないけど、不味いのは勘弁して欲しいからな。
メシが美味いってだけでもモチベーションは上がるってもんよ。
さて、食事も終えたし、一応ステータス確認しとくか。
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名前:山岡勝介
職業:見習い冒険者
レベル:4
HP:127
MP:23
物攻:G+(G+)
魔攻:G-
物防:G+(G+)
魔防:G-(G-)
体力:F-
精神力:G+
魔力:G-
賢さ:F+
素早さ:G
器用さ:G
運:G+
【所持金】
現金:0G
カード:15G
【装備】
麻の服:物防G- /魔防G-
革の靴:物防G-
【所持アイテム】
歯ブラシ
洗口液
革の巾着
【スキル】SP:104
稲荷の加護
言語理解
恐怖耐性:Lv2
毒耐性:Lv1
気配察知:Lv1
空腹耐性:Lv1
【称号】
Gランク冒険者
【スタート地点】
トマセの街 西門
572/06/22
09:048:32
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おお! 念願のニート脱却!!
さらば昔の俺! そしてこんにちは新しい俺!!
見習い冒険者か……、いいね!!
……お、なんか強くなってね?
HPとMPは回復したって思えばまあおかしくないけど、他の能力値がぼちぼち上がってんだよなぁ。
あれかな、疲労困憊からの超回復ってやつかな?
とりあえずレベルアップなしでも能力が上がるって情報は収穫だな。
まあ、トレーニングで強くなれないとか、ちょっと考えたらおかしいもんな。
あと、【所持金】【所持アイテム】【称号】ってのが増えてんな。
【所持金】→現在の所持金
現金とカードで別々に表示されるのはありがたいね。
現金0だけど……。
【所持アイテム】→現在所持しているアイテム。
歯ブラシ→オークの体毛を束ねた歯磨き用ブラシ。
オークって、ブタ人間みたいな奴か? やっぱいるんだな、この世界には。そういや昔はブタの毛で歯ブラシ作ってたっていうし、理にかなってんのか?
洗口液→ミドゥークダの葉の煮汁を主原料とした浄化液。飲み過ぎると毒。一口分の水に対して2~3滴垂らすのが適量。
まあ元の世界の洗口液だって飲み過ぎたら毒だもんな。しかし、アルコール原料じゃないのな。
革の巾着→ゴブリンの皮の端切れで作られた巾着。
おう……今度はゴブリンか。やっぱいんのね、そのへんの定番モンスターは。
【称号】→行動や功績に応じて付与される。ステータスやスキルに影響する場合も。
Gランク冒険者→冒険者ギルドに登録したことで取得。効果:なし
冒険者ランクは持ってても特典はなし、と。
あと、やっぱスタート地点変わってんな
この街はトマセの街っていうのね、覚えとこう。
ステータスの確認はこんなもんでいいか。
つーかさ、<鑑定>スキルはないけど、装備したり所持したりでアイテムの詳細は見れんのね。
これもまたチートだな。
お稲荷さん、ありがとう!!
よし! そろそろ行くか!!
「ごちそうさん。美味しかったよ!」
「まいどー! また来てねー!」
食器を返した後、俺は再び2階へもどる。
食後も歯磨きをしないと気が済まないタチなので。
**********
さて、腹も膨れたし、初の依頼といきますか!
「すいません、なにか依頼を受けたいのですが」
「ああ、そこの掲示板から適当なの選んで」
受付にいくと、昨日はいなかったおっちゃんがいたので、声をかけてみたらダルそうに返されたよ。
おっちゃんに指されたあたりにいくと、大きな掲示板にいろんな依頼が貼りだしてあった。
いろいろあったけど、とりあえず初依頼だし、簡単なものにしとこう。
「というわけで、これお願いします」
掲示板から1枚の紙を剥がし、受付に持って行った。
「えーっと、Gランクの薬草採取ね。んじゃカード」
受付のおっちゃんにカードを渡す。
「お、君初めてか。採取キットは持ってる?」
「……いえ」
「売店で買えるし、なんなら貸出もやってるけど」
「いくらぐらいですかね?」
「売店だと一番安いセットで30Gぐらいかね。貸出だと1日1G」
「じゃあ貸出で」
「はいよ。じゃあこの袋にギョム草入れてきてね。潰れるぐらいギュウギュウに押し込んで一袋10Gだから。んでこれが採取キット」
そこでおっちゃんから土のう袋ぐらいの大きさの麻の袋10枚に、鎌とハサミと軍手みたいな布の手袋、あと簡単な地図と薬草の写真を渡された。
袋はかなりキレイにされてるね。
鎌とハサミは相当使い込まれてるけど、手入れはちゃんとされてるみたいだ。
軍手は元の世界のものと比べても遜色ない出来だと思う。
新品じゃないけど、浄化されてて十分綺麗だ。
こっちの浄化技術ってのは元の世界の洗濯技術より高度なんじゃないかな?
