人類最強のヤンキー

@neet

第1話 コンビニの黒い穴

 俺は暴力が得意だ。

 放課後は河川敷で近くの高校のヤンキーと殴り合っている。敵のパンチを軽やかにかわし、我が一撃をみぞおちめがけて繰り出す。ヒットした時の快感はとんでもなく気持ちいい。近場のたまり場で口説き落としたギャルに別の意味で一発ぶち込む時の快楽と同等、いや、それ以上かもしれん。

 今日もまた、戦闘を終えた俺は近所のコンビニでスポーツドリンクを買うところだ。一仕事終えたあとの飲み物には格別の旨さがある。


「いらっしゃせー」


 大学生くらいの若い男の店員が気だるげに挨拶してきた。やるならもっとはっきりとした言葉遣いでやらんか。高校生の俺でさえ家ではきっちり挨拶をしろと父上に言われているというのに、最近のゆとりどもはどうも礼節がなってない。

 疲れきった体でどうでもいいことを考えるにも身体に毒なので、迷うことなく飲み物を取りに行った。が、時間帯が悪かったのか品出しの最中だった。

 いつものアレの前にはちょうど別の店員がカートを寄せて品物を入れているところだ。

 邪魔くせえ。いっそのことぶっ飛ばしてやろうか。と思ったものの、俺がやるのは正々堂々とした喧嘩なのであって、一般市民に手当たり次第に手を出すということはしない。

 ちょっと待っていたが、移動する気配が見えないので仕方なく今日は別のドリンクを買うことにした。


「なんかねぇかな」


 陳列棚を左から右へと舐めくる回すように見ていくと手前最下段の一角に奇妙な穴を見つけた。


「んだこれ?」


 穴があれば入れてみたくなるのが男の性だよな。だから、気軽に近づいて手をかざしてみた。

 なんだこれは。穴というよりブラックホールみたいな異空間というか。黒い霧がそこに存在しているかのような。邪悪を閉じ込めたボールみたいな形をした霧。

 隣りにいた店員はさらなる品出しの商品を裏手まで取りに行っている。レジの大学生はどこかに行ってしまっていた。

 今、店内には俺以外誰もいない。


「さわってみっか」


 冷蔵庫の取手を握力を使い果たした右手でしっかりと握りしめる。

 上腕二頭筋に筋力がこもり、造作もなく冷蔵庫の扉が開


「うわああなああああああああああああああぁぁぁああ」


 突然、穴から声が聞こえた。

 次第に声は大きくなる。

 俺は声の勢いに圧倒されてしまい不覚にも後ろのパンの棚までのけぞってしまった。

 そして、

 次の瞬間、


「ああああああああああああああああっと」


 メガネをかけた知能指数の高そうな黒髪の女が穴から飛び出してきた。

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