第7話 フクロウとネズミ

 俺の背後で絡んでいる二人の美少女の裸を想像しないようにしながら、俺は聞いた。

「助けをよばなくていいのか?」

「もう、フクロウを呼びました。」

 灰色の少女、スズメが思念で答えた。

 フクロウ?

 鳥なんか呼んでどうなるのかと疑問に思ったが、この少女の名前がスズメなのだからフクロウと言うのも人の名前に違いないと納得した。

 と言うか、そのフクロウ氏をいつどのように呼んだのかよく分からないが、手から赤いビームのようなものを出せる女の子の事だ、なにかしら不思議な術でも使えるのだろう。

 ……しかし、その赤いビームのようなものは、結局のところ何なのだろう。

「さっき、大きな虫と、赤い光線みたいなので戦ってたよね、あれは何?」

 聞いてみた。

「虫の事ですか?」

「いや、赤い光線の事。あれは魔法か何か?」

「質問の意味がよく分かりませんが……もちろん魔法です」

「そうか、魔法が使えるのか、すごいな」

 俺は素直に感心したが、

「わたしを馬鹿にしているのですね」

 スズメ――灰色の少女――は、不機嫌そうな思念で答えた。

「なんで? 馬鹿にしているつもりはない。」

「魔法なんて、獣でも虫でも使います。もちろんわたしも使います」

 スズメの思念は不機嫌そうだ。

「そ、そうなのか、いや俺……」

 俺は脳裏で言葉を選んで、

「この国に来たばっかりだから」

 そう答えた。

「来たばっかりだから、何ですか」

 相変わらず不機嫌そうな思念。

 どう答えようか迷っていたその時、鳥の羽ばたきの音が聞こえた。

「……来てくれた」

 スズメの思念。

 鳥が近くの木の枝に止まった音。

 そちらの方を見ると、そこにいたのは精悍そうな顔つきの……フクロウだった。

 人間ではない、鳥のフクロウだ。

「マジもんのフクロウじゃん!リアルフクロウじゃん!」

 ここまで思念だけで会話していた俺が、思わず声に出して突っ込んでしまった。

「我を呼んだのはお前だな、スズメ」

「来てくれてありがとう、長爪ながつめ

「なんか思念で会話してるし!」

 俺が声に出て突っ込んでいると、その長爪と呼ばれたフクロウがこちらを向いた。

「この男は誰だ、スズメ?」

「わたしも知りません。でも、この人が巫女様を助けてくれたようなのです。」

「お……俺の名前は勇気ゆうきだ」

「ふむ、勇気殿か。」

「長爪、あなたを呼んだ理由だけど」

「弱っておられる巫女殿を見ればわかる。人を呼んで来いというのだろう」

「お願いします」

「ふう、だれもかれもフクロウ使いが荒い。我は報酬を要求するぞ。後払いでよいが、旨そうなネズミを一匹だ。丸焼きにしてもってこい」

「……」

 スズメの怒りの感情が、微妙な思念として感じられた。

 何だろうと思っていると、長爪は重ねてこう行った。

「そう言えばスズメ、お前はネズミを飼っていたな? あれはなかなか旨そうだった、もしお前が余分なネズミを捕まえられなければ、あれでもいいぞ」

「あの子はあげません。でもあなたが要求するなら、わたしは他のネズミを用意します」

「約束だぞ? 用意できなければ、お前のネズミをいただくぞ」

 長爪はそう言って、飛び立っていった。


「意地悪なやつだな」

「仕方ないです」

 スズメはそう言った後、ため息をついた。

 しばらく言葉が途切れて、穏やかな風が木の葉を揺らす音だけが聞こえた。

「う……ん……うっ………」

 唐突に俺の背後に声が聞こえた。

「巫女様!」

「あ……ああ……ここは?」

 おれは、「巫女様」――ユリ、と言う名前だったか――が、目を覚ましたのだと悟った。

「大丈夫ですか、巫女様」

「……『希望の苗木』は?」

「希望の? 苗木……?」

 俺は二人の方を見たいと思ったが、まだ二人は裸のはずだから背を向けていた。

「……あなたですね」

 誰か――もちろん、「巫女様」ことユリだろう――が、こちらに向き直った気配がした。

「俺ですか」

 背中を向けたままで失礼化とは思ったが、そのまま返事をした。

「はい、こちらを向いてくれませんか」

 やっぱりそうなるか。

「服を着てくれたら、そちらを向きます」

「もう着ています」

 え、そんな時間あったっけ?

 俺はゆっくりと振り向いた。

 そこにはたしかに服を着た「巫女様」、ユリがいた。

 ただその衣服は俺の予想を超えていた。

 最初に着ていた簡素な、おとぎ話の魔法使いのような服ではない。

 十二単のような、ウェディングドレスのような、とにかく変わったデザインの、この森の中に似つかわしくないやたら豪華なドレスを着ていた。

 着るのに絶対に時間かかるやつだ。

 と言うか、一人で着られない服じゃないのか。人に手伝ってもらわないと着られないやつ。

 この短い時間でどうやって着たのか、そもそもその服がどこから来たのか、一瞬疑問に思ったが、まあきっと魔法なんだろうと自分を納得させた。

「改めて――よくぞわたくしの召喚に応えてくれました、『希望の苗木』様」

 敬虔な面持ちで、ユリは俺に向かって頭を下げた。


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