そして、なんとこの世界には写真が存在するんだわ。
なんでも転写魔術ってのがあって、術者が見た対象を紙なんかに写せるんだと。
で、さらに転写したものを別の紙に写せる複写魔術もあるらしい。
同じような効果を持った魔道具もあるから、印刷に近い技術はあるんだと。
異世界ものの定番として、印刷技術がないため本が異様に高価ってのがあるけど、この世界じゃそれほどでもないみたい。
ただ、紙の原価がぼちぼち高いみたいだから元の世界ほど本が安いってわけでもないんだけどね。
「まあ採取ポイント辺りは安全だけど、たまに魔物もでるから気をつけてな」
「どうもっす」
そうかー、魔物出るのかー。
<気配察知>全開で戦闘を避けつつ頑張ろう。
街を出ようとすると、門番に止められた。
昨日とは違う人だった。
「どこへ行く?」
「えーっと、ギルドの依頼で薬草の採取です」
ささっとギルドカードを提示。
「うむ、気をつけてな」
《スタート地点を更新》
お! 街から出たらスタート地点が更新された!!
ステータスを確認すると『トマセの街・西門前』ってなってるわ。
なんとなく法則がわかってきたぞ。
**********
採取ポイントまでは歩いて1時間ぐらいかかった。
ギョム草ってのがかなり群生してる場所だね。
ただ、他の雑草も一緒に生えてるから、選別が面倒だったわ。
鎌で一気に刈って後で選別するのと、選別してからハサミで切るのと、効率はあんまかわらんかった。
日暮れまで頑張って、袋3つ分になったわ。
何となくの感覚だけど、日替わりランチをワンコインランチぐらいで考えると1G=100円ぐらいかなって感じなんだよな。
ってことは袋3つで30Gだから半日で3,000円ぐらいか。
丸一日頑張って50~60Gぐらいになりそうだから、まあ日銭を稼ぐにゃちょうどいい仕事なのかな。
とはいえギルドの宿泊施設ありきの話だけどね。
普通に宿とって寝泊まりしようとたら全然たりねぇ……。
いずれは魔物狩って生計立てたいよね、冒険者ギルドに所属したわけだし。
**********
街に戻ると昨日とおんなじぐらい暗くなってた。
門番は昨日のちょいイケメンの、えーとアディソンさんがいたよ。
遅番とかかな、この人。
「やー、早速頑張ってるみたいだね」
「どうも。おかげさまで」
「まあ無理せず頑張んなよ」
冒険者カードを提示したらすんなり通れたのでそのまま街に入った。
《スタート地点を更新》
やっぱりな。
多分だけど、街に入ったっリ、街から出たりするとスタート地点が更新されるんだよ。
他にも条件があるかもしれんけど、それはおいおいわかるだろう。
ギルドに着いたら受付にエレナさんがいた。
この人も遅番みたいな感じなのかな。
「これ、お願いします」
薬草の詰まった袋と、空袋、あと借りていた採取キットを返す。
「あら、ショウスケさん。早速依頼を受けてくださったのですね。お疲れ様です」
お、名前覚えててくれた!!
嬉しいねぇ。
「ちゃんとギョム草の葉だけ選別してくれてますね。丁寧なお仕事です」
そうなの? こういうのってきっちりやらないといけないイメージなんだけど。
「これなら1袋12G出せますね。報酬はカードに?」
「お願いします」
やった! なんか予定より増えたぞ!!
とりあえず報酬が36Gで、採取キットのレンタル代1Gと登録料の返済分で5G引かれて30G振り込まれた。
これで残額は35Gになったな。
お、もしかして自分で仕事して給料的なものもらうのって、生まれて初めてじゃね?
自慢じゃないけど俺はバイトもしたこと無いからな!
ホント、自慢にもならないけど……。
しかしあれだな、働いてお金を稼ぐって悪くない感覚だな。
肩書だけじゃなく、ちゃんと仕事して報酬もらって……。
真の意味で今ようやくニート脱却ってとこかな!
「あ、今日も寝台使いたいんですけど」
「はい。では……、236番の寝台をお使いください」
カードを受け取った俺は、2階へ上る前に食事を済ませることにした。
いろいろメニューが並んでるけど、一品もので3~10Gぐらいするようだ。
ランチタイムより値段が上がるのは元の世界と同じか。
飲食スペースは8割ほど埋まっており、ほとんどの客がビールっぽい飲み物片手にハムやソーセージ的なものをつまんでいる。
「何にするね」
カウンターにいたのは昼間とは違う、渋い雰囲気のおっさんだった。
「普通の食事で安く上がるものってありますか?」
「なら日替わりディナープレートだな。8Gだが、プラス2Gでビールかワインを付けられるぞ」
俺はそもそも酒を呑む習慣がないのでとりあえず食事だけにする。
ってか、ビールもワインもあるんだな。
出てきたのはランチとほぼ同じだったが、パンが1個多いのと、スープがビーフシチューぽいのにかわっていた。
正直ランチと全く同じもので値段が上がっててもしょうがないと思っていたので、少しでもグレードが上がっていたのはちょっと嬉しい。
ハンバーグは昼間と全く変わらない味だった。
ビーフシチューっぽいのは結構美味かったな。
黒パンとの相性も良かった。
食事を終えた俺は、2階に上がって歯を磨き、浄化施設を使ってすっきりした後、寝台に入った。
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