第6話『待望の休息』
えーっと、俺さっき死んだよね? ギルドで。
「おーい、大丈夫ー?」
あれ、街?
後ろ見たら、いたよ、えーとアディソンさんだっけ? 門番の人。
「ああ、すいません」
とりあえず歩こう。
ってか、この風景、見覚えあるよね。
うん、落ち着け、俺。
「あ、そこ右に曲がってー」
そうだよね、ここ右だよね。
そういや、街に入ってすぐに【---を更新】みたいなの出てたな。
もしかしてそれって
【スタート地点を更新】
ってことじゃねーの?
つまり、死に戻りポイントが変化したってことか?
これは正直助かった!
でも、よくよく考えたら、世界救えってのに死ぬ度にあの森からってのはナシだよな。
セーブポイントみたいなのがあってもおかしくはないか。
「はーい、そこ入ってね」
というわけで、俺は再び冒険者ギルドに来たのだった。
**********
さっきとほぼ同じ流れで、質問をいくつか省きつつホーンラビットの角を売り、後払いで正式登録を済ませる。
で、この後だ。
油断するなよ……、<気配察知>全開で人にぶつからないよう階段を目指そう。
で、歩いてたら、いたよ、さっきのオッサン。
ちらっと見たら目が合ったわ。
慌てて目をそらそうとしたら、なんでか知らんけどこっち来たー!
「よう、お前さん新人かい?」
「ええ……、まあ」
やべぇやべぇ……、怒らせないようにしないと。
「ん? どうした?」
うわぁ、ビビって変な顔しちまったのかな?
「おいおい、ガンドルフォよぉ、お前に
ちょっと離れた席に座ってた連れっぽい人が野次ってきた。
「ああ、すまんな、怖がらせちまったか。なんでか知らんのだが、俺が睨むとみんな変にビビるんだよなぁ……。いや、今は睨んだつもりもないんだが……」
「ああ、いえ、大丈夫です」
別に睨まれたから怖いんじゃなくて、俺はさっきアンタに殺されたから怖いんだよー!
自分を殺した相手がいたらそりゃ怖いに決まってんでしょうがっ!!
「俺はガンドルフォ」
そういうとオッサンは握手を求めてきたので、応じておいた。
「えーっと、俺はショウスケです」
うわ、腕毛すげぇ!! ってか腕毛ってレベルじゃねぇ!!
……ああ、いや獣人だな、このオッサンも。
よく見ると短い角みたいの生えてるし、たぶん牛かなんかだろ。
そりゃちょっと押されただけでふっ飛ぶわけだわ。
「まぁ、アレだ。なんか困ったことがあったら気軽に声かけてくれや。一応Cランク冒険者だからよ」
「ああ、どうもっす」
あれ、なんかいい人っぽい。
うん、前回のアレは俺が悪いな。
殺されたっつーか事故みたいなもんだったし、恨みっこなしにしよう。
俺はその場でガンドルフォさんと分かれて階段を上った。
**********
ギルドの宿泊施設だけど、なんかあれだね、ネットカフェっぽいね。
薄ーい板で区切られてて、各寝台に簡単な扉が設置されてる感じ。
「209は……っと、ここか」
とりあえず試しに扉を開けようとするけど、全然開かない。
言われたとおり、扉の前に冒険者カードかざしたら、「カチ」っと鍵が開いたような音がした。
「よいしょっと」
うん、普通に開くね。
区切りの中は結構大きめのベッドと、小さい棚があるぐらい。
ベッドが大きいのは、ガンドルフォさんみたいなでかい獣人がいるからかな。
意外と清潔な感じだな。
ちなみにここ、荷物置きっぱなしで長期滞在みたいなことは出来ないらしい。
毎日昼前に清掃が入るから、必ず荷物を持って出て行かなくちゃならない。
でも清掃が終わった後はすぐに利用可能で、利用回数制限はない。
ここにほとんど住んでる状態って人も少なからずいるんだと。
まあ、俺も当分はここで暮らす感じになるのかなぁ。
「ああ、そういや汗やら泥やらでぐっちゃぐっちゃだな、俺」
というわけで、浄化施設ってのを使ってみよう。
このフロアの隅っこのほうにあるって聞いたけど……あ、これだな。
扉の前でギルドカードをかざしたら、残額が40Gになって、扉が開いた。
なんかここもネットカフェのシャワー室みたい。
っつっても脱衣所もなければ、シャワーもついてないんだけどね。
『浄化作業を開始します』
お、なんかアナウンスが流れた……と思ったら、部屋の壁や天井が淡く光り始めた。
で、1分もしない内に光が消えた。
『作業終了。ご利用ありがとうございました』
アナウンスの後、扉が自動で開いたから外に出た。
いやー、なんか不思議な感じ。
シャワー浴びて綺麗な服に着替えたような気分だわ。
たぶん魔法だか魔道具だかを使ってるんだろうけど、すげーな、『浄化』。
もしスキルとかで覚えられるなら覚えたいな。
**********
さて、すっきりしたところで寝台に戻ってきた。
ベッドっつっても
枕も、厚手の布を巻いただけのもの。
掛け布団もシーツみたいなのだけ。
まあ無料だし、体のばして寝れるだけありがたいか。
さーってと、横になろう。
……………………。
………………。
…………。
……。
「おーい、掃除すっから出とくれよー」
寝台の外から声をかけられて、俺は目覚めた。
えーっと、清掃が入るってことはもう昼ってこと?
