努力するものがいつも救われるとは限らない!?

紗夜

第1話 【原点】


【お前なんか生まれてこなければ良かったのに……】


【お前さえいなければ……】


そんな言葉を生まれてから何回言われ続けただろう?


『ウマレテコナケレバ、ヨカッタノ?』


私は何回も何回も自問自答した。


でも、答えらしき欠片すら見つけられなかった。


ずっと一人ぼっちだった。



私の父はいわゆる、酒乱だった。

今で言うところのDV(ドメスティックバイオレンス)だ。働きもせず、朝も昼も夜も酒を飲んでは家の中で暴れ、物を破壊し、家族に暴力を毎日のようにふるった。私の家族は父と母、兄、姉二人、末っ子の私ともとは6人家族だったが、荒れ狂う父のもとから逃げるように母は私が4歳の時に姉二人をつれて出ていった。兄と私を父のもとに残して。




「福山さん、福山 奏さん、聞こえますか?」



その声で私は現実に戻った。


目を開けるとそこは病院らしかった。何故、自分が病院にいるのかを思い出すのに少し時間がかかった。


「良かった、目が覚めて」


看護士さんはホッとした様子で私に微笑みかけた。


そうだ、私は………!?


現実を理解しようとした時、看護士さんの後ろから見知らぬ男性が私に話しかけてきた。


「私は○○警察署から来ました、担当の倉崎と言います。福山さんが未成年のため、保護させていただきました。家族の方と連絡を取りたいのですが、その前に福山さんにお話を伺いたくて…。」


20代後半から30代ぐらいの、その男性は言葉を慎重に選んではいるものの、機械のように淡々とそう話した。初対面の印象としては本当に最悪としか言いようがない。業務的に感情が感じられない、その言い方に吐き気がした。

こいつも信用できない。

絶対、私は心を開かない。

何も話さない。

逆に利用してやる。

この時の私は本当にそんな風に思っていた。





私は病院にいる間、午前は何の検査かも分からないまま、看護士さんに言われるがまま、いくつかの検査を受け、午後は何もすることもないまま、ただベッドの上で窓から外の景色をぼっーと見ていた。




トントン(ノックする音)




「○○警察署の倉崎です。福山さん、入りますね。」



『……はい。』



「福山さん、体調はどうですか?少しは良くなりました?」



『……はい。』



「僕もね、家が貧乏だったんですよ、でも母親が頑張って働いて僕を大学まで行かせてくれました。」



唐突に男は自分のことを話しはじめる。何を言っているのだろう?私に同情でもしているのだろうか?分からない、分からない。それに初対面の時と随分、しゃべり方が違う。もっと業務的に機械みたいにしゃべっていたじゃない。何でそんなふうに優しくしゃべりかけるの?

ヤメテ…お願いだから…。



「……奏さん?」



急に名前を呼ばれて、ふと我にかえる。彼は心配そうに私の顔をのぞきこむ。その時、私は初めて彼の顔を見た。髪は黒くて、少し短め。でもストレートでサラサラしてる。目は切れ長で少しキツめ。一瞬で目が離せなくなるような吸い込まれるような瞳の人だった。



『…いえ、別に大丈夫ですから。』








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努力するものがいつも救われるとは限らない!? 紗夜 @kanademi

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