第4話 灰色の少女
お姫様抱っこだろうが背中におんぶだろうが、女の子を一人で運ぶのはどちらにせよ大変なことだった。
何度か休憩したのち、やっと俺は人を見つけた。
と言うか、何か大変な状況に遭遇した。
最初に見つけたのは、宙にほとばしる赤い光線。
あれはなんだろう? と思って、近寄ってみると、一人の少女が見えた。
俺が運んできた女の子よりもだいぶ幼い。
肌の色はちょっと見たことがないような、くすんだピンク色。こんな肌の色の人間は初めて見た。
少女と言ったが胸の膨らみは大変控えめで、身長を含めて考えるとたぶん10歳ぐらいなのかと俺は思った。
身にまとっているのは大変布地の面積が少ない、きわどい水着のような服装。
ベレー帽のような妙な帽子をかぶっているのだが、使っている布の面積は帽子と着てる服とで同じぐらいなのではないかと思った。
その少女が、無言で、舞うような動作で、宙に向けて指先から赤い光線を撃ちまくっている。
その少女を取り囲むように、蚊のような羽虫が何匹も飛んでいる。
それは悪夢のような風景だった。
だって、その『蚊のような羽虫』は、一匹の大きさが50cmもあるのだ。
俺なら逃げる。たとえ仮に害がない虫だと知っていても逃げる。
それでまた、その虫たちが、噛み付いてくるとか針で刺してくるとしても、十分に怖いのだが。
そいつらは、輝く弾丸のような何かを、少女に向かって撃っているのだ。
少女が撃つ赤い光線。
虫たちが撃つ輝く弾丸。
それらが空間を飛び交っている。
赤い光線が虫に命中する寸前で何かにさえぎられて消えたのが見えた。
輝く弾丸は少女が左手を振ると少女に命中する寸前で消える。
その光景は、子供のころアニメで見た、宇宙戦艦同士の戦いのよう。
これは、一体なんだ?
つまるところ少女の攻撃も虫の攻撃も有効ではないようなのだが、少女の表情は緊張に満ちている。
必死の戦いをしていると言う感じだ。
そう思ってみていると、虫の放つ弾丸を防ぎそこねたのか、少女の足から血が飛び散った。
離れて見ていた俺も思わず声を出してしまった。
少女は地面に倒れこむ。
背の高い草のせいで少女の姿は見えなくなる。
助けに行かなきゃ!
俺の心がそう叫んだ。
けど、俺はまだ例の女の子を背負っていた。
この子をどうすればいいか分からず、とっさに行動ができなかった。
そうしているうちに少女の倒れた辺りからひときわ多くの赤い光線が放たれた。
同時に虫たちの弾丸が少女の倒れた辺りを襲う。
俺は息を呑んだ。
赤い光線をまともに受けたらしい虫が一匹、ふらふらとゆれながら地面に落ちた。
それを見てか、残りの数匹の虫は高く飛び上がり、どこかへと飛び去っていった。
数秒後、草むらの中から少女が起き上がったのを見て、俺は安心してため息をついた。
無事だったのか。
俺はとりあえず、背中に背負っていた女の子を地面に下ろして、しゃがんでいた状態から立ち上がった。
「大丈夫?」
大きな声で聞いた。
その灰色の少女がこちらを向いた。
俺は小さく息を呑む。
灰色の少女の左頬が傷ついて、血が流れているのが見えたからだ。
さらに、その少女の表情は険しかった。
こちらを敵とみなしているのか?
俺は一歩後ずさった。
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