第3話 光線

 女の子の服をすっかり脱がし終えた。

 しかしまだ体が冷たい水で濡れている。このままでは凍え死ぬだろう。

 しばし迷ったが、俺は学生服のワイシャツで女の子の体を拭いた。

 それから上半身に、同じく学生服のブレザーを着せた。

 その状態でお姫様抱っこで女の子を抱えて移動しようと考えて、抱っこを実行に移してみたのだが、そのままでは彼女の太ももなどが俺の煩悩を痛く刺激しそうだった。

 自分がすっかり下着姿になってしまうが、致し方ない。おれは学生服のズボンも彼女に穿かせた。

 どちらに向かうかは難題で、つまり森の中のどの方向を見ても人家のようなものも見当たらず、道らしきものも確認できないのだが、俺は滝からつながる細い小川を下っていくことに決めていた。

 背の高い草で覆われた森の中より歩きやすそうだったし、水辺のほうが森の中より人に会えると思ったからだ。

 俺は歩き始めた。


 ほどなくして両腕に限界が来た。

 お姫様抱っこでの移動は予想していたよりもハードだった。

 普通に背中に背負うか。

 胸の二つのふくらみが俺の背中に当たるのがやばい気がして背負うのは遠慮していたのだが、そうも言ってられない状況。

 よし、しばらく休憩したらそうしよう。


 さらさらと水が流れる川辺で一息つく。

 ふと草むらを見ると、カメレオンのようなひょうきんな感じの動物がいた。

 これは知ってるぞ。長い舌を勢いよく伸ばして獲物をとるやつだ。

 そいつはのそのそと音を立てず歩きながら動いている。

 動く先を見ると、黒と紫の模様がある毒々しい小さなカエルがいた。

 舌で獲物をとるところが見られるかな?

 俺は期待して観察した。


 カメレオンのような生き物は、ゆっくりと口を開けた。

 喉の奥から舌が、ゆっくりと伸びてくる。

 舌が勢い良く伸びるか、と思ったら、その次の展開は俺の予想を超えていた。


 舌の先が青く光ったと思うと、そこから光る光線が伸びたのだ。

 ひゅん! と音を立てて光線は伸び、カエルを襲う。

 そこまでで既に俺の想像を超えていたのに、その光線はカエルに命中する寸前にパキーンという音とともにはじけ消えた。

 何が起きたのか。

 目を丸くする俺をよそに、カエルはピョンピョン跳んで逃げ出す。

 そこに、カメレオンがもう一度、光る舌の先から光線を放つ。

 今度の光線はカエルに命中、カエルは草の上からボトッと地面に落ち、ひくひくと痙攣した。

 カメレオンはそこまでゆっくりと降りていき、その口で、はむっとカエルをくわえた。

 そして、俺のほうを見た。

 なんだか、

「やんのか? コラ?」

 とこっちを睨んでいるような気がした。

「いえ、その、ごゆっくり」

 俺は何となく声に出して返事をして、手を振った。

「さよか」

 カメレオンがそう言ったような気がした。

 カメレオンはカエルをくわえたまま、草むらの中に消えていった。


 休憩している間に、女の子の裸体を見るだけでなく、その濡れた体を拭くというトキメキ体験のことを反芻しようと思っていたのだが、なんだかそんな思いは吹っ飛んでしまう奇妙な風景だった。

 女の子を背中に背負うと、予想していたように背中に女の子の胸の感触があったけど、それほど嬉しい気分にはなれなかった。

 いったい何だったんだ、さっきのは?


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