「すぐ出まーす!」
頭はボーッとしてるけど、着の身着のまま荷物もカードだけだし、起きてすぐに仕切りを開けて外に出た。
外には掃除婦って感じの背の低いおばちゃんがいたよ。
「ねぼすけさんだねぇ」
「ああ、すんません。あの、軽く顔洗いたいんですけど、洗面台とかってあります?」
「ああ、そこ曲がってまっすぐいったらあるよ。ほい、これ」
おばちゃんがタオルくれた。
タオルっつてもガーゼタオルって感じだな。
パイル加工されてないや。
「終わったら洗面台の辺りに置いといてよ。どうせ後で行くから」
「どうもっす」
「ほいじゃあ今日一日がんばんな」
おばちゃんの指示に従って行くと、壁際に大きな洗面台があった。
10人ぐらいは横に並べるかな。
神社とかにある
水道の蛇口みたいなのはないけど、奥に溜まってる水を使って顔とか洗うんだろうな。
昼過ぎだってのに、5~6人ぐらいいるわ。
俺は開いてるところに陣取って、軽く顔を洗ってうがいした。
ああ、歯磨きしたい……。
「あの、すんませんけど、歯磨きとかってどうやってます?」
俺は近くにいた人に声をかけてみた。
「ん? ああ、売店に洗口液と歯ブラシ売ってるよ」
ネズミっぽい人が親切に教えてくれた。
「どうもっす」
軽くお礼を言って階段を降りた。
タオルはまだ使うから、このまま持っとこう。
1階に降りると、待合室みたいなところは8割ぐらい埋まってて、ほとんどの人が食事していた。
ってか、ここ食堂だな。
いくら<空腹耐性>があるとはいえ、こっち来てまともにメシ食ってないから、漂ってくる食事の匂いに腹がぐうぐう鳴ってるよ。
しかし俺は寝起きに歯を磨かないと気が済まないタチなので、売店を目指す。
「いらっしゃい」
「すいません、歯ブラシと洗口液が欲しいんですが」
「合わせて15Gだね」
あれ、意外と高いな……。
でもこれは必需品だしなぁ。
「えーと、カードで」
カード残額が25Gになる。
歯ブラシはたぶん獣か何かの毛を束ねて柄をつけたもので、洗口液は100mlぐらいの陶器の小瓶をくれた。
「あ、なんか清潔な小物入れみたいなのってあります?」
「浄化機能付きのポーチがおすすめだよ」
「このセットが入るので一番安いのだといくらでしょう?」
「浄化機能付きなら安くても200Gからだね」
足りねぇ……。
まあ、浄化は施設で受ける時一緒に出来るだろう。
服も綺麗になったし、手持ちのアイテムも綺麗になるはずだ。
というわけで、浄化機能付きじゃないツギハギのあるペラッペラの革の巾着を5Gで買い、カード残額は残り20Gになってしまった……。
空腹を我慢して2階に戻り、洗面所で”浄化済み”の棚にあるコップを手に取る。
洗口液は一口分の水に2~3滴垂らすだけでいいんだと。
洗口液入りの水を口に含む。
あ、これは元の世界の洗口液と似たような刺激だね。
一通り口をゆすいだ後、歯ブラシで歯を磨く。
お、なんか高級な感じで、結構磨きやすいな。
適度な柔らかさで歯茎を傷つけないけど、気持ちいい刺激はあるし、毛先が細いのか、歯の隙間もちゃんと磨けるわ。
こりゃ元の世界だと500円ぐらいはするんじゃね?
歯を磨いて口の中がすっきりした俺は、1階に降りて食事を摂ることにした。
腹が減っては戦は出来ぬ。
金も大事だけど、食事だけはおろそかに出来ないよね。
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